File-04『昭和三十九年八月七日②』
最近、売り出し中の中堅代議士は若い愛人とセックスする時、必ず、愛人の実家に電話をかけさせ、愛人が母親と何気ない日常会話を交わしているところを後背位で突き立てて激しく射精する瞬間に人生の至福を感じるらしい。
以前、〈師匠〉から聞いた実話だ。
「まあ、人生の至福ってぇのもいろいろだ」
地位や名誉とは無関係の生活を送る
健全な一市民として生きていくために必要な栄養はビタミンなんかじゃなくて「刺激的で安全な嘘」だ。だから――〈師匠〉の小説も「刺激的で安全な嘘」として買われているに過ぎない――と、
「この時間帯、29系統はないな」
一度、
そして、
「久しぶりね――あたしをご指名ってことは、やっと〈
「まだ――分からない」
「でも、こんなところで呼び出すのは関心しないわね。他の女だったら、とっくに愛想を尽かしてるわよ、桐ちゃん?」
女の声は早口でまくし立てるが、洗面所の鏡を見つめる表情は変わらない。それは、
長いこと呼び出していると、その数倍の期間、偏頭痛に悩まされることになるが、仕方ない。
†††
都電に乗り換えた
一方、神宮で国鉄と戦った阪神は
「桐ちゃーん、プロレスの記事、見せてぇ」
しかし、紙面に
昭和38年9月18日、
二人の大横綱――
「
「そんなことは分かっているわよ」
それでも、
昭和20年代後半、急激に台頭したプロレスに対抗するため、トトカルチョを導入した際には、戦前からの相撲ファンからの猛反発もあった。しかし、この改革によって大相撲はプロレスを駆逐し、同時に東京都の貴重な財源になった。まあ、その副産物として、取組後の升席はいつも暴動寸前になっていたりもするのだが――。
いまや、プロレスは滅びゆくスポーツ興行であり、当の
窓の向こうには巨大なガスタンクと半壊した高層アパート群が見える。砂町を象徴するふたつの建造物を確認すると、
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