第16話 理不尽
「夜中に声が響いたらアカンから、病室に指向性スピーカーを使用している病院も有るんや。指向性スピーカーなら一定方向にしか音が進まんから、ナースさんとの会話も周りにあまり響かへん」
「へぇ〜そうなんだ。でも、それが事件と何か関係有るの?」
「犯人は指向性スピーカーで殺したい相手だけ狙って殺してる。つまり無差別やない」
「そうか!事前に
「ただ指向性スピーカーは暴動やテロを抑える為のドデカイ奴も有るが、そんなんは簡単に持ち歩けへん。あの抜刀音を聞かせるだけやから、性能悪くて小さくても構わんが、距離には限界が有るはずや。せいぜい100メートル」
「九藤の会議室や南条のマンションにその距離まで近づけるということは、犯人はけっこう大物かも」
「比企野の
「分かった」
僕は鞄からクリアファイルを取り出す。ファイルには奏和ちゃんから貰った蒿雀ミオンのイラストと一緒に、呪殺されたと思われる人達の一覧表が挟んであった。リストの一番下には比企野さんの名前が書かれてある。
考えれば確かにハッキングでいちいち抜刀音を抜くのは手間がかかるし、そのうちサイバーポリスが気づくかも知れない。なら、殺したい相手だけに抜刀音を直接聞かせた方がリスクが少ない。
だが……。
僕はリスト者の関連性を調べようとした時、ある矛盾に気付いた。
「チャリオ。さっき姫川先輩が言ってた『金属音を聞いてない』はどう説明する?コヨリさんが切られた時は近くに犯人が居て、コヨリさんだけに指向性スピーカーで抜刀音を聞かせたとしても、姫川先輩は肝心の抜刀音を聞いていない。なのに何故切られた?」
「あっ!うーむ……まだ何かカラクリが有るのか……それとも推理が根本的に間違ってるのか……」
いったい何だろう?パズルがしっくり埋まらない。僕達の思考では、やはりこの事件を解決するのは不可能なのだろうか?
チャリオが思案中、卓上に置かれたミオンのイラストが僕の目に映った。姫川先輩が言っていたとおり、本当に歌声が聴こえて来そうだ。まるで生きてるかのように……生きてる?生きてるのか……まさか……。
いや!もし、ミオンが生きてるなら――
「チャリオ!」
「なんや?」
「怒らないで聞いてくれる?前に色んな可能性を考えないといけないって言ったよね」
「ああ。それがどないした?」
「もし、もしもだよ。膝丸に取り憑いていた土蜘蛛の怨霊が、膝丸から蒿雀ミオンに取り憑いたんだとしたら……」
「はあ?」
「いや、刀に取り憑いていた怨霊なら、非生物の蒿雀ミオンにも憑依するかも知れないと思ってね。つまりこの事件の黒幕は、土蜘蛛の怨霊が憑依した蒿雀ミオンで、蒿雀ミオンが自分の意思で超音波呪文を作って世界中に拡散させ、自分を裏切ったり、悪口を言った人間達を殺しまわっているんじゃないだろうか?ネットの中を行き来できるミオンなら、密室殺人も可能だ。スマホに忍び込めば姫川先輩も切れる。これなら全ての謎が解けるよね」
「……ツナ、それは本気で言ってんのか?」
「流石にそれは非現実過ぎるかな?ハハ……」
「アホかああぁぁぁあああ!!ミオンさんは女神や!怨霊とは対局の存在や!それを言うに事欠いてミオンさんを犯人扱いするなんて……最低や!お前はもう信じられへん。絶交。これは絶交や!!」
……いや、オマエ。僕が奏和ちゃんを庇ったら、人間の命が関わることだから全てを疑えと否定したよね。理不尽。これは理不尽だ。
「ええか!ミオンさんは今回の事件の一番の被害者なんや。歌いたくない超音波呪文を無理矢理歌わされたんやで。もし、この事が世間にバレてみ。ミオンさんのイメージはガタ落ちや。ミオンさんはちっとも悪くないのに、大量殺人の片棒を担いだように思われてしまう。それだけは何としても防がなアカン。せやから俺達で黒幕を――」
何かオマエ、最初と犯人操作の動機が変わってない?タクの仇討ちだよね?
「いや〜見事な弁天さんやわー。お兄さん、ちゃんとこれ神棚に祀っとくんやで。必ず御利益あるさかいなあ」
「えっ?あ、は、はいっ?って、このイラストの事ですか?」
いつの間にか僕の隣に派手なジャージを着たお婆さんが、ミオンのイラストに手を合わせて拝んでいた。
「ほれ、見てみー!お年寄りの言う事は間違いないんや!ミオンさんは女神様なんや!」
弁天さんって、確か琵琶みたいな楽器持った七福神の神様だっけ?お婆さんにはデジタルギターが琵琶に見えた?
「けどおばちゃん、これはミオンさんって言って弁天さんちゃうねん。まあ、神様なのは間違ってないんやけどな」
「ミオンさん
「チャリオ!二次元キャラに『さん』付けしたら変人だと思われるから!」
「ちょっとお兄さん、何言うてはりますんや。擬人化は京文化やおまへんか。今の若い人らの擬人化ブームは、うちら京都人の影響おすえ」
「はい?」
「お豆さん。お月さん。お馬さん。愛情込めて『さん』を付けてあげれば、きっと嬉しいはずどす。『あー自分も人間と同じように愛されてるんやー』と、愛情を感じとってくれるんどす。このお兄さんは間違ってやしまへん」
「あ……は、はい……」
「恥ずかしがったり、カッコつけたりしたら愛情は伝わりはしまへん。自分が愛しているものには、ちゃんと声にして、しっかり愛情を伝えてあげるんやで、なあツナさん」
「えっ?なんで僕の名前を知ってるんです?」
「チャリオさん。ツナさん。正月はお手伝いしてくれはったそうやなあ。おおきにな。孫の事は大丈夫。ちゃんと、このババが守るさかい安心しなはれ。それよりあんた等も犯人に狙われているかも知れへんさかい、あんじょう気ぃつけてな」
コヨリさんのお婆ちゃん……。
「お気遣い、ありがとうございます。コヨリさんから、その犯人の事は何か聞いてますか?」
「お二人さんが先走らんよう、口止めされております。孫と面会できるまで待ちなはれ」
「けど……」
「急がば回れ。それにあんさん等の活躍のおかげで、その道のプロも動き出してはります」
「その道のプロ?」
「そうどす。ここ京都は、その道のプロの溜まり場おすえ」
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