第6話 神の鍵とは???
「それにしてもカツノリとやら。服に入れていたあの変な革の塊はなんだ?」
あれから少し歩いたところで、カルロさんが振り返って俺に問った。
おそらく手錠により持てなくなって服の中にねじこんでもらったグラブのことを言っているのだろう。
「ああ、これはグラブって言うんですけど・・・・・・俺の大切なものなんです。これがないと、野球ができないっすから」
「・・・・・・野球?」
やっぱ、知らないらしい。
シャルロットさんに言われた通り、この世界には存在自体がないようだ。
分かってたけど、虚しい気持ちになる。
「カツノリ、ヤキュウってなに?」
「・・・・・・俺の大好きなこと。俺が命を懸けてやってきた競技だよ」
命を懸けてやった結果、球場でいきなり心臓止まって死んだんですけどね。
不整脈の気があった時点でさっさと休んでりゃよかったんだが報告するのを忘れて50登板はしたからな。
あればっかりは自分もたわけが過ぎたと意味があるのかわからない反省。
「そうか。道理で俺がそれから強い”なにか”を感じたのか・・・・・・」
「・・・・・・なにか、とは?」
「さあ?わからないから何となくで言ってるだけさ。勘だよただの」
俺の手錠と繋がる鎖を片手にカルロさんはのんきな鼻歌まで歌ってる。
平和ぼけ出来るだけこの国はましなのかもしれない。
「そういえば、神の鍵ってなんなんですか?」
オータムベルク公爵について話していた途中出てきた文言だが、やっぱりその名の通り神様と出会うための鍵かなにかなんだろうか。
文脈から察するに某かの装備品だと思うが。
「あー・・・・・・それがあんまよくわかってねえんだよな・・・・・・確実に言えることは、ケヤト・ルシュブレ永世中立国の属国であるアトミー国と魔族の住処たるマギウス帝国以外の12国全てに一つ以上の神の鍵が存在すること。あと、それらには全て○○の鍵っていう名前がついていて形も剣や弓など様々であるってことくらいだな」
「はあ・・・・・・それで、オータムベルク公爵の持っているものはどんなやつなんですか?」
今のうちに情報は集めておいた方がいいと俺は更に質問を繰り出す。
ねちっこい性分は意外と得することが多い。
「大剣だ。大きさでいえばチハヤちゃんと同じくらいの大きさで金地に白銀と青の線が入ったとても美しい剣でな、名前は確か・・・・・・愛情の鍵だったはずだ」
チハヤはちょうど目線が180ある俺の顎あたりに来るのでまあ150後半くらいは最低でもってあるはずだ。
それほどまでに大きな剣だと取り回しもめためた大変だろうに、この世界の住人は凄いなあと思う。
「なんかでっかい建物ある。アレ?」
「そうだ、あれがリオンにおける防共要塞カラトゥリアンさ。条約があるからないとは思うが、億が一にでもロンディーヌと交戦になるようなことがあったらあっこが国を守る最前線になる」
道を高い塀で塞ぎ、横から出られないようにときっちり対策もされている小さな城がそこにはあった。
入り口の前には堀と鎖を巻き上げたりして橋を上げ下げするシステムが組まれており、そう簡単には入ってこれないようになっている。
「・・・・・・さてと」
カルロさんが咳払いを2回ほど行って、インターホンに似た機械のボタンに人差し指をつける。
無機質な白の光が機械に灯って、煙のように立ち上ってはスクリーンのようになって人の姿を映し出す。
「自衛軍第3小隊隊長カルロ・ヒルベルトだ。オータムベルク公爵に、難民と遭難者一人ずつの正式な審査を頼みたく来た。対象に敵意なし、そしてひとりは・・・・・・アデプトゥラの可能性が高い」
「あ、あああアデプトゥラですか!?わかりました今すぐ開けさせます!!!」
まーた謎の言葉が飛び出した。
翻訳機能意外とポンコツだなとシャルロットさんの前じゃあ絶対に言えないような文句を心の中で言いつつ、降りてくる橋をぼうっと見る。
ぎいぎい、古い木と鎖を使っているのか軋みがひどい。いつ落ちるかというひやひや感でもはや味方最大の脅威にすらなりかねんレベルの橋だ。
「カルロさん!!!どこでそんな方を拾ってきたんですか!!」
すっ飛んできたのはさっきの機械が映し出していた女性。オペレーターみたいな人で戦闘員じゃあないんだろう。
「国境警備をしていたところこの二人がやってきてだな。普通ならただの難民として係に引き渡すつもりだったんだが・・・・・・」
「アデプトゥラが、いるということで?」
「そうだ。そのあたりのことは今こっちに来ているオータムベルクの方が詳しいからな。いろいろとみてほしかったのさ」
女性があわあわしながら小さい通信機のようなものを操作する。
聞き取れないレベルの早口で何かを伝えた直後、こっちにきてくださいと案内された。
カルロさんのところから引っぱがされた俺とチハヤはされるがまま、橋を通って要塞の中に入っていく。
「外はぼろぼろだけど中はすごいんだねー」
「そんなのんきに言ってられるチハヤのメンタルがすげえよ」
精神には自信があったはずの俺がもう心折れそうだ。
一日でどれだけことが進むのやら。
「ここで待っていてください、オータムベルク公爵にいろいろ伝えねばなりませんので!!」
廊下にまたほっぽりだされた俺たち。
いくら敵性無しっていってもみんな注意力散漫すぎなのでは??
「それにしても、カツノリを拾ったらこんなことになるなんてね」
「・・・・・・その節はものすごく申し訳ない」
チハヤが窓の外に広がるリオンの景色を見て、一つため息のような呼吸をした。
もしかして、ここに来たくはなかったのだろうか。
「チハヤはどうするの?俺は身寄りもないしさ、リオンでどうにかして生きてくしか道はないけど」
「・・・・・・私も、なんとかしてリオンに住まわせてもらうつもり。お父さんとお兄ちゃんは兵士として駆り出されて死んじゃったし、お母さんとお姉ちゃんも、工場とかで無理やり働かされて・・・・・・もういないからさ」
「・・・・・・そっか。なんか、嫌なこと思い出させちゃったな」
「いいよ、別に」
小さく笑うチハヤの顔が、俺にはとても悔しそうに見えた。
やっぱり、家族を奪われた悲しみや苦しみは忘れることなんて出来ないんだろう。
「どうしたの?髪の毛がすごいことになってるけど」
話している途中に俺たちの元へやってきたのはひとりの女性騎士さん。
細い二振りの剣を携え、鎧はめちゃくちゃに軽そうな雰囲気。
紺色の髪がしっかりと頭の上で束ねられており、彼女が少し動くたび毛先も揺れていた。
「・・・・・・この子、ロンディーヌの方から逃げてきた子で」
「そう、せっかく綺麗な色をしているのにもったいないね。ねえ、少し時間をとっていいかな?」
「・・・・・・私はいいけど、公爵さまがいつ呼ぶか」
ちょっと躊躇しているチハヤ。
ちょっとくらいわがまま言ってもいい年頃なのになと思うが俺が言ったところでどうにもなるまい。
「それなら大丈夫。あのバカ兄ぃならどうにでもなるから。行こ行こ」
「はえ、ええ??」
ずいずい引っ張られていくチハヤ。
あの騎士さんは一体何なのだろうか・・・・・・
って、バカ”兄ぃ”って言ってたような。
「・・・・・・これは」
なんかいいか悪いかは置いとくとして、これがきっかけで一つ波乱が起きる気しかしない。
ポンコツ危機察知能力だが、それでも確信できるほどのヤバさである。
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