縁は異なもの味なもの ⑧
「あっ……」
驚きのあまり、私は思わず声をあげてしまう。
「また食事時にお邪魔してすまんね」
「こんにちは、お邪魔します」
瀧内くんの後ろにいたのは、潤さんのご両親だった。葉月も私と同じように驚いた様子で頭を下げた。
「こんにちは……。ご無沙汰してます……」
「こんにちは……」
潤さんはご両親と一緒にリビングのソファーに座り、少し困った顔をしてため息をつく。
「いつものことだけど……来るときは電話くらいしてくれたらいいのに」
「急に昼から半日時間ができてな。昨日退院したって聞いたから顔見に来たんだ」
葉月が慌ててキッチンへ行き、コーヒーの用意をし始める。私はどうすればいいのかとオロオロしていると、潤さんが私に手招きをした。
「志織、こっち来て」
「あっ、はい……」
潤さんの隣に座るように促され、私も控えめにソファーに座る。
ご両親は私の腕を見て少し驚いた顔をしている。
「志織さんも骨折してるのかい?事故にあったのは潤だけだったんじゃ……」
「はい、私は別の事故で……駅の階段から落ちて骨折してしまいまして……」
「それは災難だったねぇ」
二人そろって別々の事故にあって骨折しているなんて滅多にないことだろうから、驚くのも無理はない。
「そうだ……一応報告しておくけど、この家で志織と一緒に暮らすことになったから、これからは必ず連絡してから来てくれる?」
潤さんが私の方をチラッと見ながらそう言うと、潤さんのお父さんは軽く顔をしかめた。
「一緒に暮らす?」
あれ……?まさかここに来て結婚を反対されるとか、そんなことは……。
だんだん不安になってきて、背中にいやな汗がにじんだ。
「俺も志織も、この通り怪我して日常生活が不自由だから、怪我が治るまでここであの3人に手助けしてもらうつもりだったんだけど、志織のマンションで火事があって……」
マンション火災の影響で一時的に部屋を出なければならなくなったので、この際だから部屋を引き払って一緒に暮らすことにしたと潤さんが説明すると、潤さんのご両親はまたもや驚きの表情を見せた。
「次から次へと災難だねぇ……」
「留守中だったのが不幸中の幸いでした」
「ともかく無事で良かった。しかし問題はだな……」
潤さんのお父さんは腕組みをして、指であごをさすりながら何か考えているようだ。潤さんも同じ癖があることに気付き、やはり親子だなと思う。
葉月がコーヒーを運んできてテーブルの上に置くと、ゆうこさんは「みなさんでどうぞ」と言って、高級洋菓子店の紙袋を差し出した。
潤さんは話が長くなりそうだと思ったのか、3人に先に食事をするよう促す。
潤さんのお父さんはコーヒーを一口すすり、「うーん」と唸りながらカップをソーサーの上に戻し、おもむろに顔を上げた。
「二人は結婚するつもりなんだろ?一緒に暮らすなら、きちんと籍を入れたらどうなんだ?」
私と潤さんは驚いて顔を見合わせた。
潤さんのお父さんが、私の母と同じことを言っている……!
母のように『ついでに』とは言わなかったけれど、結婚を急かしたり、一緒に暮らすと言うと入籍を勧めたり、もしかしたら潤さんのお父さんもかなりせっかちなのでは?
「そんなこと言ったって、親父たちは志織とは一度顔を合わせただけだったし、親同士の挨拶もまだだろ?それに俺たち今はこんな状態だから」
潤さんはお父さんの方を向いたまま、自分と私を交互に指さした。
「骨折してても入籍はできるぞ」
「いや、そういう問題か?」
「そういう問題だろ?いくら婚約者とは言え、結婚もしてないのによそ様の大切なお嬢さんを一緒に住まわせるのは、ご両親に申し訳ない」
なんと古風な考え方だ。
それに私はもういい歳をした大人だし、お嬢さんと言われるほどの箱入りでもない。
もっと言えば、一緒に暮らすことに関しては両親からの許しは得ているのだから、ひとつも申し訳なくなんてないのだけど。
「あのー、それでしたら……両親には潤さんと一緒に暮らすことになった経緯は説明してあるんですけど……怪我が治ったら改めてご挨拶に伺って、私の両親とも会っていただいてから、結婚の話を進めようかと相談していたんです」
私がおそるおそる口を開くと、潤さんのお父さんは突然立ち上がった。怒られるのかと思って、ビクッと肩が跳ね上がる。
「よし、じゃあ今から行こう!」
「…………え?」
潤さんはお父さんを見上げ、その勢いに圧倒されてポカンとしている。
「これから志織さんのご両親にご挨拶に行こう!」
「はあぁぁ?!」
お父さんのあまりの唐突さに面食らった潤さんが大声をあげた。
私は驚きのあまり言葉も出ない。
「思い立ったらすぐ行動!よし行こう、今すぐ!」
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