小学校からの友達

早起ハヤネ

第1話 四人組

 岬奏みさきかなではカフェ店でチョコレートバナナパフェを砂山を崩すように少しずつスプーンですくっていた。

 それまでだらだらとスマホゲームをやっていた柏原紫かしわばらむらさきがイヤホンを取り出し、本格的にゲームに熱中し始めた。

 それを見た丹羽所山萌にわとこやまもが、

「おしゃべりもしないのに集まっているのは時間のムダ」

 と学習道具を取り出し、勉強を始めた。

 時間を気にしていた野茨葉月のいばらはづきが立ち上がった。

「ゴメン。わたし、用事あるからそろそろ行くね」

 四人とも小学生からの同級生だった。年齢が高じていくとだいたいのところ取っ替え引っ替え友達への興味対象が変わっていくのに、高校まで友人関係が続いているのは奇跡的だと岬は思っている。

 野茨が店を出て行った後に柏原がイヤホンを外した。

「葉月どうしたって?」

「用事があるからって先帰ったわよ」

 丹羽所だった。

「用事? なんの用事? こんな時間から用事って? もうすぐ十九時じゃん」

柏原が身を乗り出してくる。好奇心旺盛な目の輝きを放っている。

「まさかオトコ? あの子にもついにオトコができたの?」

「やめなむらさき。あの子に限ってそんなことはないと思うわ。妙な勘ぐりするのは下品よ」

 断定調で言ったのは、丹羽所である。

「あの子に限ってって、山萌ちゃんもビミョーに失礼なこと言ってない?」

「選ぶ言葉を間違えたわ。もしかしたら本当に恋愛中かもしれないわね。最近毎日メイクするようになったし、なんだかかわいくなった気もするのよ」

「わかる〜」岬が共感した。

「小学生の時からビン底メガネをバカにされていたあの子がついにお相手を見つけたのかぁ」柏原が感慨に耽っている。

「え? わかる? やっぱり。私だけじゃなくてよかったわ」

「今度写真見せてもらおうよ」柏原である。「どんなイケメンくんなのかしら」

「イケメンとは限んないわよ」

「山萌ちゃんいつも冷静な子でわたし好きだわー」

 それから一時間後。

 会話もなくなり、思い思いに過ごしていた。店員が四人分の水を注ぎ足しにやってくること三回。丹羽所が勉強道具をカバンに片付けて立ち上がった。

「ゴメン、私もそろそろ帰る。ここで勉強するより家に帰ってやった方が全然集中できるし、効率的なことに気づいたわー」

「え、もう帰るの〜」柏原は不満げであった。

「帰る」

「なんで〜?」

「ナンでもカレーでもない。アンタはスマホばっかりやってるし、とくに会話もない。もうお開きよ」

「フーちゃんはまだ帰らないよね?」

「わたし? どうかな〜そろそろ帰りたいかな〜」

「薄情モン」柏原は頬をふくらませた。

 フーちゃんというニックネームは、岬奏が漢字二文字だからふた文字のフーちゃんということに由来する。

 二人がいなくなり、岬と柏原だけが残った。

「アンタまだお母さんとケンカしてんの?」

「顔合わせたら口喧嘩よ。まったく融通が利かないんだから」

「お父さんは? お父さんも反対してるの?」

「お父さんもグルよ。ホントクソジジイとクソババアだわ。あの二人からよくこんなカワイイ子が生まれたのか不思議でならないね〜」

 柏原紫はアイドルのオーディションを受けるほど自他共に認めるカワイイ子であることは事実であり、岬もなぜご両親が反対しているのかわからなかった。やっぱり人気商売は安定していないからだろうか。でも今の世の中には学業とアイドルを両立させているアイドルなんて普通にいるはずだ。

「また今度、地方オーディションがあるんでしょ? ガンバってね」

 ただし上には上がいる。全国にはもっとカワイイ子がたくさんいて柏原紫は地方オーディションのファイナリストにはなれるが、それ以上に達したことが一度もない。

 ふたたび店員がお冷を注ぎ足しにやってきた。

「そろそろ帰ろっかな」

 岬も帰り支度を始めた。

「えッ、もう?」

「もうって何時間いると思ってんのよ。てか、アンタ、ゲームに夢中でなにもしてないじゃん。そんなの家に帰ってやんな。私にとっては時間のムダだし」




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