第30話 セルリアンの星
「最初は何かの間違いだと思った」
かばんは続けます。
「でも、セルリアンはいた。着陸した時には周りにセルリアンが集まっていたんですよね」
一同は黙り、しばしの静寂となります。
何分か経った後に、シガクシャが口を開きました。
「いやーあまりにも強烈な記憶があると、その先はなかなか思い出せませんからね!もうちょっとそのあたりの記憶を掘り下げてみましょうか!えっと、セルリアンさんは大体我々よりちょっと大きいくらいの大きさで、細長い感じがありましたね。色は、灰色がかった黒でしたかね?それから、確か我々と少し距離をとっていましたよね。まるで様子を伺うように」
これに対して、ライカは机をドンと叩いて言いました。
「これ以上何を思い出せっていうのよ!人間が向かった先はセルリアンの星だったの!それ以上でもそれ以下でもない!これだけ分かれば十分でしょう!」
「いえ!十分ではありません!まだわからないことが多すぎます!私が行った時はセルリアンなんていなかった!人間さんによく似たナサガキ星人さんが平和に暮らしていたんです!」
「やめてください二人とも。こんなことでケンカしても、何にもなりません」
かばんは二人を落ち着かせて、座らせました。
ライカは鼻息を荒げて貧乏ゆすりをしています。
「さあ、話を続けましょう」
シガクシャは手を握りながら机の上に置き、小さく言いました。
するとキネがぽつりぽつりと言葉を発し始めます。
「あの形のセルリアン。キネが生まれたときにたくさんいたピョン......友達と協力して、なんとか基地の中のやつは全滅させたはずだけど、まさか別の星にいるなんて思わなかったラビ......」
「と言うことは、キネさんはあのセルリアンに詳しかったのですか」
「ラビ。あの形のは攻撃してきたりはしないで、逃げるのが多いウサ」
これを聞いたかばんはその先の出来事を思い出したようです。これをきっかけに会話が発展していきます。
「そうだ!確か僕たちが前に進もうとしたら、セルリアンたちも恐ろしいものでも見てしまったように逃げていきましたよね!」
「そうね。ちょっと滑稽だったわ。なんか転んで逃げ遅れたやつもいた気がするし」
「あ!ちょ、ちょっと待つピョン!そいつ、セルリアンじゃなかったはずウサ!思い出すラビ!」
キネがライカに訴えかけます。
ライカはおでこを押して少し考えるような仕草を見せると、ハッとした表情に変わりました。
「そうだ......かばんを小さくしたようなやつがいたわ!セルリアンじゃないやつ!なんで忘れていたんだろう」
「そうそう!ミニかばって呼んでた子ウサ!」
「あの子言葉通じたわよね!で、私たち、案内してもらおうとあの子について行ったのよね。それでなんか、学校みたいなところに連れていってもらって......」
ここでかばんはヒートアップする二人を制止するようにいいました。
「ちょっと待ってください。ミニかば?学校?話が全く見えません」
「確かかばんさんは、キネたちとは別行動をとっていたラビ。知らないのも無理がないピョン」
「別行動......?」
疑問を顔に呈するかばんに、シガクシャがフォローを入れます。
「ライカさんとキネさんはミニかばさんについて行って、情報収集をすることにしていたはずです。私と人間さんは、そのまま私の知り合いが住んでいた場所に向かうことにしていたではありませんか!もっとも私は道中でセルリアンにやられちゃいましたが!」
「そうでしたっけ」
「人間さんは割と思い出すのが苦手な方なのですね!初めてですから仕方ありませんよ!」
かばんは自分の頭皮をぐにぐにと刺激し、思い出そうとします。そんなこともあった気もしましたが、なかったような気もします。頭の中にモザイクのかかっているような気分でした。とにかくかばんは、この後起こったことを必死に思い起こそうとしました。しかしうまくいきません。
そんなかばんを意にも介さず、ライカとキネは会話を盛り上げ、シガクシャはそれを興味深そうに聞いています。。
「学校には、ミニかば以外にもかばんみたいなちっこいやつがたくさんいたわよね」
「案内された教室には30人くらい集まっていたラビ!ライカさん滅茶苦茶なでられていたピョン!嬉しそうだったウサ~」
「キネもね」
「でもしばらくすると、例の黒灰色のセルリアンが入ってきたラビ!キネたちはとっさに隠れたけど、その瞬間教室がシーンってなったのが印象的だったピョン!そのセルリアン、なんて呼ばれていたっけ、えーと......」
「確か、『先生』と呼ばれていたわ」
「そうそう!それそれ!ウサ!」
「ええぇ!?」
シガクシャが驚きの声を上げます。
大きな声であったので、ライカとキネは会話をやめてシガクシャの方を向きました。
「いえあの......その、ミニかばさんたちは、つまり、セルリアンの授業を受けていたということですか?それって、ナサガキ星人さんは、セルリアンに侵略されていたということじゃないでしょうか?この基地から飛び立ったのは人間さんではなく、セルリアンだったのでは......?」
キネは涙目で首を横に振ります。
「......そんなはずないピョン」
「いえ、ただの仮説です。続きをお願いします。」
キネは続けます。
「......で、そのセルリアンは、なんと!喋りだしたウサ」
「今日はビデオ学習?とかなんとか言ってたみたいね。そしたら教室の壁に映像が流れ始めたわ」
「ほうほう。その映像はどんなんでしたか?」
興味深そうに聞くシガクシャ。対してライカとキネの顔は青ざめていきます。
いつまでたっても話を始めないライカをシガクシャが急かします。
「どうしましたか?言えないようなことだったんですか?」
「......タイトルは、『わたしたち人類の歴史』......地球のこと、この基地のこと、全部紹介されてた......」
ライカは絞り出すように答えました。冷や汗がポタポタと床に落ちます。
「そうなんですか!教えてください!できるだけ詳しく!」
ズイッと迫るシガクシャをライカは払いのけました。
「無理よ......言えない」
「どうして言えないのですか?」
「ぼくも知りたいです」
かばんも聞きます。
ライカはかばんからあからさまに目を背けました。
一方キネはしどろもどろになりながらも答えようとします。
「だって、あのあとミニかばさんは......!キネはあのとき......!おえぇ、おえええぇぇ......!」
「キネ!」
キネは夕飯を戻しました。ライカはすぐにキネに寄っていって、その背中をさすりました。
食堂に吐しゃ物の臭いが広がっていきます。こうなったらもう記憶的帰納法どころではありません。シガクシャは慌てて清掃装置を起動させました。
「あああああ!致し方ありません!気になるところですが一時中断です!続きは明日にしましょう!今日はゆっくり休んでください!」
~~~
一人自室にもどったかばん。
しばらくライカのことを考えていましたが、白い壁に囲まれた部屋から何かを思い出したようです。
「そうだ。僕は捕まっていたんだ。シガクシャさんの知り合いの家で、セルリアンに捕まって、地下室に監禁されていたんだ」
かばんは部屋の中をぐるぐると回り始めました。
「うん。ちょうどこのくらいの広さだった。ここにソファーみたいなのがあって、ここにはたしか、小さい机があった気がする......」
宇宙船内の部屋と、監禁されていた部屋とを重ね合わせることによって、かばんの頭の中の記憶が急速に蘇っていきます。
「ああ。地下室で小さい機械を見つけて、それで情報収集したんだっけ。イメージが直接脳内に送られてくる不思議な機械。たまに来るセルリアンに見つからないように、ソファーの間に隠してたっけ」
かばんは脳内に描いたソファーに座ります。続けてソファーの隙間に手を入れて、その機械を操作する真似をします。
「うん。こうしたら、ニュースが流れてくるんだ......最初に得た情報は......」
『惑星ホンドでのサンドスターの存在を確認。緊急避難命令発令』
それは惑星ホンドの表面に禍々しい色の物質が広がっていくイメージでした。言語が分からないのに理解ができたのは、高度な技術によるものなのでしょうが、かばんには詳しいことは分かりません。
「そうだ、こんなんだった。でもその後もっと大事な情報が流れていた気がする、絶対忘れちゃいけない、衝撃的な情報が......」
かばんは頭を押さえます。そして思い出しました。
『政府、サンドスター根絶のために地球を滅ぼすことを決定』
それは、月面から幾度となく眺めた地球が、木っ端みじんに破壊されるイメージでした。
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