第15話 ライカ・クドリャフカと秘密の部屋



 シガクシャとかばんはライカに連れられて、音楽ホールの奥へ進んで行きます。

 ライカは一番奥にあった部屋の扉を開けると、二人を中に入れました。

 その部屋は先ほどあった部屋より薄暗く、何となく不気味な気配が漂っていました。

 ライカはどこからともなくろうそくを取り出し、マッチを使って火をともします。

 不気味な雰囲気はさらに増しましたが、ライカはそのまま部屋の奥へ進みます。


「この壁には仕掛けがあるの!」


 そう言って彼女は壁の一部を押しました。すると押された壁の一部が凹みます。ライカがその凹んだ部分に指を差し込み、スナップを付けて回すと、ガコン、と何かが落ちるような音がしました。

 ライカは同じような操作を場所を変えて二回行ったあと、壁を力いっぱい押します。

 すると押された壁の一部が、5センチほど奥へ押し込まれました。


「これって……」

「そ。引き戸になるの」


 ライカは先ほど押し込まれなかった壁の一部を、押し込まれた壁の方へスライドさせます。

 すると真っ暗闇の中で下へと続く階段があらわれました。


「おおおお!!これはすごい仕組みですね!!隠し扉の仕組みはどんな文明にもありがちですが、引き戸を使った方法はなかなか見られませんよ!やっぱり人間さんの建築技術には目を見張るものがありますね!」


 シガクシャは目を輝かせます。

 先ほど自分の宝物を見た反応にがっかりしていたライカでしたが、これを見て機嫌を取り戻しました。


「ふふん。この下にはとっておきの施設があるの!絶対もっと驚くから!」

「あああ!ちょっと待ってください!」


 ライカがろうそくを片手に降りようとするのを、シガクシャが静止しました。


「何?」

「ろうそくじゃ暗くて危ないですよ!これを使いましょう!」


 シガクシャは肩にかけていたバッグをまさぐって、やや長い紐のついた丸くて白い球体を取り出し、ライカとかばんに見せつけました。


「なにこれ?」

「自己浮遊ランタンです!まあすごく性能のいい照明具だと思ってくれて構いませんよ!」


 シガクシャはそう言いながらランタンのスイッチを入れます。

 すると野球ボール大の球体から強い光が全周に渡って発せられて、辺りを煌々と照らしはじめました。

 これを見たかばんとライカはくぎ付けになってしまいました。

 シガクシャはこれに気をよくしてさらに話を続けます。


「ちなみに光る仕組みは半導体を使ったものです!昨日の施設で人間さんも使っていましたよね!」


 うんちくを続けながらシガクシャはランタンについていた紐を手に巻き付けると、ランタン本体から手を放しました。

 するとランタンはふわふわと空中に浮かび、ある程度の高さで紐に引っ張られて静止しました。

 このときのシガクシャの姿はまるで光る風船を持っているようでした。

 驚く二人にシガクシャは解説を付け加えます。


「ヒッグス粒子の反物質が普通の素粒子よりもちょっと多めに含まれているので、勝手に浮くんですよ!だから常に上から照明をあてることができるんです!」


 天井近くに上がったランタンは確かに部屋全体を明るく照らしていました。

 かばんは明るくなった部屋全体をぐるりと見渡してみると、隅に何か光るものを見つけました。かばんは怪しいと思って寄ってみると、そこには昨日から探していたゴールデンレコードが無造作に置かれていました。

 かばんは思わず手に取ると、これに気づいたライカが寄ってきました。


「ちょっと何触っているのよ!」

「いや、えっと。これはもともとぼくが作ったものなので……」


 かばんはしどろもどろになりながら答えると、ライカはあきらめたような顔をして言いました。


「……まあいいわ。アンタはシガクシャの友達だから、悪いやつではないだろうし」

「え?」

「でも別に人間を信用しているわけではないから」


 聞いてもいないことにライカは答えると、そっぽを向いて現れた階段の方へ向かいました。


「さあ、シガクシャ。行きましょう。すごいものがあるんだから!」


 ライカはシガクシャを引っ張って階段を下りていきました。

 かばんはそのままちょっと立っていましたが、レコードをかばんにしまうと二人に続いてじめじめした階段をおりていきました。



 ~~~



 階段が何段あるのか数えてはいませんでしたが、およそ10分くらい歩いたでしょうか。

 三人は階段を抜けて、ダクトがたくさん取り付けられた大きな広間に出ました。

 その中心には動きを止めたタービンが備え付けられており、電線がその周りを張っていました。

 その見上げるほど大きなタービンに一行は驚きました。

 特にライカは、


「私はろうそく越しでしかここを見たことはなかったけど、こんなに大きなものとは思わなかった」


 とコメントしました。

 また、シガクシャはというと、すごいすごいと感嘆の声を上げながら、タービンの全方位から写真を撮ろうとしていました。

 自己浮遊ランタンを持っているシガクシャが動くと光の位置が変わるので、ライカとかばんはシガクシャから離れないように、ですが撮影の邪魔にならないような距離を保ってその様子を見ていました。

 見ているのに飽きたのか、ライカはかばんに話します。


「シガクシャっていつもああなの?」

「そうですね。あんな感じです」

「そうなの。で、シガクシャってなんのフレンズなの?」

「……」

「知らないの?」

「うーん……強いて言えば、タコ、なのかな」

「タコ?!」


 シガクシャがカメラをショルダーバッグの中にもどして、かばんたちの方へ振り返ります。


「あ!人間さんたち!撮影終わりましたよ!」


 シガクシャはある程度離れていた距離を縮めつつ言いました。


「おそらくこれは、地熱発電の機械ですね!!もう動いてませんが!」

「地熱発電?なんですかそれ?」

「地下の熱を利用して、水蒸気を沸騰させることでタービンを回し、電気を起こす機械です!旧式な発電方法ですが、技術的には高度な仕組みがいっぱい盛り込まれていますね!このあたりは地熱発電なんて通常行えませんから、それを解決するための仕組みがいっぱいです!例えばここのタービンの取り付け部は……」

「ほほう……」


 シガクシャの解説に聞き入るライカとは違い、かばんは電線が気になっていました。

 かばんはシガクシャの解説が一区切りつくタイミングを見計らって、一番太い電線を指差してシガクシャに尋ねました。


「この線は、どこにつながっているのでしょうか」


 シガクシャは電線を一瞥すると、ちょっと考えてから答え始めました。


「おそらく蓄電設備の類があるとは思います!そこからどこかに給電しているんじゃないですかね!調べてみましょう!」

「ああ!ちょっと!まだ話は終わっていないわよ!」


 シガクシャは二人を意に介さず電線伝いに進んでいきました。

 電線の先は壁につながっており、その周辺部には何もないようでした。

 これを見たライカは不貞腐れたような顔で言います。


「シガクシャ。このあたりには何もないわよ。私何度も調べたもん」

「いや、ちょっと待ってください」


 シガクシャが自己浮遊ランタンを近づけると、壁の一部に若干凹んだ部分があることが分かりました。

 シガクシャがそこを押すと、その凹みは大きくなりました。


「これって……」

「さっきの引き戸と同じやつみたいですね!ライカさん!お願いします」


 ライカは目をぱちくりさせながら先ほどやった動作を行いました。

 ほどなくして、引き戸が現れます。


「こんなところに扉があったなんて......」


 ライカがぶつぶつと言いながら扉を開けると、宇宙船の食堂と同じくらいの広さの部屋が現れました。

 部屋の両側には大きな直方体の機械が鎮座しており、シガクシャの予想通り、それは蓄電設備のようでした。

 よく観察すると、大きなコードが奥の部屋に向かって伸びていることが分かりました。

 シガクシャはなんの躊躇もなく奥の頑丈そうな扉へ向かいます。


「この奥に、発電した電気を使う設備があると思います!……あれほど大きかったので、相当巨大な設備である可能性が高いですね!楽しみです!さあ、開けますよ!」


 シガクシャが重そうな扉を開けると、何となく冷たい空気が流れ込んできました。

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