第5話 偉いさんがやべーやつだと大変だよね
「そういえば、オータムベルクさんってどんな人なんですか?」
一瞬にして騎士から公爵になったらしいし、それだけの武勲かなにかをやってのけたのは間違いない。
そしてそれなりに精神も強い方のはず・・・・・・
「まぁー・・・・・・一言で言えばネガティブだけどものっそい真面目って奴だな。一つ大きな問題を除けば」
後頭部をぽりぽり掻きながら言うカルロさん。
俺の顔を見てはははと苦笑し、その続きを言うか言うまいか逡巡している。
様子からしてよっぽどヤバい事案なんだろう。敵を見ると途端に理性蒸発するとか、魔法使う度にあたり一面焦土とか。
「なんなんですかその大きな問題って」
「・・・・・・あいつには一人妹がいるんだがな」
あれま、はぐらかされた。
なんだつまんないなと思って俺は森の木々へと視線を移す。
さわわ、さわわと優しく風が頬を撫でなんだか心地よい。
そしてざっざざっざとしっかり舗装された道を歩く感覚も楽しく思えてきた。
国境を越える前はあからさまに敵意を孕んだモンスターがうじゃうじゃだったけど、ここらへんはそんなこともない。
白い鳩のような鳥が羽ばたき、俺の行くべき道を指し示しているようだ。
「カルロ、言うんだったら最後まで言ってよ」
「そうですよ、言ってくださいよ気になるんですから」
まだ躊躇していたカルロさんの背中を押した、というか蹴り飛ばしたのはチハヤの一言であった(たぶん俺の言葉効いてないと思う)。
元兵士の威圧感+少女の瞳とかいう逆らえそうもない力に押し込まれたのかカルロさんは口を開く。
「・・・・・・かなり重度のシスコンなんだよあいつ」
宮下克典投手、痛恨のミス。
これから会う(であろう)相手の聞いちゃいけない一面を知ってしまった。耳塞いで聞かなきゃよかった。
心の中で膝からくずおれて絶望する俺の思いはつゆ知らず、チハヤがさらなる質問を繰り出す。
「重度って、どんくらいなの?妹さんいなきゃ自分で首切っちゃうくらい?」
「そんくらいだと思うわ。妹好きすぎて縁談5回くらいなくなったらしいし、妹に彼氏出来たらその間中ゴブリンとゾンビの子供みたいな顔してたしさ、俺がちょっと文句言うと殺すっつって本気で斬りにくるんだわ」
「・・・・・・それはきつい」
俺も前の世界で妹大好き人間とチームメイトになったことはあるが、精々良くご飯一緒に食いに行く程度だった。
そいつも25ほどで結婚したし、ちょっと口が滑って悪口言っても小突かれたくらいだ。
さすがにオータムベルクさんの大好き度合いは病気の域であろう。
「いっつも言ってんだけどさ、自分と違ってキアナは・・・・・・あ、キアナって妹のことな。キアナは頭も良くて騎士の才能もすごいんだ。俺なんかが神の鍵なんて持つ資格ないよ、キアナに持ってもらいたいんだ、これは。ってさ」
なんか神の鍵とかいう聞き慣れぬ文言が出たのは一度置いときまして。
自分を卑下しがちってのは騎士としていいのかどうなのか・・・・・・
「妹があんまりにも完璧なもんだから自分が劣ってるって思ってんだよあいつ。そのくせして木の棒一本で普通の兵士100人は倒せるんだからおかしいんだわ、頭が」
どこの円卓の騎士だ。
などという絶対に伝わらん突っ込みは言わないことにしておいて、俺は他に何を言おうか悩んでいた。
いかんせん俺は語彙力が少ないものでうまく言い表すことができない。
「別に頭悪い訳じゃないんでしょ、お兄さんって」
「ああ悪くないどころか最高にいいんだ。騎士学校も首席卒業だったし顔もまあ愛嬌のあるいい雰囲気さ。どうしてあそこまで自分に自信が持てないのか意味分からんくらいよ・・・・・・って、ちょっとこのあたりスライム増えてきてるな、少し待ってろ」
俺とチハヤをほっぽりだしてカルロさんはルーンベルングとやらを一薙ぎ。
轟!という突風が吹き荒れとれた木の葉が飛び回る。かなり針葉樹に近い木の葉だったので、俺は反射的に顔を手枷のついた腕で覆った。
収まったと思って腕を下げると、緑のにおいが鼻の粘膜を刺激した。横のチハヤは元からぼさぼさの髪がさらに荒れ、後ろ髪が前に来て顔が見えない状況に。ああ、これじゃあ櫛でといてもめちゃくちゃ痛いだろうに。
「・・・・・・大丈夫か?せっかくの髪がもうもっしゃもしゃだぞ」
葉っぱも絡まっている髪に手を伸ばそうとしたが、その前にわんこが体の水を払うかのごとき動きで元に直られてしまった。
別に俺は神経質とかそう言うわけでもないがめちゃくちゃ気になる。
「大丈夫、またどっかで直す」
「・・・・・・そう」
なかなか美には無頓着なようで。
せっかくかわいらしい顔立ちをしているのにもったいない。
「周辺の奴らは一掃してきた・・・・・・ってなんだその髪型」
「あなたが起こした風のおかげですよ」
「・・・・・・すまんかった。ついたらシアンに掛け合ってそれを何とかしよう」
平謝りされるとあまり責められないというのが人の性。
まあいいですよ、こんくらいとだけ言って俺はまた前進するよう促した。
チハヤも大丈夫と言いつつ髪の汚れや枝毛、あとかなり酷使された服を気にしている・・・・・・まあ、年齢は知らないが確実に外見は年若い女の子だ、気にしない方がおかしいと思う。
「チハヤに服も用意してあげられますかね。もうかなり使ってる感じですし。俺のはいいんで、某かの軽装を」
「おそらく駐屯中の騎士には女性もいるはずだからなにか一枚譲ってもらえるか頼み込もう。それで貰えるかは不確定だが」
「・・・・・・していただけるだけでありがたいです」
やはり国を守る人ともなるとものすごく優しい。
なんだかいつの間にか、高圧的な雰囲気も無くなってきたし。
「・・・・・・カツノリ、そんなこと別にいいのに」
「遠慮はしないでいいんだよ。その服が大事なものなのかはまだ俺にゃわからないけどさ、もしもまだ着たいんなら洗って直してから着ような」
「・・・・・・わかった」
チハヤが俯いて、唾をちょっとだけ飲んだ。
なんか、悲しませてしまっただろうか。俺はどうも人との関わりがヘタクソだからなと反省。
「んーっと・・・・・・今でちょうど半分ってところだな。まだ14の刻だし陽が沈む前には着くだろう」
カルロさんが薄い紙をびらりと開けば、白かった表面が一気に地図へと変わる。
ちょうど俺らのいるらしい場所に赤い円が描かれていて、このまま道をまっすぐ行った先にティーラハーフェンとやらがあるようだ。
「これってアーティファクトってやつ?」
「ああそうとも。こりゃ半永久的に使える自在地図だ。少し魔力を流すだけで地脈と反応して場所を示してくれる。その上頻繁に変わる道や建物もきっちり教えてくれる高級品なんだわ、隊長クラスにしか支給されないやつ」
俺の知らない単語がポコポコ出てくるので理解が追いついてないが、まあ察するに魔法を使った便利道具ということなのだろう。一応あとで聞いておこうとは思うけど。
「すっごーい」
なんかものすごく適当なチハヤの賞賛だったがカルロさんは嬉しそう。
まあ本人が幸せなら問題ないと思う。
「足は大丈夫か?疲れたなら休むが」
「私はヨユーだよ」
「俺も大丈夫です。持久力はまあ鍛えてるほうなんで」
それにここいらの道は坂が一切ない平坦な場所。
学生時代、ちょいと古い車だったら確実に滑り落ちておかま掘られてるような坂を登らされた俺の敵ではない。
「そうか、じゃあ休憩なしで行くぞ」
木の葉の間から降り注ぐ陽の光が暖かい。
最初に行く国が物騒ぽくなくて本当に良かったと俺は心の奥で叫んだ。
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