第20話 女神からの説明なかったからそういうの有り難いけど体罰的なのはやめてくださいってああああ
「くぉんのぉぶぁああああああああああかやろおおおおおおおおおおおおお!!!!」
突如耳元で大声を出されたもんだから俺はたまらず飛び起きた。
重たいまぶたシャッターを無理やりぶち上げ光を入れる。一瞬だけまぶしく感じたがすぐに虹彩やら何やらが調整して適正な視界へ変えてくれた。
俺がいる場所はなんだか凄いギリシャ風神殿のど真ん中。石でできたベッドにマットレスも毛布もなく転がされていた。
目の前にいるのは綺麗なブロンドの女性で、年齢は人間で20歳前後といったところか。背中に2対真っ白な翼が生えているのを見るに天使のようなものだろうと推測できる。
胸の上半分ほぼ丸見えというなかなか刺激的な服装だがここに猥褻物陳列罪などないのだろうし何も言うまい。
「なんですかいきなり」
「なぁにやれやれ系主人公みたいな言い方で悪びれもなくんなことほざけンだよ!!自分のやったこと覚えてるだろ!!」
彼女の口調はなかなか攻撃的で男らしいというかなんというか。
まあそういうあり方も否定してはいけないと知っているので指摘せず、俺はその言葉へ返す。
「ほぼ無計画で猪を〆ようとして返り討ちにあったのがそんなに悪いことですか」
「悪いに決まってんだろ貴様の頭には何が詰まってんだ虚無か!!」
どこから出してきたかもわからない長巻ぽいものの背を俺の首に突きつけすごむ彼女。これは下手なこと言ったら殺されると分かったので遊びの成分は0にして対応せねばなるまい。
「・・・・・・シャルロット様からお達しが出てな、俺が貴様の守護を担当しろって話になったんだよ。あんまちょっかいかけたくなかったんだが、貴様が簡単に死ぬもんだから仕事が増えんだ。ちったあ自分の力量というものを知っておけ頭虚無虚無プリン野郎が」
機嫌の悪い猫みたいに眉間にしわを寄せながらのジト目。
口は悪いが別に敵対者というわけでもないらしい。
「・・・・・・それは、申し訳なかったです。自分の状態とか世界の状況がわからないまま調子乗りました」
「反省してるんだったらそれでいいんだよ。んで、今貴様の体は瀕死だが今の回復力じゃあ間に合わずにお陀仏だ。そこで俺の権能【復元】を貸し与えてやる。特別だぞ特別」
むんず、と俺の顔面が彼女の右手に掴まれる。
その中指だけがもう片方の指でぐぐぐと引っ張られていったあたりで俺はその先を予見した。
千里眼とかなくたってわかる。これは痛いやつだと。
「オラ受け取れぇええええええええええええええ!!!」
ばちんとえげつない音がして俺の額に強烈なデコピンが炸裂。
あまりの出力に一瞬脳しんとうでも起こしたのか意識が飛びかけ、コンマ1秒おいて激痛が走る。
「いでえええええええええええええ!!!!!」
「権能を渡すにゃ試練がいるんだがそれをかーなーり大幅にはしょってやったんだ感謝しやがれ」
腕を組んでむすくれる彼女。
本来なら10日くらいかけてしごきまわそうとでも思っているように思えなんだか恐ろしいというかなんというか。
「ありがとうございます・・・・・・でも、こんな軽々しく貰っていいんですか。権能なんてとんでもないもの」
「いいんだよシャルロット様の命令だからな。つか、復元は俺のもんじゃ・・・・・・いや何でもない」
何やら裏のありそうなお話ではあるがまあ貰えるもんは貰っておこう。
タダより高いものはないってやつだ。
「権能があろうと体が元に戻るまで時間がかかるからな、ここでいろいろたたき込んでおいてやる。いつまた無茶をしでかして俺が働かされるか分かったもんじゃねえから」
彼女がそう言った直後神殿が轟音を上げる。大地震のように床や柱が鳴動し、俺の寝ていた台も変形して椅子と机になる。
上から降ってきた板にはなんらかのスイッチがついていて神代なのか現代なのかよくわからない仕様だ。
「まあどうせ冒険者学校とかいうやつに行くんだろうが今のうちに最低限の知識ぐらいは知っとけ。学校で無知晒して嘲り笑われるのは気分悪いだろうよ」
なんだかんだで優しい彼女が教鞭を取る。
謎の板のスイッチを押し、ホログラムみたいな膜を形成させた。
それには地図が表示されていて、4つの大陸にそれぞれストゥルルラ大陸、ニヴルベイル大陸、ハムトニア大陸、マギウス大陸と黒い太字で名が書かれていて、そのほかに2つ大きい島がある。
「よし、まずはこの世界の話からだ。貴様の体があるのがここストゥルルラ。7つの国が集まったこの世界最大の大陸だ。構成国がリオン聖国、ロンディーヌ社会主義平和国、ティーガ連邦、ケヤト・ルシュブレ永世中立国、ジャイーナ帝国、ドラゴニア公国、イーグルルフタ独立国だ。パワーバランスとしては商業的・武力的にティーガ連邦が、宗教的にリオン聖国が強者って状況」
指し棒を振り回し教師がどんどん情報を投げつけてくるので覚えるのにも精一杯。
まあ前の世界の200近くある国比べたらかわいいもんだと割り切り懸命に取り組みを続ける。
「ドラゴニアとジャイーナの国境にもなってるこのでっけえ谷はデゼスポワールと呼ばれててな。国家元首の初代どもが領地の取り合いをしたときに直接衝突した結果できたやつだ。初代は俺たちに匹敵する力を持ってたせいでんなことになってな、さすがにこれはやべえと思ったのか緊急事態宣言出してシャルロット様が人間のパワー調整してたのはよく覚えてるぜ」
縮尺からして考えるとおおよそ直線に直して7000キロは軽く行く。
こんなことができてしまう人間なんていてたまるかと叫びたいところだが実際できたらしいしなんか怖い。
パワー調整とやらでどうにかなったという話なので現代にはそこまでの脅威はいないと思うが。
「次にニヴルベイル。構成国はルージュノ王国、オリエンツ共和国、シルヴァニルス合衆国の3つ。ここではシルヴァニルスの一強って感じで残った二つは実質的な属国ってところだな。金も力も資源も人もあるからそう簡単に手出しはできない、敵に回すのはやめといた方がいいぜ」
つまりシルヴァニルスは俺の世界で言うところのアメリカみたいなものらしい。
下手こいたら焦土にされるかもしれないということなので絶対に戦争みたいな真似は避けておきたい相手だ。
「んーでハムトニア大陸だな。この星の北半分を実質支配している大国ハムトニア連邦共和国が全部土地を持っている。まあ当たり前だが星回点周りは寒くて大抵の人間はそのまま放り出すと死ぬがここの奴らは寒さに特化した性質を持ってるから素っ裸で海に飛び込んでも死にゃしないように変わってる」
ここで初めて地図画像から切り替わって裸の男性がでかでかと映し出される。
サウナに入っていた訳でもないのに氷の浮かぶ湖へ飛び込んで豪快に泳ぎ回る姿はみていて心臓が縮こまりそうだ。
もとから寒暖差には弱い体質なので殊更きつい。
「ま、簡単にこいつらのノリにつきあうと権能があっても死ぬだろうから気をつけとけ。絶対だぞ」
指し棒の先端で俺の額をぐりぐりと攻撃してくる彼女。
そこまで言うだけある凶悪さであることはよくわかりました。
だからやめてください痛い痛い痛い。
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