第3話 鎮魂歌
『冬休み中に突然死で亡くなられた一年二組の
「突然死か……やっぱり死因不明のままなんだね……」
「ツナキチ、お昼ごはん食べた?ブルーに成るのは分かるけど、ちゃんと食べないと体に良くないよ」
「うん……」
僕は売店で買ってきたサンドイッチを
けど食べる気分に至らず、封を開けないまま暫くサンドイッチを眺め続ける。
前方に視線を感じて顔を上げると、アヒル口を作って顔を
「メランコリー。これはメランコリーだわ。ツナキチが元気出さないと、死んだタクチンも安心して天国行けないよ」
「……そうだね」
三学期が始まっても僕はまだタクが死んだ事実を受け止められないでいた。
聞いた話では、タクは鍵の掛かった自分の部屋で、机に打ち伏せた状態で息を引き取っていたらしい。
亡くなる前日の夜、明日は午後から部室でミーティングする事を僕はメールで伝えた。
メールはすぐに返ってきたので、その時はまだタクは生きていたはずだ。
タクのお母さんが異変に気付いたのは当日のお昼頃だった。
11時には外出すると言ってたのに部屋から一向に出て来ない。約束事は守る性格だから変だと思い、お母さんは呼び掛けに行った。だが、ノックをしても返事が無い。携帯を鳴らしても出ない。嫌な予感のしたお母さんは合鍵で部屋を開けて急いで中に入ったが、既にタクは――
「タクが早目に部室に来てないから、おかしいとは思ったんだ……」
「タクチン、時間には真面目だったもんね」
タクが亡くなった事を知った近所に住む姫川先輩が、学校にすぐ知らせてくれたそうだ。救急車が停まっていたので、いち早く気付いたらしい。
だから僕達は早目にタクが亡くなった事を知った。
タクの恋人の
「比企野さん、今日も学校来てないみたいだった。やっぱりショックだったんだろうな……付き合って
「そうなの?
「そうなんだ。僕も詳しくは知らないけど、比企野さん、他の高校に彼氏が居たんだって。けど夏頃に彼氏が事故で亡くなって、それでタクが落ち込んでいる比企野さんを慰めているうちに交際が始まったって、タクから聞いた」
「ふ〜ん。続けて恋人を失ったのね。不幸。それは不幸だわ」
「姫川先輩もショックだったろうな。幼馴染みの後輩が急に死んで」
「タクチンが居るから、うちらの事も色々面倒を見てくれたんだもんね」
元部長の姫川先輩はタクの幼馴染みで、タクを弟のように可愛がっていた。
タクが音楽が好きに成ったのも、電子楽器を扱い出したのも、姫川先輩の影響だと思う。
『――では本日の一曲目は【蒿雀ミオン】の【プレイバイプレイ】をお送りします』
♪♫〜♫♪♭〜♫♫♪〜♪♪♪〜
「あっ!この歌、タクが好きだった奴だ。けど、けっこうマイナーなのに……姫川先輩が放送部にリクエストしたのかな?」
奏和ちゃんの返事は返って来なかった。
奏和ちゃんは目を瞑って、ノリノリでリズムを取りながら曲に聴き
鼻唄鳴らして、僕の問い掛けを全く聞いちゃいねえ。
「ねぇ、奏和ちゃん」
「♪〜♫♪〜」
「ねぇ、奏和ちゃん」
「♪♫〜♫♪#♫〜」
「奏和ちゃん!!」
「うるさいわねッ!!今、サビでしょ!!終わるまで待ってなさいよー!!」
「…………」
仕方ないので曲が終わるまで待った。
僕も耳を澄まして曲に集中した。
運動部の彼氏の成長をずっと撮影し、集めた思い出を編集している女の子の気持ちを歌った名曲だ。
スピーカーから流れる蒿雀ミオンの可愛らしい歌声は、静粛した部室の中をまさに走り回っている。
蒿雀ミオンが本当にこの部室に居るような錯覚を感じた。
そう、まるでミオンがタクの為に
「でッ!何?ツナキチ」
曲がアウトロに入って、奏和ちゃんはやっと口をきいてくれた。
「え〜と……何言おうとしたんだっけ?忘れた。まぁいいや」
「えー!気になる。それは気になるわ」
「大した事じゃ無いよ。それより
「ツナキチが誰か誘っておいて」
「うん。分かった」
「ちゃんとミオンちゃんが好きな人よ」
「分かってるよ」
僕はスマホを取り出し、アドレスを探った。
「誰誘おうかな……」
アドレスをスクロールしていると、奏和ちゃんが覗き込もうとしてきた。
「何?!何だよ?!何見ようとしてんだよ!」
「見られて不味い人を登録しているの?」
「いや、そうじゃ無いけど……普通覗かないでしょ?」
「怪しい。これは怪しいわ」
「何で怪しいんだよ!」
実は登録者が少ないから、見られると恥ずかしいんだよね。
「そうだ。姫川先輩誘ってみようか?」
「何で?」
「姫川先輩は推薦だから受験無いし、タクの代わりなら喜んで来てくれるかも」
「……そうね。けど、姫川先輩は
「他の先輩に聞いたけど、三年生で行く人は居ないって言ってたから、きっと姫川先輩は持って無いよ」
「そう……でも姫川先輩行くかな?ミオンちゃんのファンじゃ無いでしょ?」
「出演者はボカロPだけじゃ無いし、チョコレートイベントも楽しそうだから誘ったら来るんじゃないかな?」
「……ツナキチがどうしても姫川先輩に来てほしいなら構わないけど」
「とりあえず声を掛けてみるよ。駄目なら他をあたってみるし」
「りょ。これは『りょ』だわ」
姫川先輩がミオンのファンじゃ無いからって、奏和ちゃんは少し不満げそうだった。
だけど先輩はミオンのファンを公言して無いだけで、練習曲でもボカロ曲をよく使うし、ミオンの曲をよく知ってるから、少なくとも好意的には思っているはずだ。
「邪魔するでー!」
「邪魔だわ。これは本当に邪魔だわ。帰って」
「そうか、ほな帰るわ。さいならー……って、ちゃうわッ!」
「いい時に来た。今、奏和ちゃんと話してたんだけど、タクの分のチケット余ったから姫川先輩を誘おうかって、話してた所なんだ」
「ああ、姫川先輩来てくれるんなら
「姫川先輩がくれるチョコって、激辛とかビックリ箱とか何かイタズラして来そうで怖いんだけど」
「貰えたら御の字や。それよりツナ、ちょっと
チャリオは手招きしながら僕を呼んだ。
「何?」
「ちょっと!何よッ!奏和にはナイショなの?!」
奏和ちゃんが不服そうにホッペタを膨らまして、チャリオにパンチを撃つような仕草をみせた。
これを受けて、チャリオは
「ぐッ!そ、そうや……スマン!奏和!男だけの大事な大事なエロ話なんや。許してくれ」
「変態。これは変態だわ」
奏和ちゃん一人を部室に残して、僕とチャリオは廊下に出た。
電音部の部室は別館に有るため、お昼休みは
隣の軽音楽部の部室に何人か居るみたいだけど、防音壁なので中の音は漏れて来なかった。
「どうしたの?奏和ちゃんには言えない事?」
「んー……ちょっとなー。親父に口止めされてるからな。本当はお前にも喋ったらアカンのやけど……」
「えっ?!チャリオのお父さんから口止め?いったい何の話?」
「親父が監察医をやってるの知ってるやろ?」
「確か事件とか事故の死体解剖をする仕事だよね?」
「そうや。今からする話は絶対に誰にも話さんと約束してくれ。親友のお前やから話す。奏和にも姫川先輩にも絶対喋るなよ」
「分かった。約束する」
チャリオは珍しく真面目な顔をした。
コイツのこんな顔は滅多に見られない。よっぽどの事だ。
「実はタクの解剖は親父が担当したんや」
「えっ?そうなんだ!」
「本来患者の遺族でも無い限り、死因とかを立ち入って聞いたらアカンし、もし事件性が有るなら外部に漏らしたらアカンのやけど、俺は無理矢理お願いして親父に聞いた」
「タクの死亡原因を?何だッたの?」
「内臓破裂による出血性ショック死」
「内臓破裂?タクは部屋の中に居たんだよね?凄い勢いで机にぶつかったの?それとも何かの病気?」
「それが、全く謎なんや」
「どういう事?」
「破裂してたのは肺、肝臓、大腸、小腸。病気ならこんなに一度にまとめて破裂しない。外部からの衝撃にしても、皮膚や表面に外傷の痕跡が一切無いんや」
「えっ?」
「しかも内臓は肺から小腸まで綺麗に斜め一文字に裂けていたらしい。まるで鋭利な刃物で斬られたかのように」
「む、昔手術をした所が開いちゃったとか?」
「タクに手術歴は無い」
「大道芸みたいに刃物を口に入れて遊んでいた」
「口や食道には一切傷が無いらしい」
「お尻から――」
「
「……じゃあ、何で内臓だけ斬られてタクは死んだの?」
「全く解らん。親父も警察もお手上げ状態や。事件か事故か病気か、全く解明出来んのや」
「…………」
「それで、俺思ったんやけど」
「何を?」
「
「あっ!」
「もしかしたら同じ状態で死んでたんちゃうんかな。残り5人も……」
「まさか……」
もし、チャリオの言うとおりだとしたら……。
一体何なんだ?
皮膚を切らずに内臓だけ切り裂いて殺すって……。
しかも複数人同時に……。
何かに内臓を内から食い破られた?
それとも最新の科学兵器?
宇宙人の仕業?
「な、なんだろ?す、凄く怖いんだけど……」
「解らん。本当に解らん。だから誰にも話すなよ。この事が世間に広まったらパニックになるぞ」
僕は黙って頷いた。
__________
この時は怖がりながらも、そのうち警察や政府が原因を解明してくれるだろうと、どこか高を括っていた。
だが、謎の恐怖は更に広がっていく……。
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