第21話 そういや先生(?)の名前聞いてない

額が悲鳴を上げていることを報告したら雑に絆創膏を叩きつけられ授業が続く。

前頭葉まで響く痛みはなかなか経験したことのない苦しみであり、彼女が喋っている内容を頭に入れるのがつらい。


「ディエナ共和国とアトミー国は大きい島国だ。ディエナは漁業が主流で魚がうめえがちょくちょく海賊らしい奴も出てるから注意しとけ。アトミーは魔法国家で国民の大半は霊基が人間よりも優れたエルフという種族だ。ケヤト・ルシュブレの属国みたいなもんだから永世中立に等しいが、まあ有事の際はどっちかにつくだろうよ」


エルフ。

耳がとんがってるイメージがめちゃくちゃ定着してるあのエルフでございますか。

こんな世界にきたからにゃ一回は会ってみたいと思っていたがこんなところで情報が手にはいるとは・・・・・・魔法国家ということだし強くなるためには訪れたい場所だし時間が開いたらまた行ってみよう。

かわいい子がいるといいなあ・・・・・・


「下心あけっぴろげにするな6枚におろすぞ」


「すいませんでした」


例の長巻の先端が俺の脳天に乗っかっている。切れ味は鋭く俺の大事な髪の毛が5本ほど犠牲になってしまったようだ・・・・・・

いつの間にか鼻の下が伸びていたらしい。反省反省。


「でー最後、マギウス帝国。魔族の住む土地。空間に満ちる魔力は人間の住む土地の10倍。普通の人間がいればすぐ中毒を起こし死ぬだろうが、貴様はシャルロット様の特製ボディだから安心しろ死なん。真ん中あたりに支配者であるゴエティアってやつがいて、そいつの持つ魔力の脈は大陸全土に広がっている。人間が一歩でも踏み込めば即座に探知されて防衛兵に殺されるだろうから、電撃作戦とかもあまり意味はないと見ていい」


「じゃあ正々堂々宣戦布告したほうがいいってわけですか?」


「・・・・・・まあ、奇襲がそこまで意味を為さないだろうからな」


腕を組み唸る彼女。

神々もなかなか手を焼いているらしい。直々の修正とかあのあたりのボーダーラインがなかなか引きづらいところも問題の一つだろう。

正直言って人間同士の闘争でナーフして魔族との諍いでしないというのがよくわからない。弱肉強食はいいけど同族食いはだめということなのか。


「まあ国についてはこんくらいでいいだろ、正味俺も地理は知らねえからな。こっからが本題だ本題・・・・・・話すのは魔法のことだ、聞いてなかったら大怪我しかねないんだちゃんと気張れ」


「ひゃい」


スライドが切り替わり某フリー素材系の独特な絵柄で溢れたポップな画面に変化する。

題名は『たのしいまほうこうざ』。なおその字だけホラー映画に使われそうなフォントと酸化した血のような色で書かれているため雰囲気の違いで気分が悪くなりそう。


「まず、魔法は魂みたいなヤツである霊基っていう場所にたまる特殊な力を一瞬で消費することで使える代物だ。無論力をどんだけため込めるかは人によって違ってて、貯蔵できる量が多いほど優れているっていうのが人間の基本認識だな。まあ力があればあるほど魔法をぶっ放せんだ、そういう考えになるのは当然だな」


基本的なシステムはロールプレイング系の必殺技システムと同じらしい。

俺の理解しやすい仕組みで随分と助かる・・・・・・発動には特殊条件が云々とか言われだしたら頭から火を噴いて死ぬと思う。


「んでその特殊な力・・・・・・人間の言う魔力は基本空間中に漂うものを吸収して回復する。周りにある魔力の濃度が高いほど回復も早いが、耐性がないと一気に霊基へ魔力が流れ込み最悪の場合それが破損もしくは汚染されんだ。そうなったらもう肉体も瓦解し人間じゃあなくなって魔族の仲間入りって寸法・・・・・・大陸に攻めてった人間はほんの一部を残して全滅したのはこれもあるだろうな」


「おぞましいことをいとも簡単によく説明できますね」


俺がどん引きするのも無理はないと思うでしょうそりゃ。

一気に回復しようとした結果蝕まれて敵の体に作り替えられてしまうとかどこのゲームのバッドエンドなんだか。

なかなかきついお話だけど我慢しないと我が身が危ないと思って頑張ろう。


「まあこちとらなにかが死ぬとか化け物になるとかいうのはよく見てんだよ、言ってしまえばもう食傷気味。俺はこういう立場だから大丈夫だけどお前はどうせ仲間が死んだらぎゃんぎゃん泣いて喚きそうなやつだしせいぜい頑張れや」


一見辛辣な感じに聞こえるが今のは彼女なりの励ましなのだろうと俺は理解できた。

なんだかんだ言って世話焼きなお姉さんみたいな感じなのだ。言葉遣いは少々男勝りにもほどがあるけど。

脱線した、とまた指し棒を持って構え直すあたりちょっと律儀だったりする。


「魔法の一般的な習得方法は、自分の中で特定の呪文を設定しそれをとにかく頭に叩き込む方法が一般的だ。その際に体の部位と魔力の放出位置を関連付けする事で、魔力を送り込むイメージとかしなくたって安定した発動が可能になる。簡単に発動しないようキーワードは長く設定されることが多いな。例えば『スルト』みたいな単語を設定しちまったら『これをこう”すると”』で発動するかもしれねえってわけだ。熟練した使い手ならなおさらな」


つまり誤爆防止のためにそうやすやすと言わないような文章を設定した方がいいということか。

簡易的な呪文は発動が簡単だから故に暴発の危険性も高い。少なくとも他に使わなさそうな文章を2、3節でもいいから作った方が安全だ。

というか例え呪文に使ったのが北欧神話における炎とか破壊の権化なのは偶然・・・・・・なんだろう、たぶん。


「そんでもって人間の文化だと基本呪文は個人個人で作る例は少なくて、学校とかでだいたい統一された暴発しにくい呪文が教えられるんだわ。軍隊的に一斉におんなじ言葉が叫ばれるのかっこよくねって考えに振り回されたやついるだろ絶対・・・・・・てのはおいといてだな。人の霊基の系統で扱いやすい属性ってもんがあって、基本は火水風土と回復、あと少ないが光と闇がある。どれが便利だ貴重だってのは人の尺度だから俺は知らん。で、それに無属性みたいな呼称をされるものがあって基本どの人間にもある程度使え、手を使わずにものを浮かせたり情報を読みとったりできるっちゅうまあ他の属性が使えない可哀想な人間にシャルロット様が与えたお慈悲みたいなやつがあるんだ」


「・・・・・・俺の適正ってのは」


「知るか。鑑定みたいなのに関しちゃ俺は完全な門外漢だ。俺が与えた権能の回復適正は当然あるだろうがそれ以外のこともどうせすぐわかるだろ」


なんか生殺しにされてる気分。

勇者みたいな枠でこの世界に来て得意な魔法が回復以外ありませーんなんてやつはもうなんというかしょっぱいというか。

どうせなら派手にどったんばったんどかーんとやらかして暴れ回りたいんです、まだピチピチの20代(後半)ですから。


「・・・・・・ま、時間的にもこんくらいが終わり時だな。最後に餞別として魔法を一つ教えとこう。『あめつちほしそら、やまかはみねたに、くもきりむろこけ、ひといぬうへすゑ、ゆわさるおふせよ、えのえをなれゐて』。これだ」


「・・・・・・あめつちのうた」


俺をシャルロットさんの元へ連れて行ってくれたあの人(?)の姿が脳裏に浮かぶ。

ちょくちょく話題に上がるあたりそれなりに重要人物なのだろうがなかなか掴めない不思議な存在だ。


「まあ知ってて当然だろうな、あいつが連れてきた奴なんだし。この歌は本気で困った時にだけ唱えろよ、これを使えるのは二回っきりだからな」


回数制限の奥義みたいなものをいきなり教えられてちと拍子抜けした感が否めなくもないが、まあとにかく覚えておいて損はないだろう。

二度きりの大切な技であるということをしっかり意識しておかねば。


「もう貴様のはらわたは治ってる頃だろうさ。そうとなりゃ早く行け、ちんたらしてると土葬されるぞ」


彼女が指を一発弾くだけで俺の体が透けてくる。

もう戻らなきゃいけないのかという口惜しさもあるがいってられはしない。


「あ、ありがとうございました!この恩はどっかで─────────────」


手荒な送り出しではあるがとにかく礼だけ叫ぼうとして、それを言い切らないうちにすとんと意識がぶっ飛んだ。

・・・・・・なんだか、落ちる直前彼女がこう言った気がしたような。


『・・・・・・間引き─失敗──────ろう、──の欠片─、──す──これ滅─創世の───ー・・・・・・』


その時の俺には、何やら意味深な台詞だなあとかなんとかを考える余地はなかった。

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