縁は異なもの味なもの ⑦
何を思い出してそう言ったのだろうと考えていると、瀧内くんは私の方を見てニコッと笑う。
「思ってたより早く済んじゃいましたね」
「あ……うん、そうだね」
「ついでだから、志織さんの新しい服でも買いに行きますか?」
瀧内くんがそう言うと、私を押しのけて葉月が身を乗り出した。
「それええな!志織、私が一緒に選んだるから行こうや!めっちゃかわいい服選んで、三島課長喜ばせたろ!」
「……うん!」
それから潤さんの家までの道のりにあるショッピングモールに立ち寄り、みんなに選んでもらった普段着やコート、仕事用のスーツを買った。
私が自分では選ばないようなかわいらしい部屋着には少し躊躇したけど、葉月が『絶対に似合うって!引っ越し祝いに私が
伊藤くんは「これから寒くなるから」と言って、潤さんとおそろいで、通勤にも使えるシックなデザインのマフラーを買ってプレゼントしてくれた。
そして瀧内くんは、『帰ってから二人だけのときに開けてください』と言ってブランドショップの紙袋を差し出した。
「ありがとう……。でもこれって中身は……?」
「開けてからのお楽しみです」
一体何が入っているのだろうと気になったけど、言われるまま中は見ずに、他の荷物と一緒に車に積み込んだ。
ショッピングモールで買った大量の荷物を持って帰ると、潤さんは目を丸くして驚いた。
「あれ?買い物に行ってたのか?部屋の荷物は?」
「帰りに必要なものを買ってきた。部屋にあったものは、これ以外全部処分することにしたの」
スポーツバッグを指さして言うと、潤さんは不思議そうに首をかしげた。
「全部って……。なんでまた?」
直接水に濡れていなくても臭いと湿気がひどかったことと、気持ちよく新生活を始めるために処分することにしたと話すと、潤さんはなるほどと言った様子でうなずいた。
「そうか、それじゃあしょうがないな。しかし思いきったなぁ……」
「うん。思いきって古いものは捨てることにしたら、すごく気持ちが軽くなった」
「そうか、それなら良かった。じゃあ……少し遅くなったけど昼飯にするか。みんな腹減ってるだろう?」
潤さんがそう言うと、伊藤くんと瀧内くんは飛び跳ねるようにして潤さんの方を振り返った。
「志岐、玲司、手を洗って食事の準備をしようか」
「はい!」
潤さんの一声で二人は急いでキッチンへ向かい、手を洗い終わるとお茶碗や箸などを食器棚から出したり、冷蔵庫からゆうべのお好み焼きの残りを出してレンジで温めたりし始めた。
これまでは食べる専門で、食事の準備が整うまで座って待つだけだった二人が、一体どういう風の吹きまわしなのか。
不思議に思いながら隣を見ると、潤さんは楽しそうに笑いをこらえている。
「潤さん、伊藤くんと瀧内くんにどんな躾をしたの?」
「ん?『働かざる者食うべからず』って言っただけだよ」
なるほど、それは食欲旺盛な彼らにとって一番堪える言葉だ。いとこの優しいお兄さんから課長モードになった潤さんは、部下の躾には厳しいらしい。
葉月はニヤニヤ笑いながら、小学生のお手伝いのようにたどたどしい動きの伊藤くんと瀧内くんを眺めている。
「さすが三島課長やわ。仕事だけやのうて、子どもの躾も完璧ですね」
「まぁ、あいつらでっかい子どもみたいなもんだからな」
伊藤くんと瀧内くんの奮闘ぶりを嬉しそうに笑って見ている潤さんが、なんだか授業参観に来たお父さんみたいに見えてきた。
「元々二人とも器用で要領はいいから、教えてやればちゃんとできるんだ。木村も簡単なことから少しずつでいいから、料理とか家事のやり方を教えてやって」
「わかりました。三島課長って、ホンマええお父さんになりそうですねぇ」
葉月にそう言われると、潤さんは少し照れくさそうに笑う。
「そう言う木村はバリバリのオカンになるんだろ」
「当たり前ですやん。ほな、オカンもごはんの支度しますわ」
「よろしく」
葉月もキッチンへ行って昼食の支度を始めた。
私も何か手伝おうと思ったけれど、キッチンに行くとかえって邪魔してしまいそうなので、おとなしく座って待っておくことにした。その間に潤さんに、月曜日に荷物を運び出してもらってマンションを引き払うことを話す。
そして瀧内くんから聞いた、潤さんのお父さんが年明けから海外へ行く話をしようとすると、部屋にチャイムの音が鳴り響いた。
「僕、出てきます」
瀧内くんはキッチンを出て玄関に向かう。
「誰かな」
来客の予定はなかったようで、潤さんが首をかしげていると、応対するために玄関に行った瀧内くんが、リビングにお客さんを二人連れて戻ってきた。
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