第2話 教室

 女子生徒の一人がロングヘアをばっさり切って登校したのを見て、岬たちはいっせいに「カワイイ〜」と言って騒ぎ出した。どうして? なんで髪切ったの? 失恋でもしたの? イメチェン? 似合ってるマジカワイイどこの美容室行ったの? 紹介して私にも教えてくれない? 次々とマシンガンのようにカワイイコールが飛び交っている。他の女子生徒たちも寄ってきて口々に褒め始めた。

 岬たちのその様子を見ていた男子生徒、高部天性たかべてんしょうがぼそりと呟いた。

「べつにかわいかねーだろ」

 岬が反発した。

「カワイイよ」

「女子の言うカワイイは信用ならねーよ。ブスではねーけどカワイイとまでは言えない部類だろ」

「ひっどーい。サイテー」

「それにしてもオマエたち女子のカワイイ〜っていう感覚がオレにはよくわかんんねえ。なんでもかんでもカワイイって喜んだらみんなと共感できます、みたいな感覚がよくわからん。男子代表として言わせてもらうが、男の目から見たら全然カワイイとは思わねーし、アンタたちがホントそう思ってるのかも疑わしいぜ」

 三人は騒ぎ出した。

「ホントにそう思ってるから言ってんのよー」

「ひねくれ野郎の考えそうなことねー」

「ちょっとモテるからって調子に乗ってんじゃないの〜?」

「女子代表として言わせてもらうけど、女の目から見たらアンタだって全然カッコイイとは思わないわよ」

「あーあーわかったわかった。オレが悪かった。うるさいからもうカンベンしてくれ。アンタたちホント群れるの好きだよな〜」

 丹羽所だけがこの騒ぎに加わっていなかった。彼女は四人の中でも冷静で寛容でおしゃべりではなかった。そして、時々思いもよらないことを言う。

「…天野くんの言うことにも一理あると思う。女子ってなんでもカワイイで済ませることが多いから。服見てカワイイ動物の赤ちゃん見てカワイイ、ちょっとおしゃれした子がいたらカワイイ、そうでもないものにもカワイイ、友達の目を気にしてカワイイなんでもかんでもカワイイ。明らかなブスにもカワイイ。自分よりもブスだと思ったらなおさら」

 他の人が言ったら喧嘩になりそうなことも丹羽所がいうと悪意を感じない。彼女は頭が良く、柏原とは違う系統の美人でたまに核心を突くことをズバリということがあった。結論が出ないような事柄も快刀乱麻の一言でムリやり終わらせてしまう。岬にとってはいちばんと言っていいほど信頼の置ける友達だった。




 野茨の様子はとくにメイクをしている以外は変わったところはなかった。柏原

はスマゲーをやっているし、丹羽所は予習をやっているし、岬は頬杖をついてぼーっと窓の外を眺めていた。

 帰りはどうするかという話になり、カラオケに行くことになった。野茨だけが今日は気分が乗らないとのことで来ないことになった。

「やっぱりカレシできたんじゃん」

 柏原が唇を尖らせた。

「今日は気分が乗らないって言ってたよ」岬がフォローする。「カレシとは限んないよ」

「まああるよねそういうこと」丹羽所が棒読みで言った。「私たち小学生から一緒なんだもん。ホントよくつながってるわって感心しちゃう」

「マンネリともいうよね」柏原だった。

 その一言で三人は続けることばを失った。岬も本当はもっと他のクラスの子と友達になりたかったのだが、幼なじみたちに気を使うあまり踏み込めないでいた。みんなはどう思っているのだろうか。

 カラオケ店のカウンターで手続きをしていたら、近くにいた男三人組がニヤニヤしながら岬たちの方を眺めていた。

 イケメンぞろいではあったが、岬はチャラい感じでいやだなあと思っていたら、三人は近づいてきた。

「ねえ君たち。一緒にカラオケやらない?」

「イヤです」岬がきっぱり断った。

「そんなコト言わずにさ〜オレたちバンドやってるから歌うまいぜー」

「え、マジ?」丹羽所が大げさに驚いた顔になった。「初めてリアルなナンパを目撃してしまった…マジウケるんだけど〜」

 この子いちばんカワイイなと言いながら近づいてきた男にたたみかけるように今度は柏原がいっぱい食わせた。いきなり人気アイドルグループの歌を振り付けも交えて歌い出したのである。

 これにはナンパ男たちも引いたのか、なにも言わずに引き上げて行った。

 みんなで顔を見合わせてゲラった。

 本当に頼もしい仲間たちだった。


 


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