この小説を読んだらもれなく何がついてくるんですか?

ちびまるフォイ

この世界で一番いらないパッケージ

「ご一緒にポテトはいかがですか?」

「あ、結構です」


「ではお飲み物はなににしますか?」

「いえ、大丈夫です」


「今ならナゲットもおつけできますが」

「いりませんって!」


「ではせめてスマイルをつけさせていただきます」


「もういいって!」


ハンバーガー1つ買うだけでこんなにも手間がかかると思わなかった。

だんだん断る自分がとんでもなくケチな男に思えてきてしまった。


腹ごなしを済ませると今度はケータイショップへ。


「実は、今のスマートフォンが壊れてしまって。

 同じもので、同じプランで再度申し込みできませんか?」


「ええ、もちろんですよお客様。

 ですが今は特別にさらにお安くできるプランがあるんです」


「いやぁ……今のままでいいです」


「そんなお客様にはさらに回線速度が早くなるプランがあります」

「あの、そういうのいいんで」


「そうですか……では、せめて動画見放題パックはおつけさせていただきますね」

「いらないよ!!!」


よくわからないものをつけられてたまるか。

こっちが求めているものだけを提供してくれればそれでいいのに。


「ったく余計なことをするんだから、もう……」


紆余曲折あったがスマホを新調することができた。

なんとしてもすぐに治したかったのは理由があった。


「あ!! ミキちゃんから連絡来てる!!!」



"サトシさん。


 先日の告白について改めて答えを考えてみました。

 まだ気持ちが変わっていなければ付き合ってもらえますか?

 

 明日の15時に〇〇のファミレスで待っています"


「ふおおおおお!!! やったぁぁぁ!!」


告白の答えは待望のOK。

昨日スマホが壊れたので答えはどうなのか気になったが杞憂だった。

時間もないのでファミレスに急ぐと彼女は待っていた。


「サトシさん来てくれたのね」


「もちろんだよ! 君のためならどこへだって行くとも!

 それで、改めて確認するけど俺の彼女になってくれるの!?」


「……はい ///」


「やったーー!! こんなにも新年早々ハッピーなことがあるなんて!!」


「でね、私と彼女になったらもれなく友だちもついてくるんだけど」

「ハ~イ」



「……え? 誰?」



「私の彼女のゴロンゾーラ・マサミちゃん。

 中国拳法を習いに日本に留学してそのまま不法入国を続けている

 次代のプログラマーを夢見ている路上アーティストよ」


「ハ~イ。ヨロシクオネシマス」



「ちょ、ちょっとまって。ミキちゃんは、俺の彼女になってくれて……」


「そう。私と彼女になると、もれなくマサミちゃんが友だちについてくるの」


「は、はぁ……。友だち増えるのはいいけど……うん……」


「私たち、すっごく仲良しだからデートするときもいつも一緒に呼んでね。

 ふたりきりという言葉には常にマサミちゃんを含めているから」


「いや、俺はミキちゃんと一緒の時間がいいんだけど……」


「オー! 日本のダンセー! 女性ヒドイ言イイマス!!」

「マサミちゃんのこと何も知らないくせに!! そんな人だと思わなかった!!」


交際0日目にして二人は破断した。

原因は俺がマサミちゃんを認めてあげなかったこと。


「なんでこんなことに……」


傷ついた自分の心を食欲でもって穴埋めするため、

おびただしい量のコンビニスイーツをレジに持ち込んだ。


「今、このスイーツを買ったお客様にはご一緒にポテトもおつけしています」

「いりません」

「ではコロッケを」

「いりません!」

「からの?」

「フリもいりません!!!」


「でもおつけしないと逆に高くなりますよ?」

「なんで!?」


「この世界のさまざまなもののロスを無くすために、

 "パッケージ法"が決まったんです。常になにかセットで買ったほうがお得なんです」


「つまり……本当に欲しい物だけを手に入れるよりも

 一緒にゴミも手に入れないとダメだ、と?」


「清濁あわせ呑んでこそ大人っすよ」

「うるさいな!!」


どうして彼女が友だちをつけたのかもすべて合点がいった。


ウエハースにシールがつくように、この世界のすべてはパッケージでできている。

封入されているシールを手に入れるためにはウエハースを買う必要があるんだ。


「なんでこんなめんどくさいことになったんだ……!

 俺は、俺がのぞむものだけを手に入れたいのに!!!」


「そう思うか青年」

「今の声は!?」


「君がこの世界のパッケージ化に疑問を感じているのなら

 裏路地にあるバーに来なさい。そこで話し合おう」


バーに向かうとすでに何人かの大人が待っていた。


「ようこそ、パッケージレジスタンスの本拠地へ」


「パッケージレジスタンス?」


「そう。我々はなんでもかんでも余計なものをつける

 パッケージを否定するために集まった飲み友だちだ」


「そうなんです。俺も余計なものをくっつけたがることに抵抗を感じていました!」


「市民はものを買う機械ではない。気持ちがある。

 好きなものだけを選び買ってい良い自由があるんだ!」


「そうだそうだ!」


バーにいるレジスタンスたちも立ち上がった。


「明朝、我々はパッケージ廃止を訴えるために国の本拠地に乗り込む。君も協力してくれるか」


「今なら協力するとポテトもついてくる、とかないですよね」

「バカ言え。我々はシンプルな要求しかしないよ」


「やります!!」


俺はレジスタンスとともに本拠地に乗り込んで占拠した。

中にいた国のトップは青ざめた顔をしていた。


「き、君たちはいったい何が目的だ!? か、金か!?

 金を受け取れば今ならもれなく白いお皿もプレゼントするぞ!?」


「ふざけるな! 俺たちはそんな世界に一石を投じるために来たんだ!」


「どういうことか、わかるように説明してくれ!」


「俺たちの要求はただひとつ。余計なパッケージを消してくれってことだ」


「し、しかし……パッケージするようになってから廃棄品も減った事実もある。

 誰もが自分の要求だけを手に入れたら廃棄されるものが増えるんだよ!」


「そんなこと、わかってる!!

 だからってその廃棄ぶんをパッケージにして押し付けていい理由にはならないだろう!?」


誰だって賞味期限が長い奥の方の牛乳パックを取るだろう。

そうして手前にある賞味期限短い牛乳は余ってしまう。


「よすんだ。これ以上説得しても意味はない」

「リーダー……」


「我々はここに自分の要求を通しにきた。それだけだ。

 もれなくこいつを説得するというオプションは付けなくていい」


「ひいっ」


リーダーの向けた銃口に国のトップは脂汗を流す。


「で、どうするんだ? 答えを聞こうか?」


「わかった!! 余計なパッケージはこの世から消すと約束しよう!!

 ただ、その要求を通すにひとつ提案がついてくる!」


「提案?」


「いきなりパッケージをなくしてしまえば大混乱だ。

 まずは1つずつ、この世界で余計なパッケージを消していくというのでいいか?

 世間が大混乱してしまえば他のパッケージ廃止も難しくなる」


「いいだろう。ただし1つだな。約束しろ」

「ああ、約束する。この世界で一番いらないパッケージを消す」


そうして俺たちレジスタンスは1つのパッケージを消す約束を取り付けた。

パッケージひとつが消されてからその後、どうするかをお互いに相談しながら方針を決めるようにした。


「みんな! レジスタンスの勝利だ! かんぱーーい!!」


「これからは自分たちの欲しい物だけが手に入る世界になるぞ!」

「かんぱーーい!!」



その夜、国は約束を果たし1つの余計なパッケージを消した。



『国に歯向かうレジスタンス』という名のパッケージを。

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