第2話
村野学院の文化祭は、地域の人が大勢やってくる一大イベントだ。三日間の開催だが、最終日は「お疲れ様会」のような側面が強いので、事実上二日間の文化祭だ。その二日間で一万三千人ほどの人がやってくる。はっきり言って殺人的な忙しさだ。
「ブラック企業? バカ言え。この学校の部活の方がよっぽどブラックだ」と、冗談まじりに語られる程度には忙しいと言えば、どれだけ忙しいかわかってくれると思う。
その中でも地学部は、やっている企画の物珍しさも相俟って、とてもたくさんの人がやってくる。
例えば地質班主催の砂金取り体験では、毎年多くの人が行列を作っている。取った砂金は持ち帰ることが可能で、お土産にする人が多数だ。
ロケット班は野球場を貸してもらって、モデルロケットの打ち上げを行っている。こちらは試射と違って、多少の雨でも強行するという豪快ぶり。一度見学してみたことがあるが、近くにいた人や、グラウンド内の野球部が、みんなで一緒に発射までのカウントをしているのはとても驚かされた。
そして最大の目玉は、我らが天文班のプラネタリウムだ。
季節ごとの星座を解説するものや、宇宙空間で太陽系の惑星同士を飛び回るという楽しいものから、今までの天文学の歴史を振り返るコアな番組など、各種番組の解説を、毎年行っている。今年はこれに加えて、例の流星観測の体験ができるプログラムも加えて、四つの番組を上映することになっている。
僕らの学校にあるプラネタリウムは、七十人弱を入れることができるプラネタリウムとなっていて、球形の大きなドームに、左右に設置されたプロジェクターから星空の映像を映すという本格的なものになっている。顧問の先生曰く、「維持費がバカにならんから大事に使えよ」とのこと。一度会計担当が聞いてみたことがあったらしいが、「この維持費を地学部の予算で支払ったら破産する」と言っていたので、めちゃくちゃな額だということはわかった。
そんなプラネタリウムで、一回十五分の番組を上映するのだが、一つの番組に対して解説役と、パソコンの操作役の二人がついて、お客さんに見せる。さらに、プラネタリウムの中と外に「門番」と呼ばれる係員を配置して、中で起きた問題に対処し、外の列を整理する。完璧な布陣だ。
しかし、この完璧な布陣はなかなかに重荷で、十五分の上映時間に加えて、準備と人の出入りに使う五分間。併せて二十分間の間、四人の部員がそこにとられるのだ。更に人気の砂金とり体験に必ず二人がとられ、ロケット打ち上げがある時間には更に三人がいなくなる。こうなると自由に動けるのは三人ほどになってしまう。今まで挙げた人気部門の他にも、やらなければいけない仕事はあるのだ。たった三人でそれを回すのは非常に酷だ。
それ故に文化祭の時の部活は、「ブラック企業」と言われる。
「……まあそれでも、休める時には休まないとね」
というわけで僕はそう言って、文化祭の時は控室に様変わりする器具庫で休んでいる。ちなみに少し前、OBの方から差し入れられたシュークリームを食べた一年生が悶絶している。開封済みの差し入れには柚子胡椒などの調味料が入っているというのは暗黙の了解として浸透していたが、一年生にそれを求めるのは酷だったようだ。口直しに持ち込んでいたチョコを渡したら、ものすごく訝しげな顔をして食べてくれた。今の時間はロケット打ち上げもないので、人数に余裕がある。こういう時はローテーションで休むのが通例で、今は僕と、悶絶している一年生の順番だということだ。
あと五分はゆっくりするか。そう思ったその時、突然器具庫のドアが開けられた。
「河埜ごめん! やらかした!」
そう言って入ってきたのは山口だった。
器具庫に緊張感が走る。まずこの時間、山口はプラネタリウムの担当。今この時間は入れ替わりの時間のはずだ。普通こいつは出てこない。
そして、興味がないとはいえ、山口は高校二年生だ。ちょっとしたトラブルなら解決できる。
すなわち、山口が駆け込んできたということは、ちょっとしてないプラネタリウムのトラブルということだ。
「……演目は確か」
「流星観測の体験」
状況が最悪の最悪だと、ここで確定した。
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