夢見少女と僕と百夜物語
キウメブンシン
プロローグ
『恥の多い生涯を送ってきました』
と今ここで口に出したとしたら目の前の大人たちはどんな反応をとるのだろう。
ふざけているのか、と叱責を飛ばすか。ついに頭がおかしくなったのかと眉を潜めるか。
ううん、ここにいる人はみんなとても親切な人たち。うがった考えをしすぎた。私の悪い癖だ。自分の性格が悪いからいつも他人に疑いの目を向けてしまう。
きっと有香さんは私が緊張のあまりトンチンカンなことを言い出したと思い心配そうに私の肩を抱いている手で背中を撫でてくれるのかもしれない。
わざわざお菓子でも食べながら話しましょうと言ってくれた刑事さん、研究所からきたという職員さんが二人とも女の人なのも私に気を使ってのことなのかも。
でも私の兄がここにいたとしたら、「うん、その通りだよ」と返したに違いない。彼なら知っているから、私がどれほど情けなくて自分勝手な人生を送ってきたかを。
《人間失格》を初めて読んだのは二年前だ。でもなんだか自分のことを言われている気がして苦しくなり数ページで読むのをやめてしまった。
最近読み通してみたところ私と大庭葉蔵はそこまで共通点があるわけではなかった。あの時の私が自意識過剰なだけだったと思う。そもそも親が死んでまもない頃に読むべき本ではなかったかもしれない。
それでも、まだ三枚の写真のうちの一枚ほどしか生きてないとしても、今回の騒動を説明するには私の恥の多い生涯から話さなければいけなかった。
夢見少女と僕と百夜物語 キウメブンシン @akifumitouri
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