第5話 午後の部

完成したばかりのログハウスの中に入ってみた。外と比べると少し涼しい。


我ながらよくできたログハウスだ。秘密の別荘のようでわくわくするな。


部屋の中を見渡してみる。座って落ち着こうと思ったが、イスやテーブルが無い。だが心配無用。無ければ作ればいい。


丸太の残りが庭に置いてある。それを一本持ってきてノコギリでサクサクと加工する。接続部分はねじを使わず溝を作って組み合わせた。あっという間にイスとテーブルの出来上がりだ。


椅子に座ってしばしの休憩。今は昼だが、ログハウスを作っている最中に収穫したリンゴを食べていたのでお腹は空いていない。


だが喉が渇いてきたぞ。そうだ。せっかくリンゴが大量にあるんだから、リンゴジュースを作ろう。


アパートの部屋からミキサーを持ってきた。それと一緒に四角いクーラーボックス形状のソーラー発電機も持ってきた。このソーラー発電機があれば異世界でも電化製品が使える。


ソーラー発電機にはバッテリーも付いている。押し入れの奥にしまいっぱなしだったのでバッテリーは空になっていたのだが、異世界に持ち込んだ瞬間に残量MAXになった。本来なら真夏の日差しの中に丸一日置いても1,2割ほどしか充電できないのに。ソーラー発電機もこの世界では強化されるようだ。


ソーラー発電機を屋外に置いて、そこから電源コードを伸ばして屋内へ。そしてミキサーにつないで電源オン。ミキサーのカッターがグィーンと回転してリンゴをドロドロの状態になるまで切り刻んだ。


このまま果肉たっぷりのドロドロのリンゴジュースとして飲んでも美味しいのだが、のどが渇いている今はサラサラのジュースが飲みたい。


ドロドロになったリンゴを布に移し、コップの上で果汁をギュっと搾り取る。果汁100%のリンゴジュースの完成だ。


搾りたてのリンゴジュースをごくごくと一気に飲み干した。美味しい。普段は果汁を砂糖液で薄めた甘ったるいジュースしか飲んでないからな。


近頃は円安が進んで海外から輸入している果物の値段が高くなっている。果汁100%ジュースは以前の倍以上の値段になっており、気軽に買えるものではなくなってしまっている。


「さて、もう一杯作るか」


自家製リンゴジュースがあまりにも美味しかったので7杯も飲んでしまった。



―――



しばらくの間、ログハウスの床で寝転がって昼寝していた。


入口から庭を覗くと大量に積んであるリンゴが見えた。外は晴れているが、いきなり雨が降ることがあるかもしれない。野ざらしにしておくわけにはいかないから、倉庫が必要だな。


午後は倉庫作りから開始することに決定。


家の近くにリンゴ倉庫を建てるとするか。建築用の丸太の残りはまだ大量にある。


ログハウスと同じ要領で適当な長さに切った丸太をどんどん積み上げていく。二回目なのでコツはつかんでいる。思ったより早く倉庫を作ることができた。


倉庫ができたのでリンゴを運び込もう。


木枠を作って山積みになっているリンゴをめいっぱい詰め込んだ。木枠一つにつきリンゴが大体100個ほど入るようだ。


リンゴが詰まった木枠を倉庫に運び終えた後でその総数を数えてみた。


木枠は30個あった。それぞれリンゴが100個入るから全部で3000個。とんでもなく多いな。どう見てもひとりでは食べきれない。


もったいない。現実世界に持っていけばひと箱数万円で売れるのに。異世界の物を現実世界に持ち込めないのが悔やまれる。


だがこれで一生リンゴには困らないだろう。最低限、異世界で飢えることはなくなったわけだ。


空はもうオレンジに色づいている。夕方だ。


拠点の周りは一通り木を伐採したので見通しはいいが、その奥は深い森だ。薄暗くて何かが出てきそうな予感がする。


暗闇は怖い。これは人間の性だ。


そしてこんな時に役に立ちそうなものを買っておいた。クリスマスツリー用LEDライトだ。


こういう季節ものはオフシーズンになると捨て値で売られるようになる。ホームセンターの隅のワゴンに突っ込まれていたものを衝動買いしてきたものだ。


こいつで森を飾り付ければ少しは華やかになって恐怖心も和らぐだろう。


さっそくログハウスの裏の木々にLED付きコードを巻き付けた。そしてコードの端を発電機につないだ。


「おおっ!」


いきなりイルミネーションショーが始まったかのような明るさに驚いた。カラフルなLEDが点滅して薄暗い森を賑やかに彩っている。


心細さが一気に吹っ飛んだ。おかげで異世界の森の中で夜を過ごす気になったぞ。


事前に買っておいたシーリングライトをアパートの自室から持ち込んだ。こいつはLEDなのでかなり軽い。ログハウスの天井の適当なところに引っ掛けておけばいいだろう。


シーリングライトをログハウスの天井に取り付け、リモコンで電源オン。薄暗いログハウスの中が昼間のように明るくなった。


さらに布団も持ち込んだ。今日は初めて異世界で一夜を過ごす日だ。


その後、夕飯代わりにリンゴを食べたあとはすぐに布団にもぐりこんだ。伐採、収穫、家作りと色々とやって疲れてしまった。今日も早めに寝よう。


リモコンで照明の電源を切ると室内は真っ暗になった。


俺は布団の中で横になりながら今日一日のことを思い返していた。


今日は慣れないことばかりやって大変だったな。だけど会社で働くよりはずっと気が楽だった。どこかの誰かのためではなく自分のために働いていたからだろう。


さて明日は何をしようか。移住のためにやらなければいけないことはまだ沢山ある。


心地のよい疲れの中でいつの間にか眠りについた。

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