第28話 ヒトが向かった先
「人間は......その、ナサガキ星に行った......」
かばんはそうつぶやいて息を飲みます。
そしてシガクシャに詰め寄り、つかみかかるような勢いで尋ねはじめました。
「シガクシャさん!ナサガキ星に行ったことがあるんですよね!?教えてください!ナサガキ星がどんなところなのかを!どんな人が暮らしていたのかを!」
「人間さん、落ち着いてください。まだ確定事項とは言えませんから......」
つい声を荒げたかばんをなだめるように、シガクシャは言いました。
騒ぎを聞いたライカとキネも二人の周りに集まってきました。
「うるさいわね」
「どうしたウサ?」
かばんはライカとキネに、人間は月からナサガキ星に向かったらしいことと、そのナサガキ星にはシガクシャが行ったことがあることを、やや興奮気味に話しました。
ライカとキネは目を丸くして驚きます。
「やったじゃない!私も気になるわ!シガクシャ!早く話しなさいよ!」
「キネも気になるピョン!ナサガキ星には人間はいたラビ!?」
「シガクシャさんがナサガキ星に行ったのは何年くらい前の話なんですか?」
「ちょっと待ってください!初めから話しますから......」
シガクシャは3人の押し問答にシガクシャは辟易してしまいました。
とりあえずシガクシャは、部屋の奥にあった机の周りに椅子を並べて、それぞれをそこに座らせました。
ひと呼吸おいて、シガクシャが話し始めます。
「今から私が知っているナサガキ星について話しますから、質問があれば適宜言ってくださいね」
他の三人は期待した表情でうなずきました。
「まずナサガキ星はここから20光年ほど離れたところにあります。私がそこを最後に訪れたのは、50年程前の話です」
「待つピョン!光年って?」
「すごく大きな距離の単位よ」
早速キネから質問が出ましたがこれはライカが答えました。
シガクシャはそれを確認すると話を続けます。
「ナサガキ星はいわゆる惑星系です。恒星ナサガキを中心に生物の住める惑星が30ほど公転しています。みんなちょうど地球と同じくらいの周期で公転していて、それぞれの星にナサガキ星人さんがいて、交流も盛んです」
「ちょっと待つピョン!恒星?惑星??公転???意味が分からないウサ!」
全く話についていけていないキネに、ライカはその都度解説しました。
実はかばんもわからないところがちらほらあったのですが、ライカの解説を聞いて納得していました。
「一番大きな星は惑星ホンドと呼ばれていて、私はそこに二年ほど滞在していました。......お察しの通り文化研究のためです。それによるとナサガキ星人さんは、800年ほどの短い歴史で、恒星系規模の宇宙開発ができる技術力をもっているとのことでした。いやはやすさまじいスピードですね!」
シガクシャは手早く言い切ると、かばんが質問をします。
「ナサガキ星人さんはどんな姿だったんですか?」
「そうですね。ちょうど、人間さんと似たような姿でしたよ。酸素で呼吸して、二本足で歩き、二本の腕に五本指がついた生き物でした」
一同はかばんを凝視します。かばんも自分の手のひらを見つめました。話の通りです。
ライカはシガクシャに目線を移すと、確認するように尋ねます。
「じゃあナサガキ星人は月から移住した人間で確定ってこと?」
「いえ、それは確定できません。
「ナサガキ星で『人間』という言葉は聞きませんでしたか?」
「聞きませんでしたね......」
「『サンドスター』はどう?」
「知る限りでは、なかったと思います」
かばんとライカの顔に不信感が現れます。残された冊子と話の限り、ナサガキ星に人間が行ったことはほぼ間違いないのに、シガクシャの返答はどうも歯切れが悪い。
ライカはシガクシャに聞きます。
「シガクシャ。何か隠してない?」
シガクシャは、ちょっと考えた顔をしてから申し訳なさそうに付け足しました。
「すいません!実はナサガキ星では、文化研究とは名ばかりのグルメ紀行をしていたんですよね......あまりにも食事がおいしすぎて、というかもてなされすぎて、本業はおろそかになっていました......」
「ねえ!ちょっとそれってひどくない?!うらやましいんだけど!」
「ずみまぜーん!!もうじまぜーん!」
憤るライカにシガクシャが泣きながら謝るのをみて、かばんは慌てて仲裁に入りました。
「でもシガクシャさんがナサガキ星でグルメ紀行しなければ、ライカさんはカマニクンもカステラも食べられませんでしたよ?」
「それもそうね」
意外とあっさりと引いたライカは続けて言いました。
「それじゃシガクシャ、一つ提案があるんだけどいいかしら」
「なんですかライカさん」
ライカは目をぎらぎらと輝かせながら続けます。
「ナサガキ星にもう一度行って、食べ......調べ直すべきだとは思わない?」
(微妙に本音がでてるラビ!)
これにシガクシャはちょっと考えてから、こう言いました。
「......人間さんはどう思います?ナサガキ星に行きますか?」
「行ってみる価値があると思います。行きましょう」
「......わかりました。ホントはいけないことなのですが、行ってみましょう」
一行はいったん月面基地を後にしました。
~~~
宇宙船の操縦室、ライカとキネが興奮気味に話しています。
「あああ!すごいピョン!こんなところ初めて見るウサ!このパネルで宇宙船が動くラビ??」
「うんうん!これで空を飛ぶの!」
宇宙船に初めて搭乗するキネに、ライカは案内役を買って出ていました。
この操縦室で、船内を一通り回り終えて、案内されたキネも、案内するライカもとても満足そうな顔をしていました。
「さてと、3Dプリンターの部屋に行きましょうか。なんでもナサガキ星に行くにあたってなんか話すことがあるそうよ」
「了解ウサ!」
二人は3dプリンターの部屋の前に行き、扉を開けると、間髪入れずに奥にいるシガクシャから声がかかりました。
「あ、キネさん!ライカさん!こっちです!」
シガクシャが手招きする操作パネルのところには、かばんの姿もあります。二人がそちらに行くと、シガクシャは早速説明を始めました。
「今からナサガキ星の近くまで行きますが、心の準備はよろしいですか?」
急な問いかけにライカは狼狽しました。犬だけに。
「え?ちょっと待って、20光年も離れている星に、どうやって行くの?光の速さで行っても20年はかかるのよ?まさか、コールドスリープじゃないでしょうね?」
「まさか!20年も寝ちゃいられませんよ!ナサガキ星の近くに3Dプリンターが設置されているので、それで行くんです!」
シガクシャはさも当たり前のことのように言いますが、ライカの目が点になります。
「3Dプリンターで行く?ゴメン全く意味が分からないんだけど」
「つまりですね、ナサガキ星の近くでライカさんを印刷するんです!記憶ごと!」
シガクシャは笑顔で言いました。
しかし、ライカは得体のしれない恐怖を覚えます。
「ど、どういうことよ、それ?」
「私たちの母星、コペルダ星から半径約1000光年の領域には、0.1光年ごとに3Dプリンターが設置されているんです!その3Dプリンターは量子もつれでつながっているので、目的地の近くに自分自身を印刷することによって、あたかも一瞬でワープしたようにみえるというシステムがあるんですよ!これで行きます!」
ライカは仕組みを理解できました。
しかし動揺が抑えきれていません。ライカはとっさにかばんに言います。
「かばん......かばんはいいの??これでいいの?」
「僕はさっきやりましたよ。その箱の中に入って、体をスキャンするだけなので、簡単でした」
かばんは目の前の電話ボックスのような透明な箱を指差しながら言います。
ライカはさらに怯えます。
「ちょっとアレ......痛くない?」
「全然そんなことありませんよ。それに、やらないと先に進めませんし」
その言葉を聞いても、ライカの震えは止まりません。
そこに声をかけたのはキネでした。
「ライカさん、怖いピョン??」
「......そんなことないわよ。あ、あんたこそ怖いんじゃないの?」
強がりです。
しかしこの強がりがないと、ライカは前に進めませんでした。
「私が先導してあげるから、一緒に入りましょう」
かくして二人が箱の中に入り、扉を閉めました。
シガクシャが操作盤を見ながら言います。
「まあ、自分をコピーして飛ばすだけですから、今のライカさんの存在はちゃーんと残りますよ!それに身体のスキャンは寝ている間にもやっていますので今更怖がる必要はありません!」
シガクシャがボタンを押すと、一瞬箱全体が光りました。
その後、自動的に扉が開きます。
「え?もう終わり?」
「はい!終わりです!さあ、ナサガキ星人の探索はコピー先の我々に任せて、我々は月面基地の探査を続けましょう!」
まるで何事もなかったかのようでした。
安心したのか、ライカのお腹がぐぅとなります。
「ははは。その前に、腹ごしらえですかね!せっかくですから今日もナサガキ星人さんの料理をいただきましょう!」
一行は食堂へ向かいました。
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