第8話 農作業日和

次の朝。


今日は快晴。絶好の農作業日和だ。


さっそくホームセンターで買ってきた種をまきたいところだが、まく畑がない。


住居の周りは深い森だ。農地に適した広い平地はどこにもない。


まずは平地を作るところから始めなくては。


ログハウスを作るために木を切り倒した場所には切り株が残っている。この切り株を取り除いて平地を作ろう。


道具はシャベルを使う。切り株の根元にシャベルの先端を突き立てる。サクッとした軽い感触で土の奥深くまでシャベルの刃が入り込んだ。


そのまま、てこの要領で持ち上げると簡単に切り株が浮き上がった。さらに持ち上げると切り株がゴロンと地面の上に転がり落ちた。


異世界の祝福効果でシャベルが強化されている。簡単に切り株を取り除くことができた。


おかげで切り株を一通り取り除くのにそれほど時間はかからなかった。これで平地ができた。次は畑を作ろう。


クワを手に取り、どんどんと土を掘り返していく。こうすることで土が空気を含んで柔らかくなり、作物を育てるのに適した土地になる。


10分ほど耕すと30坪くらいの農地ができた。土を盛り上げて畝も作っておいた。


「よーし、畑の完成だ。お次は待ちに待った種まきだな」


まずはニンジンの種からだ。


スコップを使って畝に適当な間隔で窪みをつけた。そしてホームセンターで買ってきたニンジンの種の袋を破き、窪みの中に振りかけるようにして種を入れる。


上から土をかぶせれば完成だ。この要領で種をまいていく。


ちょうど一列の終わりで種の袋が空になった。


次は玉ねぎだ。隣の畝に移って玉ねぎの種をまいていく。それが終わったら次は種イモだ。


この調子でホームセンターで買ってきた種を全てまいていった。


仕上げに水やりだな……と、ここで困ったことに気がついた。水がない。


ここは異世界の原生林のど真ん中だ。水道や用水なんてない。


アパートの風呂場でジョウロに水を入れて持ってくるか? いや、往復が面倒くさい。


そうだ。こんな時のためにホースを買っておいたんだった。


御朱印ズゲートを通ってアパートの自室に戻る。部屋の隅には円柱状にくるまった長いホースが置いてあった。


ホースをほぐして片方の口を風呂場の蛇口に接続。そこからホースをどんどん伸ばし、御朱印ズゲートを通り、ログハウスの隣まで持ってきた。ホースの先端にはトリガーで開閉可能なシャワーヘッドをつけた。


手元のトリガーを引くと水がサーっと出てきた。シャワーで畑全体にまんべんなく水をやる。


「ふぅ。こんなものかな」


程よく水分を含んで黒く湿った畑を見ると、農作業をやり切ったという達成感が込み上げてくる。


これで畑の仕込みは終わりだ。しばらく放っておけばそのうち芽が出るだろう。


自分で作った畑をまんべんなく見渡してみる。まだ何かが足りない感じがするな。


畑は森の平地と地続きでぽつんと存在している。このままだと森の動物が畑の中に入って荒らしまわるかもしれない。柵が必要だ。


確か柵もホームセンターで売っていたな。買ってこようか。でも柵って買うと高いんだよな。一枚数千円とか。


丸太はまだ大量に余っているから自分で柵を作るとするか。


柵を作るためにはまず丸太を板に製材しなくてはいけない。


普通、製材にはテーブルの上に丸ノコのついたような機械を使う。だが小型のもので数万円もするので買いたくない。


でも心配はない。この世界では祝福の効果で普通のノコギリでも簡単に木を切ることができる。ノコギリで直接丸太を切って板を作ればいいのだ。


丸太を地面に置いて縦方向にすいすいと切れ目を入れる。適当な長さのところで横に切れば、あっという間に板の完成だ。


板材をとりあえず一千枚ほど作った。次はこの板材を使って柵を組み上げていく。


金づちで釘をトントン。板材を釘でつないで格子状の柵を作っていく。


出来上がった柵を畑のふちにぐいっと差し込む。これを畑の全周に繰り返した。これで畑っぽくなったぞ。


満足して畑の周囲を歩き回って眺めていたところ、入口が無いことに気が付いた。しまった。周りを全部柵で塞いでしまっていた。扉を作らなくては。


残っていた木の板を張り合わせて簡単な扉を作った。さらにログハウスに近い側の柵の一つを取り外す。蝶番で扉と柵とをつないで完成だ。


試しに扉をパタパタと動かしてみた。軋みもないし、いい感じに開閉するな。かんぬきを付けておいたので閉めれば勝手に開くこともない。


そろそろ辺りが暗くなってきたな。今日の作業はここまでにしよう。


さぁ、ログハウスに戻って夕飯の準備だ。


まずは底の深いグラタン皿に切ったリンゴを並べる。次にホワイトソースを入れて上にとろけるチーズをかぶせたら、塩コショウを少々。0.0005MWに合わせてレンジてチン。


これでリンゴのチーズグラタンの完成だ。


レンジから取り出し、テーブルの上に乗せ、いただきまーす! 自分で作った木のスプーンで熱々のグラタンを頬張った。


あっつっ……、うん、これは美味しい! チーズの塩気とリンゴの甘味とが絡み合う絶妙なバランス。一口食べただけなのに口の中でハーモニーを奏でている。


グラタン皿はすぐに空になってしまった。


お腹が膨れるとすぐに眠気が襲ってきた。一日中慣れない農作業をしていたせいだろう。疲れを溜めないためにも今日はもう寝よう。


寝室のベッドに横になって電気を消した。寝るまでの間は次の農作業の予定を考えていた。


作物が育つのは数か月かかる。その間、水やりや間引き、害虫駆除などやることは沢山ある。


農業は難しい。だが素晴らしい異世界生活のためにやり切って見せる。


俺は燃え盛る熱意を胸に滾らせながら眠りに落ちた。



―――



その次の朝。起きてログハウスから出た俺は、すぐに異常事態に気が付いた。


「なんじゃこりゃぁぁ!」


昨日種を植えたばかりの畑には緑が生い茂っていた。


畝の上には丸々としたキャベツの姿。あの大きいのはカボチャか?! あの特徴的な細かい葉っぱはニンジンだろう。


……異世界でやる農業は簡単でした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る