第31話 結果報告、そして
薄暗い3dプリンタの部屋の中、シガクシャは機械越しに会話していました。
「バケガクさん!生物実験の結果が出たってほんとですか!」
『ああ、本当だとも。とても興味深いことがわかったよ』
シガクシャはやや興奮気味ですが、機械越しのその声は抑揚がほとんどなく、不気味なものでした。
「早く教えてください!」
『いいとも。シガクシャ。まずは見てほしいものがある。私の部屋に入ってくれ』
そのセリフが終わるや否や、部屋の奥に切れ目が出現しました。
シガクシャは切れ目の前に移動すると、ショルダーバックからスプレーを取り出し、身体に振きつけました。
一通り吹き付け終わると、切れ目を開き、そのまま中に入り、そのまま少し進みます。
すると、円筒状の胴体から二股の腕のようなものが6本伸び、全身が白い毛で覆われた2mくらいの謎の生き物がシガクシャを出迎えました。
その身体の中心部には、四角い機械が取り付けられており、シガクシャの存在を探知すると、その機械から音が発せられます。
『やあ、シガクシャ。ちゃんと消臭してきてくれたんだね』
「そりゃそうですよバケガクさんは匂いを残すとノイズで何言っているのかわからなくなりますからね!」
シガクシャが元気よく答えると、バケガクと呼ばれたその生物と、その体に取り付けられた機械がほぼ同時に反応を示します。
『おや?今は人間......いや、フレンズの身体かな?相変わらずとっかえひっかえしてるんだね』
「バケガクさんも、スメーリュ人の体にこだわるのはやめた方がいいですよ!光も音も使わず、匂いだけでコミュニケーション取る知的生命なんて他にないほど面白いですが、如何せん不便でしょう?」
『うるさいなあ。この身体の方が慣れてるし、研究もしやすいんだよ......まあとにかく、こっちに来てくれ』
バケガクは腕を器用に使って薄暗い部屋の奥に進み、シガクシャもそれに続きます。
突き当りまでたどり着くと、そこには頑丈な鉄格子の檻がいくつかならベられており、その中の一つに全長1mほどの別の生き物がいることが分かりました。
その生き物はこちらの存在に気づくとのろのろと近づいてきます。
『光を付けてあげるからちょっとそこで待っててくれ』
「分かりました!」
バケガクを待つ間も、シガクシャは中に入っている生き物が何なのか気になり、檻に近寄って覗き込んでみます。
ギョロリとした目玉が、シガクシャを覗きました。そしてどこから発せられているのかわからない声が聞こえてきます。
「グ・・・ギィ・・・シ・・ガクシャ・・」
「!?」
シガクシャは驚いて、一歩だけ後ずさりしました。
そしてバケガクに大声で報告します。
「バケガクさん!今この子私のことを呼びましたよ!」
『だろうね』
バケガクはぶっきらぼうに返事を返すと、部屋の壁のスイッチを押しました。
鉄格子の中に光が灯ります。
シガクシャは一瞬目をくらませましたが、中の物を見て驚きました。
「これは......」
ナサガキ星で見たのと同じ、黒灰色のセルリアンが鉄格子を掴んでガタガタと揺すっていたのです。
これを見たシガクシャはさらに一歩後ずさりしました。そして恐る恐るバケガクに尋ねます。
「これって......ナサガキ星にいた、セルリアンですか!?どうして??どうして!?どうして!!」
『その反応。やはり、か。実験のとおりだ』
「???」
『シガクシャ。よく聞いてほしい。そいつは君が『人間さん』と呼んでいる子だ』
「なっ」
シガクシャは口元を押さえます。
そしてとても信じられないといった様子で、檻の中を指差しながら意見します。
「何言っているんですかあ?違いますよ?人間さんはこんな姿ではありませんよ?」
バケガクも檻の方に近寄ります。
『ああ。ちょっと違うところもある。訂正しよう。そいつは、体内のサンドスターをすべて抜き取った状態の『人間さん』だ』
「でも、これは」
『まだちょっと混乱しているみたいだね。じゃあ、これを使ってみようか』
バケガクはその腕の一つに把持した、ガラス製の小さな小瓶を見せました。
「バケガクさん。それは?」
『サンドスターだ。ほんの少量だけどね』
バケガクは小瓶の蓋を開けると、檻の中に振りかけます。
するとどうでしょう。
黒灰色のセルリアンは見る見るうちに色と形が変わっていって、傷だらけでうなだれた状態で鉄格子を掴む、かばんの姿に変わっていきました。
「......人間さん?」
「シガクシャさん!ぼくはどうなってしまったのですか!?サンドスターが危険だからって、ぼくを閉じ込めるだなんてあんまりですよ!」
「......確かに人間さんですね」
シガクシャは額に手を当てて息をつきました。
バケガクはシガクシャの隣に立って話を続けます。
『シガクシャ。落ち着いて聞いてほしい。
①サンドスターが体内にない
②フレンズ、もしくはサンドスターに危害を加える可能性がある
この二つの条件を満たしているものは、どんなものであろうと不気味で恐ろしいセルリアンに見えてしまう。これがサンドスターの影響下にある者が受ける効果みたいなんだ』
「それが実験の結果ですか」
シガクシャが檻の中を再び見ます。体内のサンドスターが無くなったのか、かばんがセルリアンに変化していく様子が見られました。
実験結果の通り、サンドスターが体内にない状態に戻るので、シガクシャの目からは、目の前のかばんがセルリアンに見えてしまうのです。
やがてかばんは黒灰色のセルリアンとなりました。
ここでシガクシャは思います。
自分よりも背の低いセルリアン。よく見ると弱そうです。
――パッカーンとやっつけられる。
――パッカーンと気持ちよくやっつけられる
気が付けばシガクシャは衝動に駆られ、拳を強く握っていました。
バケガクはシガクシャからただならぬ匂いを感じ取り、尋ねます。
『興奮しているのかい?シガクシャ?』
「いえ。そんなことありませんよ」
シガクシャは見え透いた嘘をつきます。嘘をついているかどうかなんてバケガクには丸わかりでしたが、バケガクは気にせずに続けます。
『ああ。あと、もう一つ。キーになりそうな情報もわかったよ。地球の冷凍睡眠装置のなかで死んでいた人間をもとに、クローンを作ってみたんだ。彼らにサンドスターを投与してみたところ、サンドスターを体内で受容できる人間と、そうでない人間がいることが分かった。その割合は、2:8くらいだ』
「2:8ですか......」
『全員がサンドスターに暴露されたら、どうなるかな』
シガクシャはちょっと考えてから、答え始めます。
「まず、2割の方が危害を加えそうな一部の方をセルリアンだとみなして攻撃するでしょうね。その後8割の方が報復で攻撃しはじめたら......彼ら全員がセルリアンに見えてしまうかもしれません。そしたら......大きな争いに発展しそうです」
『ご名答。さすがシガクシャ。この2割の勢力にはサンドスターの影響を受けた動物のパワーが加わることもお忘れなく』
「ライカさんのところで見た、あの、『サンドスターに屈しない』という言葉、サンドスターが原因で戦争みたいなことが起こっていた証拠かもしれませんね......」
シガクシャがぶつぶつと考察を続けます。
「月面基地もサンドスターが流出して、その争いで滅びたのかもしれないです......となるとキネさんが言っていた『トモダチ』は、サンドスターの影響を受けた人間。セルリアンはサンドスターの影響を受けなかった人間やその道具ってことですか......」
『おおいにあり得るね』
「私が最初にナサガキ星に行ったとき、そこにいたのは人間さん達。次に行った時も人間さん達がいたはずでしたが、私がサンドスターの影響を受けてしまっていたがために、彼らがセルリアンに見えてしまった、とすれば確かにつじつまが合います。ミニかばさんの話も子供だからまだ危害を加える恐れが......」
『ちょっと待って、誰かいる。うしろ!』
考察しているのを止めて、バケガクは慌てて言いました。
シガクシャはハッとして振り返ると、そこにかばんがいました。目の前のセルリアンと同じ匂いだからバケガクもすぐに気が付かなかったようです。
「人間さん!?いつからそこにいたんですか??」
「ずっといましたよ!シガクシャさん肩叩いても気付かないんだもん!」
「あちゃー!人体実験のところとかも見ていたんですか?」
「はい!でも今はそれどころではありませんから不問にします!」
かばんは慌てた様子で、早口で説明しはじめます。
「大変なんです!セルリアン......いや、ナサガキ星の人間が攻めてきます!!地球に!」
「はい!?」
「地球にはぼくの友達がたくさんいるんです!パークの危機なんです!」
「ちょっと待ってください!パーク?友達がいる?初耳です!どういうことですか!?」
かばんは説明を始めました。地球にはジャパリパークという小さな島があること、そこには今までお世話になったたくさんのフレンズが生活していること、地球にセルリアンが攻め込もうと企んでいること。かばんの知り得ることは何でも話しました。
シガクシャは時折驚いた顔をしながらも、頷きながらかばんの話を聞きました。
一通り話を聞いた後、シガクシャは口を開きました。
「......なるほどわかりました。それで、人間さんはどうしたいのですか?攻めてくるナサガキ星の
かばんは間髪入れずに答えます。
「いいえ。和平を結びます。地球はそのまま、攻めてくる人間と
これを聞いたシガクシャはちょっとびっくりした顔で答えました。
「人間とフレンズになる?ジャパリパークのお友達もサンドスターの影響下にあるんですよね?それに攻めてくる人間さんは敵意むき出しのはずですから、みんなセルリアンに見えると思いますよ?セルリアンと和平って、相当難しくないですか?」
「いいえ。やらせてください。ぼくを助けてくれたパークのフレンズさんも、素晴らしい技術をどんどん産み出すナサガキ星に行った人間さんも、両方、大切にしたい!両方が発展する道へ進みたい!」
「はははははは!!」
シガクシャは大声で笑い始めました。
そしてひとしきり笑った後に、かばんに問いかけました。
「ねえ、かばんさん。私の影響受けてませんか?」
「それは間違いないですね」
シガクシャはにこりと笑って、かばんの肩をポンと叩きました。
「乗りました!私も協力します!セルリアンとフレンズになりましょう!」
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