第23話 地の底で
縦穴の底に到着した。リフトは岩の地面すれすれで停止する。
地下空間には肉の焼け焦げた嫌な臭いが漂っていた。昨日ゴブリンをチンして放置したままだったからな。
俺たち四人はリフトから降りて辺りを見回した。
「これは凄まじいな……」
とオルガが驚嘆の声を上げた。
「うぬぬ……信じられん……」
疑り深そうなライドウのおっさんも戸惑いを禁じ得ないようだ。
リフトの周りには黒く炭化したゴブリンの死体がそこら中に転がっていた。
昨日はゴブリンを倒すのに必死だったから特に気にはならなかったが、落ち着いてから改めて見るととんでもない惨状だ。ゴブリン保護団体がいたら非難されまくるだろう。
オルガは周囲を少し動き回って、ゴブリンを観察しているようだった。
「かなりの数のゴブリンだ。1000匹以上は確実にいるだろう。ここまで大きくなったコロニーは私も知らんな」
「この天敵のいない古き民の遺跡を拠点としてその一団を増やしていたようですな」
とライドウが答えた。
自分でも異常な数だと思っていたが、オルガたちも同意見か。クモモもゴブリンの集団は大きくても100匹程だって言っていたからな。
「カレタが始末しておいてくれて助かったよ。これだけの数、俺たちでも危なかったかもしれんな。なぁ、ライドウ」
「認めたくはありませんが、そのようですな」
ライドウのパイナップルヘアがしおれたような気がした。
「さて、どのようにこれだけのゴブリンどもを退治したのかを聞きたいところなのだが……教えてはもらえない様子だな」
「ええ、それは機密事項なんです」
オルガは悪い人ではなさそうだが、ここはトラブルを避けるためにこちらの情報を不用意にさらすのは控えよう。
「それは残念だが、仕方のないことだろう。魔術師ギルドの連中も大きな威力を持つ魔道具というのは門外不出にしているからな」
魔術師ギルド? この世界には魔術師ギルドなんてものが存在するのか。どうやらここは剣と魔法のファンタジー異世界のようだな。
「カレタが使用したのは大方、炎熱系の魔力を込めた魔道具だろう。それも戦略級の高価なものだな。違うか?」
すみません。ホームセンターのお値打ち品コーナーで売れ残っていた3000円の安物の電子レンジです。
オルガは俺のことを魔道具使いと勘違いしているようだが、これは好都合だ。このまま現実世界から来た人間だということをごまかしておこう。
「何はともあれ、これだけのゴブリンの大集団を壊滅させてくれたのは喜ばしいことだ。ゴブリンというのは群れると非常に危険な存在となる。数が多いからというだけではない。群れが大きくなるとゴブリンに知恵がつき、対処がしにくくなるのだ。それに……」
そう言ってオルガは近くの床に転がっていた黒焦げのゴブリンの死体を剣で指した。今まで気づかなかったが、他のゴブリンの死体よりもずいぶんと大きい。
「群れが大きいと、こういう変異個体が現れる。その強さは筋骨隆々のオーガをも超えることがある」
ゴブリンの集団を丸ごとレンジでチンしてしまったので、各個の強さがどうだったかなんて全く気にしてなかった。知らぬが仏ということだな。
「オルガ様ー! こちらにお越しくださいー!」
遠くからライドウの声が聞こえた。俺とクモモとオルガはすぐさまそちらへと駆け寄った。
ライドウは地下大空洞の側面に開いていた小さな横穴の前に立っていた。
「ゴブリンどもはこの通路を通って各地の遺跡の出入口から姿を現していたようですぞ」
「ああ。そのようだ。通路脇のプレートに行き先が古代文字で書いてある」
横穴近くの壁には縦長の表札がかかっていた。そこには見たことのない象形文字のような記号が連なって書かれている。
オルガたちは日本語を話しているので、表札には日本語っぽい文字が書かれていることを期待したのが、全く知らない文字だった。これは古代文字だからだろうか。
「うーん、俺には全く読めませんね。オルガさんはこの文字を読めるんですか?」
俺はオルガに話しかけたのだが、そこにライドウが割り込んだ。
「当たり前だ。オルガ様は博識でいらっしゃる。領主たるもの、文武両道であらねばならないからな」
「領主? もしかしてオルガさんって――」
「そういえば言ってなかったな。ここから馬で3日のところに『シルバーフレイム』という都市があるのだが、一応私はそこの領主をやらせてもらっている」
他の兵士のオルガに対する態度から偉い立場だとは思っていたが、まさかそこまでとは。
都市というからには大勢の人がいるんだろうな。俺は異世界に来てからずっと森の中で他人と交流しないまま生活していた。そもそも異世界に人がいるなんて思いもしなかった。
異世界の都市『シルバーフレイム』か。いったいどんな所なんだろう。
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