第29話 陰陽師
「ふざけんなッ!何で俺らがお前にお願いされて人を
そうだ。なぜ僕達に頼む?
殺したい人物が居るなら自分達で暗殺できるだろ。今までみたいに。
何で3万人を人質にしてまで僕達に依頼する必要があるんだ?
意図が読めない。
「そうか!
「いや、残念ながら我々では無理なんだ。特に
カミゼンさん達が暗殺出来ない?
どんな相手だ?
それってカミゼンさんやコヨリさん以上の呪術者か?
「もし、引き受けてくれるなら君達の願いも叶えよう」
「えっ?」
「和田山君に対しての罪を認めて自首しようではないか」
「社長!アレはわたくしが!なら、わたくしが――」
カミゼンさんは引き止める秘書さんを黙って手で制した。
なんだ?この発言は?秘書さんも寝耳に水?
「彩は私の命令で【音】を聞かせてただけだ。私が捕まれば、これ以上【音】での不幸が起こる事はない。勿論君達も知らずに私の支持で【音】を人に聞かせるだけだ。罪の意識を感じる必要はない。元々の原因は私に有る。だから私が全て被る。悪い条件ではないはずだ」
どういう事だ?
人質3万人居るのに、更に僕達の言う通り自首をしてくれる?
真に受けていいのか?
いったい何を企んでる?
カミゼンさん達が近づけないのに僕達は近づける相手……どんな人物だ?
そうだ!きっと、その人物はカミゼンさんの犯罪を白日の下に晒せる唯一の人物なんだ!
何かの証拠を握った人なのかも知れない。
読み間違えてはいけない。相手の言葉を鵜呑みにするな。相手は策士だ。慌てず相手の本当の狙いを探るんだ。
「残念ながらその条件は呑めません。秘書さんは明らかに人が死ぬのをわかっていて【音】を聞かせてます。共犯です。それにカミゼンさんが誰を殺して欲しいか分かりませんが、これ以上誰一人として死人を出したくありません」
「調子に乗らないで欲しいわね。本当はとっくにアンタ達なんか――」
再びカミゼンさんは秘書さんを制した。
秘書さんは見た目と違って感情的に成りやすい性格かも。揺さぶるなら秘書さんだ。
そこからカミゼンさんの真意を確かめないと――
「いいのか?断ればまず君達が【音】を聞くことに成るが」
「僕達は御守りに守られてます。【音】の力は効きません」
「御守り?アレはただの布と紙だ。ただの気休めだぞ」
「それなら貴方のもただの音です」
御守りの効果を崩そうとしている。
負けるな。逆に相手のペースを崩せ。
「君のは他力本願の力だ。それに比べ私のは自身の力。どちらが上位か答えは出てる」
「違います。僕達はコヨリさんの力を信じている。彼女の守護神は結び括る神様です。僕達仲間どうしの強い信頼と絆を御守りに結び括りつけて有ります。だから
「ハッハッハッハ。臆病な子だと聞いてたのに……中々どうして、気丈な男の子じゃないか」
「忌々しい。その御守りを持ってたのね。それさえ無かったら――」
「彩!」
カミゼンさんが遂に口で制した。
秘書さんはかなり苛立っている。
僕達によっぽど恨みが有るのか?
確かに僕達は比企野さんを助けられなかった。その事を恨んでいるのか?
「分かった。やる」
「チャリオ!」
隣のチャリオが急に承諾した。
何か作戦が有るのか?
「誰を殺せばええんや?とりあえず、あの【音】が入ったレコーダー渡してくれや」
「本当に決心がついたのかな?では、まず私の目の前で証明してもらおう」
「どうやって?」
「外で盗み聞きしてる人物に【音】を聞かせてくれ。ツナ君のワッペンに向けて【音】を放てばいい」
やっぱりこのワッペンには……。
「何だよバレてたのかよ」
テントの入口から頭を掻きながら見慣れた人物が入って来た。源田先生だ。
「いやー、盗み聞きするつもりは無かったんだけどな。たまたま嫁が盗聴器入りのワッペンを渡しちゃって……」
ワッペンをくれた女性スタッフさんの名札には『源田』と書かれていた。やっぱりあの人は先生の奥さんだったんだ。
「よぉー源田!自慢の奥さん美人やな。あっ!今カミゼンに頼まれたんや。死んでくれ」
「君は何者かな?」
カミゼンさんは源田先生に対しても変わらず悠々とした態度だ。想定内なんだろう。
「こいつ等のクラブ活動の顧問だよ。ひでー教え子だろ?恩師を殺す気だぜ」
「表のガードマンは?」
「寝不足なのかぐっすり寝てるぜ。アンタとこブラックじゃないの?ちゃんと休暇あげないと」
「ただの教師では無いな」
「おっと!比企野彩さん!ポケットのレコーダーの【音】を俺に聞かせても無駄だぜ。この
先生の持っている札には『急急如律令』という文字が達筆で書かれている。
漫画で見た記憶だと確か退魔の御札だ。
おそらくカミゼンさんの呪い封じの為、誰かに貰った御札だろう。
「ほう。君は陰陽師か」
えっ?先生が陰陽師?
先生が自分で作った御札なの?
犯人探しをしている味方だとは気付いてたけど、まさか先生も呪術者だったの?
「御先祖様は確かに陰陽師だった。俺は占いをする程度だよ。嫁名義で陰陽道占いの動画をアップしてる。そこに今回の事件の遺族から依頼が有ったんだ。犯人を占いで見つけてくれってな」
「先生そんな事をしてたんですか?」
「占い動画は学生の頃からやってた。学校には内緒な。バレたら怒られるから」
「只でか?」
「今度何か奢るから黙っとけ!」
そうか!先生が陰陽道占いをしてるの知ってたからコヨリさんは卜占部の顧問を頼んだんだ。コヨリさんが掴んでる先生の弱みはコレだったんだ。
「俺はこいつ等より先に犯人探しをしていた。恥ずかしながらサッパリ手掛かりを掴めなかったよ。こいつ等が超音波呪文に気付いてくれたお陰でたどり着く事か出来たんだ。ツナ!チャリオ!黙ってて悪かったな。誰が犯人と繋がってるか分からなかったんで、今まで隠してた」
「いいえ。それは僕達も同じです」
「もしかしたら依頼主は黒文字の遺族かな?確か黒文字が学生の頃に陰陽道の曲を出していた。やけに詳しいので、知り合いに陰陽道に精通している人物が居ると思っていたんだ」
「ご名答。よく覚えてたな。そうだよ。俺は学生の頃、アイツと一時バンドを組んでいた。やんちゃ坊主だったが、殺されるほど
「人を呪わば穴2つ。陰陽師の諺だな」
「それがどうした?」
「
「はあ?マジかよ?いや、確かにアイツはすぐ他人を攻撃する所は有ったけど……自殺した人間がいたなら確かに気の毒だ。けどお前が裁く話でもないだろ?それだけか?それが黒文字達を殺した理由なのか?」
「理由?そうじゃない。彼らは呪いが返ってきただけだ。呪いとはそういうもんだろ?」
「ならお前にも返るよな?」
「勿論。覚悟は出来ている。だがその前にやらなければならない事がある。文字通り自分の蒔いた種は刈らないとな」
カミゼンさんは自殺した人の復讐の為に黒文字Pさんや九藤さん達を殺したと言うのか?だったら……だったら何故?……。
「諦めな、カミゼン。それは俺達で何とかする。さっき会場内で密教僧の団体を見かけた。越峰の話を信じて動きだしたみたいだぜ」
「残念ながら彼らでは無理だ。君達はまだ本当の力を分かっていない。私も色々試したが無理だった。だから私も殺す方向に切り替えたんだよ」
「殺す方向に切り替えた?これ以上誰を殺す気だ?あー、言っとくが警察も動いてるぜ。昼間に俺が怪しまれて職務質問されたよ。お前の実家を探れば何か見つかるかも知れないよー、って言っといた。そろそろココにも現れるはずだ」
「その刑事さん達は来られません」
秘書さんは涼やかな口調で答える。
「残念ながら先程、原因不明の突然死でお亡くなりになられました」
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