第2話 宇宙人、現れる
「あれ、ここは?」
かばんが次に目を覚ましたのは、6畳くらいの、真っ白な部屋の中でした。見覚えのない景色にかばんは少し困惑しているようでしたが、すぐに立ち上がり誰かを呼び始めます。
「サーバルちゃん!どこ!」
しかし返事はありません。
かばんはさらに声を大きくして叫びます。
「サーバルちゃん!サーバルちゃん!」
やはり返事はありません。
「どういうこと?」
かばんは自分の身に起こったことを思い出してみました。
「そうだ。ゴコクちほーの荒れ地でヒトをさがしていて、ぜんぜん見つからなくて、それで突然円盤が現れて、それで」
「ぼくはそのまま、連れ去られた」
かばんはそのままふらふらと壁まですすんでそのままもたれかかりました。
「ぼくはどうなってしまったのだろう。いや、これからどうなってしまうのだろう」
かばんはうつろな目をしてつぶやきます。
するともたれていた壁に突如切れ目ができて、かばんは後ろに倒れこんでしまいます。
「うわあ!」
あまりに勢いよく倒れ込んだのでかばんは後頭部を強打してしまいました。しかしなんとも無いようで、すぐに起き上がります。
かばんは不思議そうに頭をさすりながら床を触りました。
「なにこれ、なんか柔らかい?」
かばんちゃんは表面はつるつるしているのに、なぜかふかふかとしている床をなで回します。
「こんな感触初めてだ」
かばんが奇妙な床を観察していると、突然後ろから声がかかりました。
「あ!起きたのですね!人間さん!」
「うわぁ!た、食べないでくだ!」
間髪いれずに声の主はかばんに飛び掛かり、そのまま彼女を押し倒しました。
声の主は、一見するとフレンズと同じような姿でした。
頭には赤いベレー帽のようなものをかぶっており、そこから8本の太いロープのようなものが腰のあたりまで伸びていました。上半身と下半身は銀色の全身タイツに包まれており、見慣れない模様が描かれていました。
ただフレンズと違う点といえば、お耳としっぽがないことくらいでした。
「人間さん!私ずっと会いたかったんです!うわさは各地でありましたよ!すごい技術を持った種族がいるって!でもぜんぜん見つからなかった!けど会えた!!」
その奇妙な生物は、かばんの腕を力強く握ります。
「イタタタタ!!」
その力が予想よりも強かったので、かばんは思わず悲鳴を上げてしまいました。
「ああ、ごめんなさい。人間さん。肉体なんてひさしぶりなので加減できませんでした」
その生物はすぐさま謝って力を弱めました。
かばんは怯えた声でその生物に尋ねます。
「あなたは、なんなのですか?」
「ああ!申し遅れました!私はコペルダ星人です」
「コペルダ星人?」
「そうです。コペルダ星から来たから、コペルダ星人。ああ、場所はここから500光年くらいのところです」
コペルダ星人は右上の方向を指さします。
かばんは未知への恐怖におびえていました。
「あの…コペルダ星人って言うのが、名前ですか?」
「なまえ?」
「そう。名前です。あなたの名前」
「えっと……個体番号のことかな?」
「たぶん違います。たとえばぼくは、みんなから『かばん』と呼ばれています。あなたはなんと呼ばれているんですか?」
かばんは落ち着きを装って、あるいは自分を落ち着かせるためか、当たり障りのない質問をしました。
コペルダ星人は少し考えてから答え始めました。
「私は皆から『シガクシャ』と呼ばれています」
かばんの顔は少し安心したものに変わりました。
それはおそらく未知のものにも自分たちの常識が通用したという安心感から出てくるものなのでしょう。
かばんは続けて質問をします。
「それで、シガクシャさんは、どうしてこの星にやってきたのですか?」
「研究のためです!」
「研究?」
「ええ。人間を研究するのが私の仕事ですから!とっても楽しいですよ!」
かばんの表情は再び怯えたものに変わりました。
というのも、かばんが先ほどまで読んでいた『えすえふ』のなかにも、人間を実験台に使って楽しむ、いわゆるマッドサイエンティストな宇宙人が登場していたからです。
「研究で、ぼくを、どうするつもりなんですか?」
かばんが怯えているのに気付かずに、シガクシャは答えました。
「まずは……すべて吐き出してもらいます!」
「ひぃぃいいいい!」
かばんはたまらず逃げ出してしまいました。
吐き出すというのは胃の中のもの、あるいは臓器の類だと思ったのでしょう。
見知らぬ宇宙人にこういわれたら、普通のヒトにとっては恐怖でしかありません。
シガクシャは恐怖するかばんを追いかけます。
「待ってください!人間さん!へるもんじゃないですよ!」
「減りますよ!」
狭い船内。かばんはこの円盤の構造を知りません。
かばんはいつのまにか薄暗い部屋に追い込まれていました。
「ここは……?」
かばんがその部屋を見渡したところ、パソコンが数台とたくさんのガラクタがあることが分かりました。そして部屋の中央には金色に光る薄いディスクが大事そうに台に鎮座されていました。
「もう逃げられませんよ人間さん!ここに逃げ道はありません!」
シガクシャは恐怖をあおるように言います。
かばんはとっさに台の後ろに隠れました。
「その台の裏にいることはわかっていますよ人間さん!さあ全部吐き出してもらいましょうか!」
カツンカツンと音を立てながらシガクシャはかばんに近づいていきます。
シガクシャが台のそばに来たときを見計らって、かばんは脱兎の如く駆け出しました。
「あ、待ってください!」
シガクシャがかばんの方へ振り返ります。
そのときです。
シガクシャの頭についていたロープのようなものが台に引っかかってしまい、そのまま台を倒してしまいました。
ガシャンという音がして、中に入っていた金色のディスクは、あろうことか台の下敷きになってしまったのです。
「ああああああああああああ!!」
シガクシャが悲鳴を上げます。
かばんはとっさに振り返りました。
「ゴールデンレコードが!人間の痕跡があああ!」
シガクシャは力を込めて台を持ち上げます。
台の下から、二つに割れた金色のディスクが現れました。
それを見ると同時に、シガクシャはがっくりと膝を落としました。
「そんな……貴重なオリジナルが……私が調子に乗ったからだああ……うわああん!!」
シガクシャが嗚咽を上げて泣き始めたのを見て、かばんは部屋に戻ってきました。
「シガクシャさん……どうしたんですか?なぜ泣いているんですか?」
「うう……人間の、貴重な痕跡を、壊してしまったあ……シガクシャの私が……」
かばんは二つに割れた円盤をちらりとみると、申し訳なさそうにシガクシャに言いました。
「シガクシャさん……ごめんなさい……ぼくも逃げたりしてすいません……」
「いいんです、人間さん。あなたを捕まえられたから」
「しまった」
シガクシャはかばんを捕まえました。
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かばんとシガクシャがテーブルで、向かい合って座っています。
「つまり人間さんは人間についてなにも知らないんですか!?人間なのに!?」
シガクシャが驚きの声を上げます。
「すいません……」
「それじゃあなぜ私がこんな姿になって、人間さんの言葉を話せるようになったかもわからないのですか!?」
「それはたぶん、サンドスターに触れたからだと思います……」
「サンドスターって何!?」
「わ、わかりません……」
かばんはサンドスターについて、フレンズ並みの知識を持っていると思っていましたが、いざ聞かれるとわからなくなってしまいました。
「せっかく地球に来たのに……」
「ごめんなさい……」
しばらく無言の時間が続きました。
かばんはたまらず話題を振ります。
「あ。あの、さっきの、ゴールデンレコードってなんなんですか?」
「聞きたいですか!?」
シガクシャはとたんに明るい顔になり、早口でしゃべり始めました。
「およそ3000年前にこの星から射出されたと思われる金色のディスクです!発見した時は人工衛星みたいなのにくっついていて、明らかに文明の痕跡だから持ち帰って解析すると、なんとディスクの表面にでこぼこがあることがわかったんです!つまり凹凸を利用した情報ですよ!この星は前々から怪しいと思っていて、私は前々から目を付けていたんですけど、このディスクのおかげでやっと研究渡航の許可が下りたんですよねー!さっきの部屋ではあのディスクの解析をしていました!まだわからないことが多いのですけど!」
「それじゃあ、ないと困りますよね?」
「……そうですね。でも!復元する方法があるんです!ついてきてください!」
シガクシャに手を引かれて、かばんは別の部屋に連れていかれました。
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