第21話 オルガ、来訪

ゴブリンを駆除したおかげで俺の世界に平穏が訪れた。


ゴブリンの洞窟から帰ってきた俺とクモモは、すぐさま畑の修復に取り掛かった。


その次の日の朝。


「こんなにたくさんのジャガイモが取れたぞー」


俺が畑から引っこ抜いたジャガイモの葉の下には、大小さまざまな大きさのジャガイモが数珠つなぎに連なっていた。


その様子を隣で見ていたクモモは『わーい、わーい』という感じに前足を上げてバンザイしている。


ゴブリン共に畑を荒らされてしまったが、畑の修復は一日で完了した。異世界の祝福を受けたクワやスキなどの農具のおかげだ。


現実世界から持ち込んだ種にも異世界の祝福があるので、昨日のうちに種をまいておけば、今日の朝には収穫できる。異世界の祝福様様だな。


俺とクモモはたっぷりと収穫した農作物を木枠に詰め込んだ。そしてそれらを保管のために自宅の隣に立ち並ぶ倉庫へと運んだ。


倉庫の中には以前に収穫した農作物が山のように置かれていた。


「そろそろ倉庫が一杯になりそうだな」


異世界の祝福のおかげで農作物が一日で収穫できるのはありがたいのだが、それらを食べるのは俺とクモモの二人だけ。農作物の在庫は積みあがる一方だ。


現実世界に持って行って売りさばけたらよいのだが、あいにくとこの世界でとれた作物は御朱印ズゲートを通ることができない。つまり異世界で作った農作物は異世界で消費するしかないということだ。


「このまま腐らせるのはもったいないしな。いったいどうすれば……」


倉庫の中で悩んでいたところ、外の方から何かの動物の足音が聞こえてきた。


この重く鈍い音の響きからして、かなり重量のある動物だろう。異世界に来てから一度も聞いたことのない足音だ。


気になった俺は外を覗いてみた。クモモも俺についてきた。


すると、5頭の馬の集団がこちらに向かってきているのが見えた。馬の上には人が乗っている。おお! 第一異世界人発見だ。


先頭の馬には、肩までかかる長い銀髪で浅黒い肌を持つ精悍な男が乗っていた。年は俺と同じくらいだろうか。


その後ろに続くのはモヒカンのようなパイナップルヘアをしたいかつい男だ。俺より一回りくらい上のおっさんだ。


そのさらに後ろの馬3頭に乗っているのは、いずれも部下らしき若い男衆だ。


全員、歴史の教科書で見た中世ヨーロッパの兵士のような服装だ。中世の兵士といってもギラギラと輝く金属鎧を着ているわけではなく、動物の皮で作られた軽装鎧だ。


先頭の銀髪男の着ている鎧は、他の男たちと違って、華美ではないが整った金の装飾がされている。この集団の中で一番地位が上なのだろう。


などと考えていると、馬に乗った集団はすぐ俺の前まで来ていた。


口を開いたのは先頭の馬に乗っていた銀髪の男だった。


「人里離れた森の奥で、これほど立派な畑を見ることができるとは思わなかった。君がこの畑の主か?」


銀髪の男は丁寧な口調で話しかけてきた。驚いたのはそれが日本語だったことだ。


見た目はどう見てもヒスパニック系の人っぽいが、英語でもスペイン語でも訳の分からない異世界語でもなく、日本語を話していた。


よくよく考えるとこの異世界へは御朱印帳という日本的なアイテムを使ってやってきた。だから異世界人が日本語を話していてもそう不自然なことではないだろう。


「ええ、確かにこの畑は私が作りました。ところですみませんがお名前は?」


「おお、これは失礼した。私の名はオルガという。今、部下を引き連れてゴブリンの探索をしている最中だ」


ゴブリン? もしかして……。


「本来ならゴブリン程度の討伐にわざわざ兵を出したりしないのだが……。そのゴブリンのタチというのが非常に悪くてな。村の自警団の手には余るのだよ」


確かにあのゴブリンたちは狂暴でタチが悪そうだったな。


「そこでだ。そなたにはこの辺りでゴブリンを見かけなかったかを教えていただきたいのだ」


昨日のことを教えても特に問題はないよな。このオルガという人は物分かりがよさそうだし。


「お探しのゴブリンかどうかはわかりませんが……先日倒しましたよ。洞窟で2000匹程」


と俺が言った瞬間、オルガは驚きの表情を見せた。


だがその次に言葉を発したのは、その後ろのモヒカン中年だった。


「なっ……たわけたことをぬかすな! いくらゴブリンといえどもそんな数をお前一人で処理できるわけがなかろう」


そんないきなり大声出さなくても。


「ライドウ! 口を慎め」


オルガは後ろにいたモヒカン中年を叱責した。ライドウとかいうパイナップルモヒカンはオルガより年齢は上っぽいが、オルガの部下のようだ。ライドウは大人しく口をつぐむ。


オルガは黙ったライドウの代わりに話をつづけた。


「失礼した。だが私とてその話、にわかには信じがたい。そなたがよければ私たちをその洞窟へ案内してくれないだろうか」


「ええ、いいですよ。……そういえば、俺の名前を言ってませんでしたね。俺の名前は猛津 彼太(もうつ かれた)です」


「モウツ……カレタ……? 聞いたことの無い名だな。そなたが良ければカレタと呼ばせてもらおう」


「ええ、構いませんよ。よろしくお願いします。オルガさん」


「ああ、よろしく頼む」


こうして異世界人との第三種接近遭遇は穏便に済ませることができたのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る