007. answer
これは或る男の話。
その男は中立子である。中立子は髪・目の発現色素が豊富という例に漏れず、甘い乳白色の髪に、目が醒めるような紺碧の瞳をしている。
中立子は中立子でも、彼は上位中立子であった。それも、複数の特性――
男は幼少より剣術に熱心に打ち込みつつも、
意図的に集中力や運動能力を向上することは出来ないだろうか、と。
後者に関しては、無粋な運動選手宜しくドーピングを行えば可能である。しかし、(彼自身情けない話だとは思うが)副作用が恐ろしかった。
ならば、血液供給量や酸素摂取量、更には元々人体の内側で生成されるもの――神経伝達物質の分泌と生成に直接働きかけ、意図的に、尚かつリアルタイムで精密操作すればよい、と男は思い付く。
能力を持て余す
とはいえ、
だが、この
はたと我に返ったとき、男はそう思ったのだった。
***
右手を伸ばし、繰り出された長剣の突き。その刀身を折る為に煉はグルカナイフを振り下ろしたが、再び筋力による乱暴かつ精密な軌道変更により躱される。
こちらが反撃に出る猶予を一切与えぬ速度で長剣の突き、そして変則的に短剣による斬撃を繰り出しながらテオドールは言う。
「アスリートになれば、この
「マッドサイエンティストっつーのかバーサーカーっつーのか、酔狂なのな、君」
煉は軽口を叩きつつ、喉を狙う鋒をしゃがみ込んで躱し、その侭クラウチング・スタートの如し踏み切りで前方のテオドールへと低姿勢で刃を振りかぶる。膝を切り落とそうとしたその攻撃も、やはり見てからの後方跳躍により回避される。こちらが起き上がり体勢を立て直すよりも早く、テオドールは構え直した。
先手を取らせまいと、再び拳銃を四挺
テオドールは攻撃と防御を器用に行いつつ、更に
「276, 37, 」
座標入力――
――奴から見て前方、そしてやや右。高さは何処だ、何処に何を降ろす?
屈み、時に跳躍し、上体を捻り、逸らし、軸移動、と守りを徹底しながら思考する煉。
「300――. 《
入力終了と同時に迫り来た逆袈裟斬りを回避した瞬間、自分の頭、その真上で乳白色の雷光が爆ぜた。
――
嵌められた。
ここまでの剣捌き。全ては、この場所へ煉を誘導する為のものであった。
反射的に横へ跳ね退いた刹那、自分が先刻居た空間を刺す重々しい貫通音。乳白色の光輝を仄かに漂わせ、重厚な槍が三本、交差して床に突き刺さっていた。
「
オイ、と歯に圧を掛けながら放った斬撃も、
「剣主体ではありますが、『突き』に特化したという意味では後者だと
などと、ひらりと
「250, 42, 300. 《
先程とよく似た座標に、同様の
だが、その読みは浅く、甘かったと知る。
「D4
降り注ぐは、文字通りの“槍の雨”。
後方に跳躍せんとしたが、それを妨げるように後方及び横に隙間無く
背後の槍に気を取られがちになっていた、茜色の双眼。その視線と意識を前方に向けた、刹那。
銀色の閃きが、目前にあった。
剣先は突きに似た軌道を描き、更に付加されたるは
剣客テオドールが切断したそれ。
空中を舞い、緩やかな放物線の動きで落下へと入り始めたそれは、確かに、煉の右手首であった。
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