第38話 僕の罪
「来るなッ!!ツナキチ!!」
僕を近づかせない為、奏和ちゃんが泥水カッターで橋をザクザク切り刻んでいく。
濁流はスピードを緩めてないので、切り刻まれた宇治橋はどんどん崩壊しつつあった。
もう車一台の重量も支えきれないだろう。
何度も水に足をとられて倒れた。
何度も橋が揺れて川に落ちそうに成った。
それでも僕は彼女の元へと近づく。
彼女との楽しかった思い出を頭に浮かべながら……。
欄干もほとんど崩れ流された為、彼女もいつ川に落ちてもおかしくない状態だ。
時間がない。
このままだと崩壊した橋ごと僕達は一緒に流されてしまう。
濁り冷えた激流の中へ……。
「奏和ちゃん!聞いて欲しい!」
「何しに来たの?裏切り者。ミオンちゃんにも見捨てられた奏和を嘲笑いに来たの?」
「違う!ミオンは君を見捨てたんじゃない!君を救いに現れたんだ!君が好きだからこそ、これ以上罪を犯さないように止めに来てくれたんだ!多分ミオンは、ずっと君が暴走しないように止めてくれてたんだと思う!」
「奏和を救う?だったら奏和を鬼にした人間共を呪殺する事の方が、奏和の救いに成るはずだわ。なのになぜ止めるの?」
「ミオンが歌いたいのは呪いの呪文じゃない。人を楽しませる音、音楽なんだ。君の傷付いた心を癒やしていた優しい音の芸術なんだ。怨みを怨みで返していても解決に成らない。歌は人を呪う為に歌うもんじゃないんだ」
「アナタはそれが言いたい為にココに殺されに来たの?」
「君に告白しに来た!!」
「はあ?」
「君を愛してる!!」
「愛してる人間を警察に売ったのね。笑止。これは笑止だわ」
「愛してるからこそ君と一緒に罪を償う決意をして連絡した。僕も同罪だから」
「
「僕はこの半年間、君の中に得体の知れない【悪】が潜んで居る事に気付いていた。なのに周りに黙っていた。それが君の為だと思ってたからだ。けど、愛する人に気に入られようとする事だけが本当の愛じゃないと悟った。君と罪を一緒に償う事が、正しい愛の在り方だと解ったんだ」
そうだ。
半年前、僕が彼女の変異に気付いた時に先生やコヨリさんに相談するべきだった。
そうすればタク達までが死ぬ事は無かったはずだ。
そればかりか彼女にもっと早く告白してれば、彼女を自殺や復讐みたいな間違った方向に進ませないように出来たはずだ。
なのに「振られたらカッコ悪い」みたいな小心者のくだらないプライドが邪魔してグズグズしてた。
これは僕の罪だ。
「そんなの愛じゃないわ!同情。それは同情だわ!」
「同情じゃない!僕は――うわあぁぁ!!」
「きゃあああぁぁぁ!!」
「あぶないッ!!」
上流から流れてきた瓦礫がぶつかり、その衝撃で橋は大きく揺れ、奏和ちゃんが乗ってる欄干が崩れた。
僕はとっさに走り、両手で奏和ちゃんの左手を掴む。
彼女の身体は川の中に浸かり、流される寸前だった。
危なかった……いや、違う!まだ駄目だッ!!
激流の勢いで、僕の力じゃ奏和ちゃんの身体を橋の上にあげる事が出来ない!!
それどころか僕の身体まで引きずられて行く!!
「奏和ちゃん!!は、橋の上に上るんだッ!!」
だが奏和ちゃんは僕を睨めつけたまま、上がろうとする動作を起こさない。
死ぬ気なのか?
ま、まずい……このままだと一緒に流されてしまう。
な、何とかしないと――
そう思った瞬間、誰かが僕の身体を支えた。
「チャリオ!!」
「ツナ、
「チャリオ!危ない!一緒に流されるぞ!橋の袂に戻るんだ!」
「アホか!ミオンさんが『友達を助けるチャリオ君、ステキー!』って、歌ってはるやろ!手ぶらで戻れるかいッ!ボケッ!」
「お前ら、待ってろ!!今、行くッ!!」
「
「チャリオ!邪魔だわ!アナタ本当に邪魔だわ!何で奏和まで助けようとするの?ほっといてよッ!」
「アホかッ!!俺らユニットやろ!それにミオンさんのファンはみんな俺の
チャリオ……お前って奴は、本当に……。
「奏和、お前こんだけ皆に迷惑かけたんや!皆が泣いて喜ぶような、ごっつエロいミオンさんのイラストを百枚は描いて償えよッ!!」
チャリオ……お前って奴は……弁天様。構わないので、コイツだけ後でバチを与えて下さい。
「離して!この手離して!二人ともどっか行ってよ!奏和はもう死にたいの!死んで悪霊に成りたいの!」
「離すもんか!たとえ世界中の人間がこの手を離せと言っても、絶対離すもんか!!この手は一生繋いだままだ!」
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