第41話 乱闘 地下室での戦い
3人のガラの悪い男達がこちらを馬鹿にするようにニタニタと笑った。
「おい。こいつ俺たちとやる気みたいだぜ」
「へへっ、面白い野郎だな」
「おい、テメェら。すぐに殺すなよ。最近人を殴ってねぇんだよ」
「分かってるさ。俺たち皆で仲良く丁寧にいたぶってやろうぜ」
3人の男たちも俺と同じく拳を構え、じりじりと近づいてくる。
まさか大都市のど真ん中に建つ大きな会社の中で不良に絡まれるとは思ってもみなかったな。
だが動揺している暇はない。クモモはあいつらに殴られてケガをしている。早くこいつらを片づけて治療しなくては。
3人の男のうちの一人が突然前に出てきた。
「俺様から行かせてもらうぜ! 喰らいなっ!」
その男は俺の顔面目掛けて勢いよくパンチを打ち込んできた。
遅い。
めちゃくちゃ遅い。
俺は相手のくり出してきた拳に俺の拳を合わせるように当てた。
グギィッ!
「がぁっ!」
痛ましい叫びとともに男の拳が砕けた。その痛みのせいか、男は地面に膝を付けてうずくまった。
今の俺は力を飛躍的に増加させるアイテムの『軍手』は付けていない。だが俺が着ている高機能インナー『バイオニックトランスファー』には身体能力を底上げする効果がある。
パンチ力はボクシングヘビー級チャンプ以上になっているし、動体視力も強化されていて相手の動きが遅く見える。
特にファンタジックな能力を持っていないただのチンピラ相手なら、これで十分だ。
「俺はお前らのようなチンピラじゃない。負けを認めて床に伏せるのなら許してやる。さっさと寝てくれないか?」
と残りの2人に向かって声をかけた。
「ふざけんなぁっ!」
「野郎っ! ぶっ殺してやらぁ!」
説得失敗。こちらからの呼びかけに大人しく応じるような奴ならチンピラになってないか。
俺は再びファイティングポーズをとった。2人の男が俺の両脇から挟み込むように襲い掛かる。
左から来る男のパンチをするりとかわし、腕にアッパーをお見舞い。男の腕の骨がポキッと折れた。
「んぎゃぁぁっ!」
それと同時に自身の体を回転させて、右から来た男に回し蹴り。蹴りは男のあばらにめり込み、細い骨がポキポキと折れる感触が足に伝わる。
「んぐふぅっ!」
2人の男たちはもだえ苦しみ、地面にうずくまった。
ふぅ。とりあえず襲い掛かってきたチンピラ三人を無力化することには成功したぞ。あとは……。
「おい、そこの壁の三人! やるのかやらないのか、どっちだ?」
この部屋の中には今倒したのとは別に、もう三名のチンピラがいる。さっきまで余裕綽々といった風に壁に寄りかかっていたのだが、先ほどの三人が倒れたのを見て警戒態勢を取っている。
「ヘッ、俺たちを舐めやがって」
「剣を抜け! 三人一斉に襲い掛かるぞ!」
「おう!」
三人のチンピラは腰からサーベルを抜いた。
刃物か。刃物を持ったところで俺の相手になるとは思えないが、用心のためにあまり近寄らせないほうが良さそうだ。
三人が突進するようにこちらに向かってくる。
俺は相手がキックの間合いに入った瞬間に、三人が持つサーベル目掛けて連続で蹴り上げた。
バン、バン、バンッ!
チンピラが手に持っていたサーベルの刃は一瞬にして、ぐにぃっと150度以上折れ曲がった。
「なっ……」
「ありえねぇ……」
チンピラたちは金属の刃をも簡単に折り曲げる俺のキック力に驚いているようだ。こいつは靴を新品に買い替えた甲斐があったな。
俺が今履いているスニーカーは格安衣料品チェーンの『ファッションセンターまいらむ』で調達したものだ。ちなみに税込み3000円。
何の変哲もないスニーカーだが、異世界の祝福でキック力増強の効果があるようだ。履き心地もよい。
「降伏はまだ受付中だ。続けるか?」
チンピラたちは折れ曲がったサーベルを床に叩きつけ、拳を前に構えた。
諦めが悪いな……。こっちはもう止めたいんだけど。
やれやれと思いながら、俺もゆっくりと拳を構えた。
とその時、
バンッ!
と部屋の扉が開け放たれた。
「大人しくしなさい! シルバーフレイム商人ギルドの査察よ!」
部屋の中に女性の声が響き、入り口からはマントを羽織った赤い髪の少女が現れた。
あれ? あの見たことのある赤髪のポニテ少女は……。
「メリルか! なんでここに!?」
「あなたは……カレタさん?! なんでここにいるの?」
メリルは驚きの表情を見せる。
「不正取引の証拠を押さえに来たはずやが、とんでもない現場に出くわしたようやな」
さらに続いて、おでこの広い小柄なおじさんが入ってきた。こちらの人は見覚えがない。
メリルたちの乱入に、俺とチンピラ三人は呆然と立ち尽くすのだった。
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