第12話 インテリアコーディネーター
大グモと一緒に朝食のウサギのミートパイを美味しく食べ終えた。
その後は、ログハウス横のテラスから玄関前まで移動した。ピンク色の大グモが俺の後を、すすすーっとついてくる。
さて、めでたく異世界の珍しい大グモの餌付けに成功したわけだが、まず最初に何をやるべきだろうか。
「そうだな……一緒に暮らすのなら名前が必要だよな」
大グモはこちらをじーっと見ている。
「ん~……ピンク……桃色の蜘蛛だから…………そうだ! お前の名前はクモモだ! モモ色のクモでクモモ。どうだ?」
大グモは前足を自らのほうに向けて、『自分のこと?』というようなしぐさをした。
「ああ、そうだ。よろしくなクモモ」
俺が手を差し出すとクモモも同じように前足を差し出した。そして握手をした。クモモの表情から察するに、とても喜んでいるようだ。
そう言えばクモモについて少し気になっていることがある。
「クモモは他に仲間はいないのか?」
クモモはその行動を見る限り知能が高そうだ。おそらく社会性を持っており、集団生活をしているのではないだろうか。
他に仲間がいるのならば見てみたい。俺は身振り手振りを交えてクモモに聞いてみた。
するとクモモは近くに落ちていた木の枝で地面に絵を描き始めた。
おおっ、凄い! クモなのに絵画をたしなむとは。しかも上手い。やはりこのクモ、只グモじゃないな。天才グモだ。
クモモは地面にクモの顔を二つ描いていた。一方のクモは十字のついた王冠を被っている。もう一方のクモはティアラを被っていた。
「もしかして、クモモの両親か?」
クモモは『うん』と頷いた。クモモの親グモのようだ。
クモモはせっかく描いた両親の絵の上から、大きくバツ印を付けた。そして木の枝を器用に動かし、その上に羽のついた天使の輪っかを描いた。
「死んでしまったのか?」
クモモは寂しそうに小さく頷いた。
「そうか……俺と同じだな」
おそらく最近両親が死んでしまったのだろう。そのせいで餌をうまく探せずにお腹を空かせていたのかもしれない。
「実をいうと俺の両親ももう亡くなっているんだ。昔のことだから、今特に寂しいってわけじゃないんだが……やっぱり一人でいると寂しいんだ」
クモモは俺を心配そうに見つめている。
「だけどクモモと出会ってから寂しさが薄れた感じがするんだ。クモモはどうだ?」
クモモは『うんうん、私も』という感じで頷いた。
「そいつは良かった。じゃあ、これから俺たち二人、力を合わせて生きていくってことでいいかな?」
クモモは前足を突き上げて『いいともー!』のポーズをとった。
―――
というわけで、クモモには色々と手伝ってもらおう。
森での生活の基本は自給自足だ。何事も自分の力で進める必要がある。
いくら現実世界から持ち込んだ道具に異世界の祝福があるといっても、手数の問題があって、一人だと何をやるにしても骨が折れる。
クモモは脚が八本もあるし、器用で色々と出来そうだ。何から手伝ってもらおうか。
そういえば餌付けの最中、クモモが風呂敷を作っていたのを見たな。現実世界で普通に売っているのと変わらない見事な出来栄えの風呂敷だった。
「クモモは自分で出した糸で布を作れるんだよな」
クモモは『うん』と頷いた。そしてお尻から糸を放出。瞬く間に綺麗な刺繍の入ったハンカチを作って見せた。
凄い。この速度、このクオリティ。クモモ一匹で衣料品店を立ち上げられるレベルだ。
この技術を使えばログハウスの内装を一気に仕上げられそうだ。
自宅のログハウスは丸太を積み上げただけの簡素な作りで、これはこれで味はあるのだが少々殺風景だ。インテリアショップで絨毯やカーテンを探したことはあるが、総じて高い。買う気が起きない。
クモモの名人芸で自宅の内装を仕上げればずいぶんと節約できる。これだ。
「クモモにはこのログハウスの内装をお願いするよ。絨毯やカーテン、テーブルクロスなんかもいるだろうな。とにかくこの部屋の中を綺麗に飾ってほしいんだ。インテリアのセンスはクモモに任せるよ」
クモモは『任せて!』という感じで胸を叩いた。
クモモが作業している間、自分は外に出て畑仕事だ。
今の畑は30坪ほどの小さい畑だ。これを100坪程度まで拡張しよう。そうすれば今まで買ってきた野菜や果物を全て一度に植えることができる。
さっそくクワを構えて畑の隣に移動。平地を耕し始めた。
畑を倍以上に広げるのは大変だ。ほとんど作り直しのようになってしまった。周りを囲う柵も新たに作らないといけない。
作業は昼を超えても終わらなかった。自宅に戻らずに作業し続け、昼飯の代わりにリンゴをかじってしのいだ。
畑がようやく完成したのは夕方だった。ふ~っ、疲れた。そろそろ家に戻ろう。
そしてログハウスに入った瞬間驚いた。
ログハウスの床にはアールデコ調の幾何学模様の絨毯が敷かれていた。そして目の前にあるテーブルにはアールヌーヴォー的な個性的な装飾の施されたテーブルクロスがかかっている。窓はシノワズリな花柄のカーテンが飾られており、部屋の奥の方にはゴシック調の黒いソファが置かれていた。うーん、芸術的だ。
俺はただの木の小屋だった自宅の変わりように度肝を抜かれた。
入口で立ち尽くしていると、クモモが奥の部屋からやってきた。
「これ全部クモモがひとりで作ったのか?」
クモモは前足を腰に当てて『えっへん』と得意げな感じだ。
さらにクモモは何かに気付いて隣の部屋に走っていった。俺は後を追いかけて隣の部屋に入った。
クモモは部屋の中に置いてあるタンスの引き出しから何かを取り出した。服だ。
クモモは『着てみて』というふうに俺の前に見たことのない服を差し出した。
とりあえずクモモの言うとおりに着てみた……おおっ、ぴったりだ。採寸もせずにここまでフィットする服を作れるとはなんという才能だ。
クモモの作った上着とパンツはゆったりとしていて動きやすい。シックな色合いで中世ヨーロッパの町人が着ていそうなデザインだ。
今まではTシャツとジーンズという色気の全くない服装で過ごしていた。せっかく異世界で暮らしているのにこれでは興がそがれる。
中世ヨーロッパ風の服を着たことで名実ともに異世界にいる気分になってきた。これはバイブスがブチ上がる⤴⤴
「気に入ったよ。ありがとう。そこで俺からもプレゼントだ」
俺は外から木を模したフルーツスタンドを持ってきた。その枝の先には様々なフルーツを実際になっているかのように引っかけてある。
「どうだ。この果物全部がクモモの物だぞ」
クモモは喜びを表すように牙をカチカチと鳴らした。
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