第3話 俺は一級死亡フラグ建築士かもしれない

「いぎゃあああああああああああああ!!!」


今まで一度もあげたことのないような悲鳴を叫び、俺は落ちていく。

いやせっかく新しい人生手に入れたんですしこんなところでは死にたくないです野球したいです生きたいです!!


「うおおおおおおおよけろ俺ぇええええええええ!!」


口の中に風が入ってきて満足な呼吸もできない中、俺はそう叫んだ。

瞬間、轟と突風が吹き荒れ俺の自由落下軌道をずらしてくれる。

幸い木と木の間、葉っぱまみれな絡まった枝の中に落ちたおかげで、ちょっと頬に切り傷を作った程度のけがで済んだようだ。

痛いけども死ぬよか何不可思議倍ましだ。


「・・・・・・はー怖かった」


頭についた葉っぱを取り除きなんとか木から降りることができたのだが、樹液が手にまとわりついたみたいでめちゃくちゃ痒いしかぶれる。

どうやらこのあたりの木はみんなこの木と同品種らしいから、今後は触れないようにせねば・・・・・・


「ったく、シャルロットさんたらいろいろ雑なんだから」


説明も中途半端に落としちゃって・・・・・・ほんとにそこまで急ぐ必要があったのだろうか。

深い深い森の中、見たこともないようなサイケデリックカラーの鳥が飛び回り、殺意のこもった速度で飛んでいく虫はそこらじゅうにいる。

これは相当な修羅の国に来てしまったのかもしれない・・・・・・武器がなんかあるといいんだけども。


「・・・・・・なんか、見覚えのある黒い物体が落ちてるな」


俺の十数メートルくらい前に、光を反射し艶やかに煌めいている物があった。

歩いて近寄り見てみると、それには所々金の縁どりがなされた美しいグラブ。ちょうど親指が入る場所の真上に、「Miya14」と刺繍してあるのでこいつは間違いなく俺のものだ。


「お前もこっち来たんだな・・・・・・いやあめつちさんがお前とボールは繋がってて云々言ってたけどさ」


ほんとにここまで来るとは思わんかったぞ、と土を叩いて払う。

グラブが見つかったのはいいがボールはどこだろうか。あれがなけりゃ登板して投げられない。


「ボールーボールーお前はどこだー」


周囲を探すが全く見つからない。

ボールだけがどこか遠くの場所に出たのだろうか。


「・・・・・・なんか怖いな」


右も左もほんとにわからんこの世界で、いつ化け物が襲ってきてもおかしくない。

シャルロットさんの言うことを鵜呑みにすればここらにも魔族とやらがいる可能性だってあるんだし・・・・・・


「会ったら殺されるかなぁ、そうなったらどうしよ・・・・・・」


負けず嫌いもこじらせた俺だがさすがに勝ち目の無さそうな勝負は挑みたくない。命が懸かるなら尚更だ。


「ぬあー早く・・・・・・野球したい」


禁断症状を発症している。

まるでやばい薬かなんかみたいにボールのことが頭から離れない。ああ、もう無理投げなきゃ俺はおかしくなる。

その場で数秒唸っていた俺の頭を、硬い何かが叩いた。

敵でも現れたか!!と後ろを見ると見覚えのある紅白の球が一つ。


「ぼーるちゅわああああん!!!!」


愛しい愛しいボールちゃん。プロ4年目にして240登板を迎えた俺の人生の友。もうこの硬さと革くささがたまらない。かわいい、もう食べちゃいたい。


「あぁあ早く誰か相手どって投げたい!どっかにいねえか敵・・・・・・は・・・・・・」


ボールちゃんとの再会に舞い上がっていた俺は気づかなかった。

自分の眼前でよだれを垂らしてぐるるるると鳴く、見るからに人を殺しそうな獣がいる。

俺はここにきて何回死亡フラグを立てるのでしょうか、もう早くも二回目でございますよ。

なんて思ってるうちにヤバそうな獣がこちらへ猪突猛進。普段から速度を求めぬ脚力強化を行ってきた俺の鈍足では到底逃げきれそうもない。


「っ・・・・・・止まれ!!!」


牽制の意味でボールを投げる。全力のストレートがヤツに当たるが怯む様子もなし。

むしろ余計に怒らせてしまった可能性がある。


「・・・・・・すいませんでしたああああああああああ!!!!!!」


踵を返し一直線に走る。

もうどこにでてもいいから誰か人に助けてほしい、痛いのは嫌だし死ぬのもまっぴらごめんだ!

戦闘力皆無の俺を救ってくださいお願いします!!

道らしい道から外れ、草の生い茂る場所に突入する。

向こうは草に足を取られ移動速度が遅くなったのはいいが、こちらはもう動けないレベル。

中継ぎだったからスタミナはそんなにないし、力が活きるのはほぼ肩のみ。

へろへろと俺は叢で倒れ、早くも二回目の死を覚悟した。


「大丈夫?」


仰向けになっていた俺の前というか上にいたのは、赤い髪の女の子だった。

かなり余裕のない暮らしをしていたのか、髪はぼさぼさで服は破れかぶれ、もれなく体中泥だらけときた。


「すぐそこにトントンがいるけど」


あんな恐ろしいやつがトントンなどという可愛らしい名前なのか、という疑問というか驚愕はほっといて。

彼女は飄々とした顔つきで俺のことを見下ろしている。ここでの生き方を知っているみたいだ。


「たすけてくださいおねがいします」


「・・・・・・じゃあかわりにこいつは私がもらうね」


「え?」


ダメ元で言ったつもりなのだが、なぜか通ってしまったらしい。

枝をしならせ彼女が跳ぶ。

俺の動体視力を持ってしても見切れないほどの素早い動きでトントンとやらに肉薄し、一蹴で脳天をぶち抜く。

動脈血がぴゅうと噴き出し少女の脚を汚すが、彼女は気にも留めない。


「・・・・・・トントンくらい倒せなきゃ、すぐ魔物にはらわた引きずり出されて食べられちゃうよ。大丈夫なの、そんな貧弱で」


きついお言葉ですが反駁の余地は一切合切ない。実際俺は野球極振り人間だから。


「・・・・・・生憎と俺に戦う力はないんだ」


あるのはこいつだけ。と言ってグラブを見せたが、少女はそれが何か分かっていない様子。

まあ、野球というものがないのだからその道具もわからないよな。


「じゃあ、リオンいこ。あっちは結構安全だし、悪いことしなきゃ大丈夫。ロンディーヌにも行けるけど、あっちは平等平等言って人にひどいことするからいかない方がいい」


いきなり首根っこを掴まれ、引きずられる。

運んでくれるのは有り難いがこれでは尻に大ダメージを負いそうなのでいろいろ交渉の結果背負っていただけることとなった。


「そういえば名前と、種族は?このあたりでは見ない」


「・・・・・・克典。んで、人間」


「・・・・・・そう。私はチハヤ。種族は狼の亜人と人間のハーフ。取りあえず、リオンまでよろしく」


とたたたた、と80kgの俺を背負っているのにも関わらず軽い足取りで走り出す。

足に絡むような草も、刺さりそうな尖った小石もなんのその。

ちょくちょく出てくる獣は踏み台とばかりに蹴り潰してしまうので強いったらありゃしない。

なんか『おいしい肉が・・・・・・』などと悔しがっていたのは聞かなかったことにしたい、うん。


「カツノリ、もう着く」


「え、もう!?」


森を一度抜け、大きな壁を持って行く手をふさぐものが目の前に現れる。

おそらく国境なのだろう。


「なんだ、貴様らは」


まあ、隣国からいきなりきた男女二人組とか怪しいにもほどがあるよな。

それに片方はきれいな服装、もう片方はやたらめったらにぐちゃぐちゃ、これじゃあただの奴隷商人ではないか。

また死亡フラグが立った気がした。

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