2.5次元舞台を見ていたはずなのに気が付いたら推しとともに原作乙女ゲームの世界に転移しちゃったOLの話

@iwaue_pengin

プロローグ

「一緒に元の世界へ帰ろう」

そう言って大好きな推しが手を差し伸べる、私の一番好きなラストシーンだ。


数年前にプレイしていたゲーム「妖精龍絵巻」、いわゆる「乙女ゲーム」だ。

主人公が異世界へ転移してしまい、その世界を救って元の世界へ戻る恋愛シュミレーションゲームだ。

昔の日本がベースではあるけど、龍だ不思議な術だという完全にファンタジーな異世界のお話。

異世界で出会う人々との恋愛をする、女の子の夢と憧れの世界だ。

かくいう私も当時そのゲームが大好きでプレイしていた。

その中でも大好きなキャラクターを私が応援している俳優、真下修二くんが演じることになり私の心は踊った。

どんな役だってどんな舞台だって嬉しいけど、推しが推しを演じてくれるというのは奇跡のようなことだ。

今公演は座長があの涼森裕一さんということでチケット争奪戦はかなりの激戦だった・・・。

真下くんも頑張ってはいるけどまだまだ若手俳優の中では成長途中、それに引き換え涼森さんはトップを走る存在だ。

舞台に出るとなれば激戦は必至なのである。

正直言えば「座長涼森さんかあ・・・チケット大変だなあ・・・」と思ったものの、一度はお芝居を見てみたいと思っていた方でもあるので真下くんとの共演は嬉しかった。

そんな舞台の初日、端っこの端っこ、最上手ではあるがなんと最前列のチケットをゲット!

運使い果たしたかなあと思っていたものの舞台は本当に素晴らしくて、懐かしくも美しいゲームの世界感が再現されており、私の推しはとにかくとにかくかっこよかった・・・。

もうかっこよくて何度心の中で大好きと叫んだか・・・。

それはさておき。


カーテンコールではエンディング曲をメインキャストが歌い、いわゆる「客降り」によるお客さまへのサービスが行われていた。

キャスとの皆さまは通路をハイタッチしながら歩き後方の皆さまへのご挨拶をしていた、私は最前列ではあるものの端っこということもあり遠くから見守っていた。

(あ、真下くんが上手の通路を降りてくる、やっぱりかっこいいなあ・・・真下くんのアオイ好きだなあ・・・こっちくるなあ・・・え、こっち・・・ん・・・?)

通路を下ってきて最前列の通路を通り、気が付くと目の前まで真下くん演じるアオイが来ていた。

(うわあ、近くまで来てくれた嬉しい)

近くで見れるだけで幸せだった私はそれはもう幸せそうなだらしない笑顔をしていたに違いない。

そのまま目の前の真下くんは少しかがんで私の手を取りぎゅっと握ってにっこり笑ってくれた。

(うわああああ死んでもいい・・・)


その瞬間だった。


舞台の両端に取り付けられていたきらびやかなシャンデリア。

それがこちらに向かって落下してきた。

周囲のお客さんの悲鳴と逃げるようなそぶりを感じるより先に、目の前の真下くんをケガさせてはいけないという気持ちが優先した。

私の向きからでは彼を落ちてくるセットの下敷きになる範囲から突き飛ばすのにも間に合わないというとっさの判断で彼の身体の上に回るように、彼をせめて下へ、というところまでは覚えている。

周りの女の子たちの悲鳴に混ざって少し離れたところにいたはずの涼森さんが叫びが聞こえた気がした。

大きな衝撃を全身に受けつつ、とにかく薄れゆく意識のなかでどうか彼が無事でいるようにとひたすら祈った。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る