最終話 もう異世界はコリゴリだよ~

 翌日。俺達は竜の巣に来ていた。

 周囲の溶岩に熱された空気はサウナの如く暑い。

 そんな中で、俺はコンジキのねっとりとした視線ばかりが気になっていた。

 街で勇者コンジキのファンを自称する女に訊ねてみたところ、あの男は地元の男全員に手を出した罪で王の御前に連行され、そこでなんかいろいろあって勇者適性を発見されたらしい。それより前はむしろ好色青年としての武勇伝ばかりだったとか。真面目に生きてるゲイに失礼だと思わないのか。

 余計なことを考えていたため、足元に落ちていたバナナの皮に気づかずすっ転んでしまった。手足元確認ヨシ! なぜここにバナナの皮が?

(お笑いが足りないと思っての。仕掛けておいたぞ)

 脳に直接話しかけるな! やっぱり邪神じゃねえかよ!

「大丈夫かジンペー。ダンジョンは慣れないだろうが、俺達も全力でフォローする」

 すかさず手を差し伸べられた。こいつ優しいなあ!

 優しさの裏に見え隠れするドス黒い欲望に思いを馳せつつ、俺は再び歩き出した。ハクギン氏は面白そうにこちらを見ている。

 暑さのせいか、それとも奥に潜む主に怯えているのか、特に魔物が出るようなこともなく道中は退屈そのものだった。それに気を回してか、メイさんは言う。

「そうだ、ジンペーくん。なぜ君をスカウトしたのか話しておこっか」

「身内人事では?」

「違うから!」

 ベシっと頭を叩かれた。メイさんは体罰を嫌うタイプだ。それは今でも変わっていないらしく、自分の行動に疑問を持つ。

「あ、あれ? なんでだろ。ごめんごめん」

 そのまま頭を撫でられる。約得だ。

 どうやら俺がボケると相手はツッコんでしまうらしい。メイさんに通用していることを鑑みるに、ツッコんだ時よりも魔術耐性を抜きやすいようだ。

「君のレベルが大したことないのはわかってる。今回は君のギャグ補正……死なないことを頼りにしたいんだよね」

 なにやら不穏な物言いだが、メイさんに頼りにされるのは嬉しい。な○う系なら、なんだかんだあってこのまま良い雰囲気になれそうだ。

「ここからは俺が説明しよう」

 道の奥を指差し、コンジキは言う。

「この洞窟は、その名の通り火竜の住まう巣だ。俺達は、火竜の宝であるという火炎の鎧を目指している。そのために、君の力が必要なんだ」

 なんか端折ってないか?

 しかし彼は何かを誤魔化すために説明を端折ったわけではなかったらしい。

「着いたぞ。この先に火竜が居る」

 見上げる程の巨大な扉は、ここに住まうものの体躯を連想させる。山のように巨大な竜。それを今から相手取るのだ。ゴクリと生唾を飲み込むと、そんな俺の肩にコンジキが手を置いた。

「期待してるぞ、ジンペー」

 手付きがヤラシイんですけど。

「さ、開けるよ」

 ハクギン氏が扉に手を当てると、周囲に無数の魔法陣が浮かび上がった。それから、音を立ててゆっくりと扉が開いていく。その奥に居たのは――

「遂に来たか、勇者共よ!」

 甲高い声。

「我は竜王バルファス。この地の魔を統べる者よ!」

 豪奢な椅子に鎮座していたのは、ずんぐりむっくりまるまる太ったカピバラみたいなミニドラゴンだった。

「なんだ、火竜って言うからとんでもねえデカいのが出てくるもんだと思ったけど、実際は可愛い奴じゃねえか」

 俺は無防備に駆け寄り煉獄火炎に包まれた。なんか凄いところに来ちゃったなあ。レベル1なのに。

「あっつ!?」

「人の子よ。見た目で相手を判断しない方がいい」

 神様だってロリババアだったもんな!

 黒焦げになった俺は、慌ててコンジキ達の元へと戻る。

「あんな奴勝てるのか!?」

「真正面からじゃ勝てない。だからジンペーをスカウトしたんだ」

「俺の力が必要なのか?」

 な○う系なら、俺の秘められた力が覚醒して大活躍するところだ。そんな力に心当たりはないのだが、彼らが執拗に俺が必要だと言うのだから、きっとなにかがあるのだろう。

「そうだ。この戦いの鍵は君が握っている」

 言いながら、彼はバルファスの背後を指差す。

「あそこにあるのが火炎の鎧。強力な炎耐性を持っている。アレを身につければ、俺はステゴロでもバルファスを倒す自信がある。でもアレがないと軽減魔法を使っても焼け死ぬだろう。だから君はとりあえず突っ込んでアレを奪ってきて欲しい。サポートはするから」

 しまった! 掲載サイトがカクヨムだから展開が捻くれている!

 いや酷い作戦だ。だから死なない俺が必要だったのか。立案者であろうメイさんに抗議の視線を向けると、彼女は「君ならできる」とでも言いたげにウィンクした。限度ってもんがあるんだが?

 とはいえ、他に有効な策もないままここまで来てしまったのだ。

「なるほど、大体わかった。だが――」

 俺はカッコつけることにした。

「アイツを倒してしまっても構わんのだろう?」

「攻撃力足らんやないかーい!」

 ハクギン氏に杖でどつかれる。どうしてエセ関西弁に? あ、そっかツッコミかー。別にボケたわけじゃないんだけどな……。

「無駄話は済んだか? ならば消し炭にしてやろうぞ」

 そういってバルファスが火を吹く。俺は無視して駆け出した。火炎の鎧まで一直線。ゲット!

「む、貴様最初からそれが狙いで!? 許さんぞ!!」

 バルファスの突進! 天井に叩きつけられた俺は、片足を岩に挟まれて動けなくなってしまった。だがチャンスだ。

「コンジキさん、受け取れー!!」

 俺が鎧を放り投げると、勇者コンジキは受け止めるべく跳躍した。常人を遥かに超えた膂力。そんな彼に吸い寄せられるように、火炎の鎧もまた軌道を変える。勇者としてのカリスマか、あるいは武具に備わった神秘性がそうさせたのか、引き寄せ合う彼らは、そのまま――正面衝突した。

「いてぇっ!」

「お兄ちゃん大丈夫!?」

 ギャグみたいな軌道で吹っ飛んだコンジキに、顔色を変えて駆け寄るハクギン氏。しかし彼女は兄の容態を確認して文字通りひっくり返った。

「怪我してないー!?」

 そんな二人を見てメイさんは呟く。

「ジンペーくんのギャグ補正がこっちまで溢れてきている……?」

 一人だけシリアスだ。ずるい。

「なんだか知らんが許さんぞ! 我の宝を粗末に扱いおって!」

 怒り狂う火竜。しかし準備は整った。

「本気になるのが遅かったな! この勇者コンジキが相手だ!」



 ほんとにステゴロで勝っちゃったよ。

 勇者コンジキは、俺を天井まで叩きつけるほどの突進を使うバケモノ相手に圧倒的な戦いを繰り広げた。

 天井でプラプラしていた俺は、時折業火に巻き込まれつつその戦いを眺めていた。何もしていないのでレベルは上がらなかった。

 帰り道、コンジキは俺の背中(の下の方)をバシバシ叩きながら言う。

「いや君のおかげだ。案外、俺達はいいコンビになれるかもな」

 そこはいい仲間とかいいパーティって言う所じゃないの? メイさんとハクギン氏どこ行ったんだよ。怖いなあ。

「ところで、ジンペーさんはこれからも一緒に来てくれるの?」

 ハクギン氏が疑問符を浮かべる。俺に危害を加えずに優しくしてくれるのこの人だけかもしんない。そう考えると早めに逃げた方が良さそうだな……。

「もちろん来てくれるよね?」

 メイさんは俺の肩を抱いてそう言った。近い近い近い!! 勘違いしちゃう!

「そ、そうですね……よろしくお願いします」

 俺はワンチャン狙ってしまった。

「それは助かる。長老に聞いた話だと、ここから先は毒沼や幻覚霧に覆われた地帯ばかりらしい。レジスタンスの拠点も、先日魔物に制圧されてしまったらしいし……」

 コンジキさん?

「こちらこそ、これからもよろしく頼むよ」

 笑顔で手を差し伸べられた。完全に肉壁扱いである。そのうち肉便器にされたりしない? 大丈夫?

 だが待っていろ。このギャグ補正はお前達すら巻き込んでいく。いずれこのパーティを俺に都合のいいギャグ時空に染め上げてやるわ。

 そんな事を考えた矢先、全員仲良くバナナの皮で滑って転んだ。行きで拾うの忘れてましたね!

 俺達の戦いはこれからだ!!

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もう異世界はコリゴリだよ~ 抜きあざらし @azarassi

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