第9話 マイ野菜料理

青々と茂った畑を目の当たりにして、興奮冷めやらぬ状態。


異世界の祝福は種子にまで及んでいるようだ。一夜にして農作物が育ってしまった。


さっそく畑の中に入ってみた。ニンジンの葉をしっかりと握って、そのまま引っこ抜く。オレンジ色の細長い身が姿を現した。う~ん、良く育っているようだ。


隣の列には玉ねぎの細長い葉が高く伸びていた。こちらも両手で葉の根元を持って引っこ抜く。その先には大きくて丸い玉ねぎがついていた。良く熟していて甘そうだ。


ジャガイモの根っこには大小さまざまのジャガイモが大量に付いていた。色々な料理に使えそうだ。


農作物を片っ端から収穫していった。畑の横には農作物の山が出来上がった。


とれたての農作物をそのまま放置しておくわけにはいかない。木の板で箱を作り、その中にどんどんと野菜を詰めていく。そしていっぱいになった箱はリンゴ倉庫の中に運び込んだ。


収穫した農作物を全て倉庫の中に運び込んだところでお昼になったようだ。スマホのアラームが鳴っている。


さて、昼食はどうしようか。それは決まっている。せっかくとれたての農作物があるんだからこれらを利用しない手はない。


倉庫の中に山のように積まれた箱を眺めた。


ジャガイモ、玉ねぎ、ニンジンがあるな。ということは……カレーだ。


そうと決まれば、スーパーでカレールーを買ってくるとするか。


さっそく御朱印ズゲートをくぐって現実世界に戻った。



―――



近所のスーパーの前に到着した俺は愕然とした。自動ドアの前に『閉店しました』という看板がかかっていたのだ。


「日本破綻の影響がここまでも……か」


困った。他にもスーパーはあるが、ここからかなり遠い。もうお腹が空いているっていうのに……。


確かカレールーはコンビニでも売ってたはずだ。気は進まないがコンビニに行ってみるか。


俺は引き返して帰宅ルート沿いにあるコンビニに向かった。


”ぴろりろりろーん、ぴろりろりー”


コンビニの自動ドアが開くとともに軽快なチャイム音が鳴り響いた。


ここは3年前に大手コンビニ三社が合併してできた日本最大のコンビニチェーン『セブーソンマート』だ。日本にあるコンビニの99.99%がこのコンビニである。


『セブーソンマート』はほぼ独占企業で、その強気な値付けで悪い意味で有名だ。正直言って、ぼったくりである。あまりここで買い物をしたくはない。


中をぐるりと観察すると、奥の方の棚にカレールーを見つけた。スーパーで売っているものより一回り小さいものだ。


値段を見ると……400円。高いな。これに消費税プラスで600円だ。スーパーならこれの倍の大きさで300円なのに。


だが今は非常事態だ。早く自分が育てた野菜で作ったカレーを食べてみたい。おまけにお腹が空きまくっている。俺は心の中で血の涙を流しながらカレールーをレジに持って行った。



―――



異世界の我が家に戻ってきたぞ。さっそく料理開始だ。


まずは下ごしらえだ。


洗ったジャガイモをまな板の上に乗せて一口大に切っていく。ニンジンも同様だ。


玉ねぎは半月状にくし切りにしてから、身をばらばらにほぐした。


次はフライパンの用意だ。フライパンに油を引いて強火で十分に熱する。


油がパチパチと鳴り始めた。そろそろ頃合いだな。


ここで切った野菜を全部投入。焦げないようにしゃもじでかき回しながらジュージューと炒めていく。う~ん、香ばしい。


さらに水を注いで弱火でコトコトと煮立てる。野菜が柔らかく美味しくなるように優しくかきまぜた。


最後にカレールーをひとかけら放り込んでしばらく煮込めば完成だ。


ご飯は炊飯器でもう炊いてある。木の皿にご飯を半分ほど盛り付けて、その上に作ったばかりのカレーをとろりとかけた。


カレー皿から白い湯気が立ち昇る。いい匂いだ。いただきまーす。


まずはジャガイモから食べてみよう。パクッ。ほふっ、ほふっ……美味しい!


このホクホク感はスーパーで買うジャガイモでは味わえないだろう。瑞々しい取れたてのジャガイモならではの食感だ。


カレーも食べてみよう。ぱくっ。うん、旨い! ニンジンと玉ねぎの深くて甘い味わいがルウに溶け出している。今まで食べた中で最高のカレーだ。


お代わりしつつ、満足するまでカレーを食べた。自分の畑でとれた野菜で作るカレーは絶品だった。



―――



食べすぎたせいで午後はしばらく動けなかった。午後三時ごろに体を起こして畑に向かった。


作物を全て収穫し終えたので畑には何もない。新たな農作物を植え付けよう。


ホームセンターで新たにトウモロコシ、さつまいも、枝豆、スイカ、メロンの種を買ってきた。全て調理の手間がかからない食べやすい作物だ。


空になった畝に種をまいていく。この畑に蒔いた種は一晩で収穫できるほどまでに成長する。異世界の祝福を受けたクワで耕したおかげなのか、種自体が祝福されているのかは分からない。


だがとにかく明日が楽しみだ。


俺は期待に胸を膨らませて、農作業に精を出した。


ちなみに今日の夕飯はカレーの残りでした。

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