第18話 銃弾、闇のむこうに
次の日。俺は畑近くに置いた木の台座に、ある装置を設置していた。カメラの脚立のようなスタンドを組み立て、その上部にマシンガンの銃身を取り付ける。
これは警備会社『セコソック』が誇るナンバーワン秘密兵器、『セントリーエアガン』だ。昨日の夜中にセコソックに連絡し、今日の早いうちに持ってきてくれるよう依頼しておいたものだ。
こいつの銃身の下にはカメラがついている。最先端の画像処理技術で侵入者を検知し、エアガンを自動的に発射。侵入者を瞬時に撃退するという優れものだ。
セントリーエアガンにはすでに監視カメラで撮影したゴブリンの画像を読み込ませてある。ゴブリンだけを狙うように設定されたはずだ。
さて、設置は終わったぞ。動作確認をしてみよう。スイッチオン。
電源を入れるとセントリーエアガンはギュインと旋回し、俺とクモモの方を向いた。しばらくは首を細かく動かして俺たちを観察しているような動きをしていた。だがすぐに敵ではないと判断し、向こう側を向いた。
よしよし。ちゃんと俺たちを味方と判断したようだ。次はゴブリンを攻撃してくれるかどうかを確かめよう。
俺は太い丸太を短く切ったものに白い紙を貼り付けた。
「クモモ、この紙にゴブリンの絵を描いてくれないか」
クモモは丸太に張り付けられた紙に、油性ペンでキュッキュッとゴブリンの似顔絵を描いた。
「さすがはクモモ。絵が上手いな。これならセントリーエアガンも反応してくれるだろう」
俺はゴブリンの似顔絵が書かれた丸太をセントリーエアガンの前に放り投げた。
ババババッ!
耳をつんざく破裂音が鳴り響いたかと思うと、丸太は一瞬でチリと化してしまった。
こいつは凄いな。やはりエアガンは異世界の祝福で強化されているようだ。圧縮空気でBB弾を撃ち出しているだけなのに、対戦車ライフルなみの威力になっている。
これならゴブリン駆除は楽勝だな。
―――
その日の夜。俺とクモモはゴブリンがやってくるのをログハウス内に隠れて待っていた。
スマホの画面にはセントリーエアガンのカメラ映像と残弾数が表示されている。
セントリーエアガンに補充したBB弾は3000発。これだけあればそうそう弾切れすることはないだろう。
さっそくゴブリンがやってきたようだ。セントリーエアガンがゴブリンの気配を察知して警戒モードに入った。
次の瞬間、木の陰からいきなりゴブリンが飛び出した。
ババババッ!
エアガンの銃撃でそのゴブリンは一瞬で肉塊と化した。
続いて後続のゴブリンが2体飛び出してきた。
バババッ! ババババッ!
その2体のゴブリンも一瞬で体中を吹き飛ばされて絶命した。
セントリーエアガンは上手く稼働しているようだ。ゴブリンを全く畑に寄せ付けない。
その後も順調だった。セントリーエアガンの銃撃は次々と現れるゴブリンを正確に撃ち抜いていった。
その様子を見ていると頼もしく思える反面、だんだんと不安が湧き上がってきた。順調に倒してはいるのだが……ゴブリンの勢いが一向に衰えない。
クモモによるとゴブリンのコロニーは通常2、30匹。コロニー同士が連合を組んだとしても100匹を超えることはほどんど無いという。
スマホに表示されたゴブリンのキルカウントは200を超えている。200匹以上倒しているというのに出現ペースが落ちないのは一体どういうわけだ。ゴブリンの数は予想以上に多いというのか。
現在の残弾数は1400発。ゴブリン一体につき6、7発ぐらい使っているので、あと200匹程度なら倒すことが可能だ。だが、それ以上のゴブリンが来たら――。
ウォ-ンッ! ウォ-ンッ!
スマホの警報音が今まで以上に大きく鳴り響いた。いったい何だ!?
次の瞬間、林の中からゴブリンの大軍が一斉に飛び出してきた。尋常ではない数だ。まるでイナゴの大軍だ。
地面を覆いつくさんばかりの大量のゴブリンは一気にセントリーエアガンに飛び掛かった。
バババババババババババッ!
ゴブリンの体が鮮血となって畑の周囲に飛び散る。嵐のような弾幕がゴブリンの集団を瞬く間に吹き飛ばした。
さすがは異世界の祝福を受けたエアガンだ。異常な数のゴブリンをものともせず処理してしまった。
だが安心したのもつかの間、俺はスマホの画面を見て愕然とした。セントリーエアガンの残弾数が残り300発以下になっていたのだ。今の弾幕で一気に弾を消費したようだ。
ゴブリンの勢いは先ほどより衰えたものの、その進撃は止まらない。頼む、もってくれ。
BB弾の残り――200発。
…………150…………100…………50……20……10………………0。
弾が切れた。
ゴブリンの声が次第に近づき、いつの間にかこのログハウス全体を取り囲んでいた。
外からはギャーッ、ギャーッという興奮したゴブリンの叫び声が聞こえる。俺とクモモは恐怖に震えながら抱き合っていた。
ここから逃げ出したいが、周囲を取り囲まれていては逃げ出すことは困難だ。強行突破しようにも、ゴブリンは小柄な代わりにかなり俊敏だ。この大軍を振り切って脱出するのは不可能だろう。
いや……、一つだけ方法がある。
俺は部屋の中に設置した御朱印ズゲートの方を見やった。
御朱印ズゲートは短冊状に折られた御朱印帳2冊で出来上がる現実世界と異世界とをつなぐゲートである。
普段は現実世界からホースを伸ばしてくるために庭に置いてあったが、ゴブリンに持ってかれたりするとまずいので部屋の中に移動させておいた。
この御朱印ズゲートを通れば俺は現実世界に帰ることができる。
このゲートは異世界のものは通ることができないので、ゴブリンが現実世界に渡ってくる心配はない。
だがそれはクモモもこのゲートを通ることは出来ないということだ。
俺一人だけ逃げ出して、クモモをこの危険な状況に置いていくわけにはいかない。
クモモが心配そうな目で見つめてくる。
「大丈夫だ。クモモを置いて逃げやしないよ」
こうなったら最後まで戦ってやる。俺は果物ナイフを構えた。クモモもどこからか包丁を取り出して構えた。
ガシャーン!
窓が割れる音。目の前の窓を破ってゴブリンが部屋の中に侵入しようとしていた。
俺はそいつめがけて果物ナイフをシュッと投げ放った。
グゲギッ!
ナイフはゴブリンの額に命中。耳障りな悲鳴を上げて崩れ落ちた。
その周りにいたゴブリンは少しひるんだものの、すぐに割れた窓を通って侵入してきた。
その時――――。
グフォッ! ガヒィッ!
ゴブリン達はいきなりせき込みだした。そしてのどを抑えて苦しみ始めた。
「これは、一体?」
侵入してきたゴブリン達は床に倒れこんだまま動かなくなった。
もしかして……。テーブルの上を見ると渦巻き型の蚊取り線香が小さな赤い火を灯していた。『セコソック』の人から粗品としてもらったものだ。
おそらくこの蚊取り線香の効果だろう。蚊取り線香は本来、蚊などの小さな虫にしか効かないはずだが、異世界の祝福で雑魚モンスター扱いのゴブリンにも効果が出たようだ。
蚊取り線香はあと3時間は持つ。お願いだ。ゴブリンが全員いなくなるまで燃え尽きないでいてくれよ。
―――
「ふ~っ。助かったー」
朝の日差しを浴びながら深呼吸。今日の命があることに感謝だ。
幸いにも、あの後ゴブリンは退却し、朝までやってくることはなかった。かなり用心深い奴らのようだ。
一応は助かったわけだが、まだ本当に助かったわけじゃない。今度いつ奴らが警戒を解いて攻めてくるかわからないからな。
畑は相変わらずめちゃくちゃだ。修復する必要があるが、あんなモンスターが近くにいるんじゃ直す気がおきない。
昨晩の恐怖を思い出すと怒りがわいてくる。あの恐怖を再び味わうことのないよう、今すぐ行動を起こさなければ。
俺の畑に手を出したことを後悔させてやろう。
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