第9話 妹さん絡んでなかったら公爵っていい人なのにね
部屋でだらけていた途中ふと疑問に思ったことがあって、俺は聞いてみることにした。一応淑女に対してどうなのという気持ちもあるが、接し方というものを確立させた方がいいと思ってのことだ。
「チハヤって、今何歳なの?」
見た感じでは高校生くらいかと思う頭身なので、少なくとも前の世界に置ける成人はしてないだろうが・・・・・・
「どうだったっけ。今神暦3020年だからー・・・・・・えっと15!」
ちょうど中3くらいの年齢らしい。ちょっと成育が早めなだけでだいたいは年相応だ。
最初の方は冷めた印象を与えてきた目だが、俺と冒険できることが決まってからはめちゃくちゃに中学生らしい煌めきを含んでいる。
「カツノリは?」
「俺は28だよ」
あくまでも精神的な、ではあるが。
体の年齢はシャルロットさんがどう構築したかにもよるし、俺はそれを知らされてないのでわかっていない。
なのでやむなく28と答えざるをえなかった。
「そっか、じゃあ13歳違うんだ・・・・・・あ、言葉」
「別にこのままでいいよ。さん付けもなくて大丈夫」
「・・・・・・わかった」
年上はやはり敬うべきという認識はあるようだが、俺に関してはそうされてもなんだかむず痒いというもの。
口調なんてよっぽどのことじゃないと気にしないし。
「あのさ、カツノリのこと・・・・・・もっと教えてほしいんだ。私ばっか喋ってて、なんか恥ずかしいっていうか」
「・・・・・・ああ、そらそうか」
今のうちに伝えられるだけ伝えておきたいことがいくらかあるにはあるのだが、それは本当に言っていいことなのかというのが悩みどころ。
俺が異世界から来たなんて言って信じてもらえるはずもあるまい。
うんうんと頭を抱え悩んでいると、チハヤが俺を心配して背中をさすってくれた。
優しい手つきでとんとんと叩いたり、撫でたりして安心させようと頑張っている。
・・・・・・隠し事をチハヤにしちゃダメだと俺の中のなにかが言ったような気がしたから、俺は意を決し口を開く。
「信じてくれるとは思ってないけど、言うよ。俺な、実は・・・・・・この世界の住人じゃなかったんだ」
「・・・・・・え?」
きょとんとした顔をして、チハヤが首を傾げる。そりゃそうだ、いきなりそんなこと言われて信じない方がおかしい。
でも俺はとにかく伝えねばならない。まだ躊躇いの気持ちもあるが言葉を続けて紡ぐ。
「また別の世界の・・・・・・日本って国で生まれてさ。そこでちょっといざこざ?みたいなのがあってこっちに飛ばされたんだ。だから魔法を初めここのこと全然わからないし、ここにないもののことを知ってる。例えば、野球みたいなさ」
生産技術はないが、知識としてはまあいろいろと知っている。
車などを初めとする移動手段とか電波通信とかGPSとか。この世界の科学がどこまで進歩しているかはわからないけど、科学しかない時代に生きた人間として教えられることは教えたい。
偏差値55くらいしかない学校卒ですけども。
「・・・・・・その世界には、空飛ぶ機械があるの?」
「あるよ。飛行機とか、ヘリコプターとか、ロケットとかいっぱい。乗り物じゃなければもっといっぱいある」
「・・・・・・そうなんだ。じゃあさじゃあさ、空のいっちばん上にいけたりもするの?」
「行けるね。よっぽど優れた人じゃないとだめだけど、この星を飛び出した宇宙ってところに行くことはできるよ。果てのない世界でものすごく不思議なことが起きるって話だけど」
好奇心を刺激されたのかチハヤからの質問責めに遭う。
チハヤは興奮気味で俺の方へぐいぐい来て今にも抱きつかんという様子。また間違いを起こしかねない状況に陥ったので答えながらもなんとか抑え込んでいく。
まあこれくらい同僚がやらかしたときに押しかけてくるクソ記者どものつまらん質問祭りに比べりゃどうということはない、かわいいもんだ。
「すごいねカツノリのいた世界って!」
「そうだな、みんなすごいものいっぱい作って普及させて、とても面白い世界だったよ。俺は野球ばっかしてたけど」
「野球っていうのも楽しいんでしょ?教えて!」
「もんのすっごく楽しいし教えたいところだけど、実際には最低でも18人ほどいなきゃできないやつなんだよ。いつか人数集めてやりたいところなんだけど」
中継ぎ抑え守備堅め代打代走監督などを加えるとするとそれ以上必要になる。
その上道具もいるし100m×100mくらいの敷地も必要と考えるとなかなかシビアな話だ。
やはりなんにもない状態から始めるというのは至難の業。思い浮かべたものがぽんと出てくる魔法でもありゃいいんだがそんな奴はないしあっても体得してないんだから無理。
ひさしぶりにでっかい壁にぶち当たった気分だ。
「難しいの?」
「まあ、そうだな・・・・・・いつか仲間増えたらしたいところなんだけど」
「じゃあ、冒険者協会みたいなのに相談してみたらいいじゃん。冒険者2級になったら戦闘や採集以外での斡旋も協会に頼めるようになるって聞いたことがある!」
チハヤがめちゃくちゃ考えてくれることに俺は思わず感動し涙がちょちょぎれそうになった。
野球選手やってた時はよっぽどのことでもない限り泣かない男として言われてきたがいつの間にか、涙腺が堤防から土嚢になっちまったらしい。
よく泣く男はなんだかなよなよしいしちょっとかっこわるいので、できるだけ涙は抑えようと心に決めた。
この世界に関することが書いてないかと思って部屋に置いてある古びた図鑑などを読んだりしていると、ドアが4回のノックを受けて鳴いた。
失礼しますと言って扉を開けたのはキアナさんで・・・・・・
「お二人とも、兄ぃが執務室にきてほしいって言ってるから案内しますね。今不都合なことはないですか?」
「俺は別にないっすよ。チハヤは?」
「ないよー」
「では行きましょ」
こっちです、と言ってキアナさんが俺らの前を先導して歩く。
階段を上って廊下を2度曲がった先にある、きれいなカラトゥリアン内装の中でもとりわけ豪奢な作りになっている一部屋の前まで来た。
「ここが執務室です・・・・・・おーい兄ぃ、連れてきたわよ!」
ノックもせずにドアをぶっ飛ばしかねん勢いで開くキアナさん。ことごとく兄に対する扱いが乱雑である・・・・・・やっぱりシスコンこじらせた兄のことが嫌なのだろうか。
「ありがとうなキアナ。じゃあ、二人とも椅子に座ってくれるかな」
社長の座るような大きい肘掛け付きの椅子に座る公爵と対面するように置かれた2脚のゲスト用ソファ。
俺たちはこれからなにがあるのかと好奇心半分不安半分みたいな感情を胸に秘め座った。
革の適度な硬さがなんだか祖国を思い出す・・・・・・
「じゃ、私は部屋に戻ってるから」
「えー」
「えーじゃないでしょ」
むすくれた表情で踵を返し出て行ったキアナさん。
公爵の顔がとても寂しそうに見える。
「・・・・・・公爵、なぜ俺たちをここに」
俺が一つ質問を投げかけてやると、公爵はなんとか元に戻って話を始めてくれた。
「今回は二人がこの国で比較的安全な生活をできるように、いろいろ俺ができることをしようと思って呼んだんだ。まずリオン大聖堂や病院、冒険者協会などいろんなところで使える紹介状を書くからそれを受け取ってほしい」
「いいんですか、チハヤはともかく俺みたいなのに」
「本来なら明確な国籍の提示が必要だが、アデプトゥラのカツノリさんにゃ例外的な許可が出るんだ。何しろ一国に一人か二人しかいない人間なもんでな」
引き出しから羊皮紙の書状を取り出して青黒いインクでさらさらと文字を書いていく公爵。
書き終わったのか、彼は立ち上がり俺たちに一枚ずつその紙を渡してくれる。
美しい文字で「シアングギアナ・ヘルツォーク・フォン・オータムベルク」のサインが最後に書き込まれており、それだけで軽い力のようなものを感じる。やはり名前の持つエネルギーは恐ろしい。
「無くさないように紐付けしておいてほしい。魔封の印に唾液をつけるだけでいいから」
「わ、わかりました」
口に指を突っ込んで舌で唾液を少量塗り、そのまま紙の最上部にある魔法陣らしい模様にくっつける。
瞬間、書かれた文字が全て浮き上がって三次元空間に展開、溶け合って光の帯に変化しては俺の右手首に黒い跡を描く。
「なーにこれ」
チハヤもその跡をつけて不思議そうに手首を見つめている。
刺青的な奴だとすると銭湯入れないんじゃないかしら、心配だわ。
「高度魔法技術の一つだ。それを見せれば自動的に俺の紹介状を持つ人間だとわかるだろうし紙を無くしても大丈夫。手首を切り落とされようと別の場所に印が出るから安心してくれ」
「・・・・・・はあ」
なかなか魔法技術は進んでいるらしいが、果たして俺はそういうものがまともに使えるようになるのだろうか。
心配事がまた一つ、増殖した。
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