第20話 1秒の完全犯罪
「ハイ。こちら110番です」
「すいません!!た、大変なんです!」
「ハイ。どうされました?」
「明日、宇治の
「えっ?それはどのような内容ですか?」
「い、いや……音でですね、その……なんと言うか……とにかく沢山の人が亡くなるかも知れないんです」
「テロ行為の予告ですか?どちらかで殺人予告の情報を見られたのですか?」
「それは……えーと……とりあえず明日の歌餓鬼は中止するように警察の方から……」
「失礼ですが、あなた様のご年齢は?」
「高校1年です」
「もし、この電話が悪戯だった時、イベント中止の負債は貴方の御両親が全額支払う事に成りますが、それでもよろしいですか?」
「……すいません。僕の勘違いでした」
僕はスマホの通話を切った。
そうだよ。カミゼンさんは殺人予告もしてないし、膝丸も所持して来ないかも知れない。
あの抜刀音を録音したレコーダーさえ有れば、会場全体に有るスピーカーにそれを流せば済む話だ。それだけで数万人が死ぬ。
警察が捜査しても録音してた音を消去するだけだから証拠も残らない。
殺すのも凶器を隠すのも僅か1秒だ。
1秒で大量殺人の完全犯罪が出来る。
警察が今まで僕等が調べた事を、本気で捜査してくれるとは、とても思えない。
警察を頼るのは無理だ。
どうすれば……どうすれば、この前例の無い凶器を使った大量殺人計画を止められる?
「ツナ!どうやった?」
「警察はヤッパリまともに相手してくれない。そっちは?」
「会場に問い合わせたら、カミゼンは当日の朝には会場に来るみたいや。詳しい事までは教えてくれへんかったけどな」
「どうする?」
「朝から行っても会場に入れてくれへんやろ。けど、何としても俺らで乗り込まんとな……まだカミゼンが犯人と決まったわけや無いが、この事件の重要人物で有る事は間違いないし、会って問い詰めんと……」
「僕達の存在に気付いてるのかな?」
「さあな。少なくともコヨリの存在には気付いている可能性高いけどな。コヨリだけ異質な切られ方をしてるし、コヨリ専用の超音波呪文を聞かされていた可能性がある」
「それは僕達も、その特別な超音波呪文を聞かされている可能性があるって事だよね」
「そうや」
僕とチャリオはコヨリさんの病室の階のデイルームで話合っていた。
病室では電話は無理だが、ここはスマホ等の電波を使用して良い事に成っている。
コヨリさんは今、診察中で面会は出来ない。
三人での作戦会議は一時中断だ。
どちらにしろコヨリさんは、まだ暫く退院出来ないから、明日の歌餓鬼には来れない。
僕とチャリオで動くしかない。
「僕達は黒幕に気付いて無い振りをして歌餓鬼に参加してみる?そしてファンだと言ってカミゼンさんに会いに行く」
「アポイント取れんやろ。イベント中に俺らみたいな小物に会ってくれるわけない」
「向こうが僕達の存在に気付いてたなら?」
「……なるほど。それならカミゼンにとって俺らはカモネギやぞ。準備万端で殺しにかかって来るやろな」
「こっちもそれを利用しよう。僕がオトリに成る。最悪、僕が死ぬ所をチャリオが撮影して証拠を残してほしい。少なくとも僕を殺した殺人罪がカミゼンさんに適用される」
「アホかお前。まだ海野達の事で責任感じてんのか?別にお前が殺したわけやないやろ。遅かれ早かれ、あの二人は比企野に殺されとったわ」
「けど……」
「親父が言うとった。医者は患者全員を救えん。患者を助けられんかった事をひきずってたら、自責の念で早死にするってな。自分の命を犠牲にするぐらいの根性有るなら、その根性で奏和にとっとと告白しろや」
「えっ?」
「お前が奏和に惚れてんのは分かってるし、奏和もお前に惚れてんのは誰が見ても明らかや。奏和が歌餓鬼の日に
「それは……その……」
「アホが!チョコ貰う前に先に告ったれや。そしたら奏和もチョコ渡しやすいやろ」
「チャリオ……」
「明日、カミゼンは捕まえるけど、イベントの方はちゃっかり楽しませてもろおーや。お前が奏和とカップルに成った時は、ミオンさんに『リアカノ作って申し訳ございませんでしたー』って叫びながら、ちゃんと土下座するんやで」
「わかった!」
土下座はしないけど。
「奏和の為にもお前は死ぬな。ええな」
「けど、どうする?どうやって殺人の証拠を掴んで、カミゼンさんを逮捕してもらう?」
「そやな。まずは、お前の言うとおり誘いだそか。カミゼンに直接メールしてくれ。わざわざ俺らの名前を教える必要ない。俺は『音霊くん』お前は『膝丸くん』や。あえて挑発したろ」
「なるほど!わかった」
僕はカミゼンさんの会社の問い合わせメールに、SNSの返信先と一緒に、こう送った。
『僕は膝丸という関西在住の高校生です。カミゼンさんのサインが欲しいので、宜しければ明日の歌餓鬼の会場でお会いしたいです。友達の音霊くんと一緒に行く予定です』
返事は思いの外、直ぐに帰って来た。
まるで僕達からの連絡を待ってたかのように……。
{はじめまして。カミゼンです]
{当日の18時でしたら、お会い出来ます]
{膝丸様のご都合はいかがでしょうか?]
「チャリオ!来た!18時なら会っていいって。どうする?」
「ライブが既に始まってる時間やな……イベント前や無く、ライブ中に俺らに会う意図はなんや?」
「本当は会う気が無く、その前に僕達ごと会場者全員を抹殺する気かも?」
「いや、カミゼンも俺らが何処まで知ってて、俺らの横の繋がりも気になるはずや。殺すなら聞き出してから殺すやろ」
「どうする?向こうの指定時間に合わせる?」
「罠かも知れんが合わせよ。逃げられるのが一番まずい」
「わかった」
僕は緊張で手を震わしながらスマホを操作した。今更ながら怖く成ってきた。
相手は『天才プランナー』と言われた人だ。
僕達より考えは一枚上手かも知れない。
動画サイトで見た感じも、いかにも頭がキレそうなタイプのどっしりした人だ。
僕達の付け焼き刃の作戦で勝てるか?
けど……けど後には引けない。
[分かりました。ではその時間に}
{では明日スタッフ専用テントに起こし下さい。お待ちしております]
何か気が抜けた。
あっさり決まってしまって逆に怖い。
「どうだろう?カミゼンさんは何を仕掛けてくる?」
「まあ、一筋縄ではいかんわ。コヨリと要相談や。相手は恐らく怨霊付きの呪術者やで」
「カミゼンさんは僕達が送ったメールだってことは気付いてるのかな?もし、気づいてるなら僕達の家とかに――」
♫♫〜♫〜♫〜♪♭〜
突然チャリオのポケットからミオンの声が流れた。派手な着信音だ。
驚かすなよ。一瞬ビクッとしちゃたじゃないか。
「ああ、これは気づいてるわ」
「えっ?」
「ほらっ!」
僕はチャリオにスマホ画面を見せてもらった。そこにはこう書かれていた。
『今から遅い昼食です。今日は久しぶりにコンビニ寄ってコレを買いました』
カミゼンさんのインスタだ。
そして画面には……。
その画面には、しっかり握られたツナサンドだけが、意味有りげに映し出されていた……。
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