第23話 共犯者
あの時……比企野さんが亡くなった時、カミゼンさんが居たとしたら何処に居た?
校舎?いや、カミゼンさんを知ってる学生は沢山居る。騒ぎにならない訳がない。
変装して学校に入っても、不審者で通報される。おそらく学校内には居なかったはずだ。ならカミゼンさんの共犯者が、あの時学校内に居て、コヨリさんの手を切るほどの呪術を施した事に成る。
共犯者は学校内に潜む呪術者か?
でも、そんな凄い呪術者がうちの学校に居るなら、もっと前にコヨリさんが気付くのでは?呪術者が発するオーラみたいなものを感じとれると思うんだけど……。
うーん……少しでいい。
共犯者の情報が少しでも有れば……。
そんな簡単に尻尾を出す訳ないが……。
「カミゼンのヤツ、京都には昔からちょくちょく来てるな。愛人でも
「愛人?」
チャリオはスマホでカミゼンさんの過去を調べていた。
よっぽど羨ましいのか、虫でも噛み潰したような苦々しい表情で僕達に説明しだす。
「カミゼンは40過ぎの独身のオッサンや!やのに女の噂が絶えへん!腹立つけど超リア充や!めっちゃ可愛い女優さんとの熱愛報道も有ったし、今は美人秘書が内縁の妻って噂を聞いた事ある!京都に愛人囲っていても、おかしないやろな!クソー!鬼畜野郎がッ!コイツだけは絶対に許せーん!」
気持ちは分かるが怒りのテンションを上げる要因はソコじゃないぞ、チャリオ。
てかっ、秘書が内縁の妻?
「ちょっと待って、チャリオ!秘書が内縁の妻さんなら、その人が共犯者じゃないの?」
「あっ!そやな。可能性高いな。秘書やし、カミゼンの行動は逐一チェックしとるもんな。カミゼンの命令でタクや黒文字Pさん殺したのは、この秘書かもしれんな」
えっ?もしかして簡単に尻尾つかんだ?
「たぶんその人だよ!その人の名前は?」
「一般人やし分からん。いや、会社に電話したら分かるか。ちょっと電話してくるわ」
そう言ってチャリオは病室を1人出て行った。
……とは言ってみたものの、どうだろう?
もし、その秘書さんが本当に共犯者なら、愛する人の為とはいえ、見ず知らずの人を簡単に殺した事に成る。
恋する女性は……いや、大人はそんなに人を簡単に殺せるものなのか?
僕には正直、人をイジメたり、傷付けたりする人の気持ちが分からない。ましてや殺人犯の気持ちなんて理解しようがない。何かよっぽどの怒りや恨み事が有るにしても、人を複数人も殺すだなんて……。
「ツナ!何を考えてるんや?」
「コヨリさん。コヨリさんは好きな人の為に人を殺せる?」
「そやな。もし、好きな人が殺されそうなら殺すかもな。あっ!うちや無くて、その共犯者の立場を考えただけやで」
「うーん。ますます分かんない。もしかしたら共犯者さんも、カミゼンさんの術中にはまって暗示に掛けられているとか?カミゼンさんが超呪術者なら出来るよね。もしくは脅されて共犯者に成ってる線も有るか……」
「まあ、カミゼンの企みによるな。あっ!そや、大事なもん渡しとくな」
コヨリさんはそう言って病室の机から2つの紫色の御守りを取り出した。
「うちのお婆ちゃんと2人で祈祷した新しい御守りや。パワーアップしてるでー。これならカミゼンの呪文も、膝丸の呪いの音も全部跳ね返す。しっかり肌身放さず持っときや」
「……有難う」
「どうしたんや?不安そうな顔して」
「コヨリさんの力は絶大だ。それは分かってる。分かってるんだ……だけど前の時も結局僕達は比企野さんの持ってた録音に切られた。今度の相手はカミゼンさんだ。相当な実力の超呪術者だ。それに凄まじい呪いの妖刀【膝丸】を持って来るかも知れない。今度は
「ツナ、呪術者が特別な人間やと思う?」
「勿論。だって何の道具も使わずに人を殺すんだよ。呪文と音だけで人を殺せるなんて、タクが殺されるまで想像もしなかった」
「前に言ったけど確かに呪文はシビアや。うちやカミゼンクラスの超自然現象を起こせる位の呪文を扱える人間は限られてくる。けど、実は呪文は何も呪術者や魔法使いだけが使えるんやないで。呪文は日常に溢れてる」
「日常に溢れてる?」
「そや。例えばエリート営業マンが言葉巧みに商品を売る。例えばお笑い芸人が漫才で人を爆笑させる。これは言霊と念を使った呪文なんや。『物を買ってもらおう』『皆を笑わせてやろう』一生懸命にプランを練り、言葉に思いを込めて相手に伝える。言葉を心に受け止めた相手はそれに応える。立派な呪文や。勿論その言葉を否定して呪文を無効果にする事も出来る」
「けど、それはプロや才能が有る人が出来る事だよね。結局僕達素人は呪文にハマる側だよね」
「そんな事ない。カラオケでもめっちゃ熱唱されたら音程外してても、その歌が心に染みる事有るやろ?そう、ソウルフルや!呪文は声質やリズム、テンポも大事に成って来る。例え素人でも、下手くそでも、一生懸命言葉に念を込めたら誰でも呪術者に成れるんや。アンタの好きなボカロもそうやないの?うちも超音波呪文を聞いて改めて分かったわ。デジタル音声とか、作り手が素人とか関係ないんやろ。例え機械の声でも一生懸命思いを込めて作れば、世界中の人を感動させる呪文に成るんやでー。まあ、カミゼンの作った殺人呪文は論外やけどな」
「コヨリさん……」
「呪術者は特別やない。臆すること無いんや。もしかしたらカミゼンはカミゼンなりの正義を貫こうとするかも知れん。けど、あんな卑怯な呪文を作る人間の正義なんか、たかが知れてるわ。あんたの中に有る熱い正義の心を
「分かった。有難う」
「おーい!!ビンゴや、ビンゴー!!」
大慌てでチャリオが病室に戻ってきた。
ここ病院だから、もう少し静かにしろよ。
「何だよビンゴって?」
「今な、電話かける前に姫川先輩の病室行ったんや」
「姫川先輩の?」
「そうや。源田がさっき姫川先輩の見舞いに行ったって言うとったから、何か先輩から情報を掴んだんかなー、と思てな」
「それで?」
「姫川先輩が言うには、タクはあのデモ音をカミゼンの秘書に一度渡してるそうや。カミゼンに聞いてもらう為にな」
「えっ?カミゼンさんとタクの間にパイプ有ったの?聞いてないよー、そんなの!」
「先輩もタクから黙ってて欲しいって言われてたみたいや。『源田に話したんなら、教えてくれー』って、頼み込んで聞いてきた。えーか?ビックリやで!聞いて驚け、比企野や!」
「ん?比企野さん?」
「カミゼンの秘書の名前が比企野や!比企野藍沙の親戚やッ!!」
繋がった……。
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