See you lover,so goo!~修羅場遭遇~⑧

 ちょうど瀧内くんの住んでいるマンションに到着して、三島課長は駐車場の端の方に車を停める。

 瀧内くんはシートベルトを外し、少し身を乗り出した。


「三島課長、ちょうどいいから佐野主任にお願いしたらどうです?」

「えっ、佐野に?!いや、でも……ええっ?!」


 三島課長がかなり焦った顔をして後ろを向いた。メンバー増員の件ならもう話は済んだはずなのに、私にこれ以上何を頼みたいと言うんだろう?

 そして私に何がちょうどいいって?

 もしかしてここでも食事の準備とか頼まれたりするのかと思ったけど、それくらいで三島課長があんなに驚くだろうか。


「私にちょうどいいって……何が?」

「瀧内、いいって。佐野にそんなこと頼めないから」


 三島課長は慌てて止めようとしたけれど、瀧内くんはまったく聞く耳を持たない。


「佐野主任にちょうどいいんじゃなくて、佐野主任がちょうどいいんですよ。適任というやつです」


 それはいいことなのか悪いことなのかわからないけれど、瀧内くんが言うと何か後が怖いような気がする。とんでもないことを頼まれたらどうしよう?


「まさか法に触れるようなことではないよね?」

「佐野主任は僕をなんだと思ってるんですか?いくら僕でも、さすがにそれはありません。人助けだと思って三島課長の婚約者になってください」


 瀧内くんの口から発せられたミッションがあまりにも予想外過ぎて、私はしばらくその意味を理解できなかった。三島課長は右手で顔を覆って絶句している。


「あの……そこんとこ詳しくおうかがいしても?」

「瀧内、その件はもういいよ。佐野もホントに気にしなくていいから」


 三島課長はなんとか瀧内くんの発言をもみ消そうとするけれど、瀧内くんは一歩も引かない。


「もういいということは、佐野主任以外に協力してもらえるあてはあるんですね?それとも覚悟を決めたんですか?」

「いや……それは両方ないけど……」

「だったらやっぱり佐野主任に話だけでも聞いてもらうべきです」


 なんの話をしているのかよくわからないけど、最近仕事以外で二人が一緒にいるところをよく見掛ける気がするし、それだけ仲が良いということなのか、三島課長と瀧内くんの上下関係が逆転しているように見えるのは、私の気のせいではないと思う。

 誰に対しても優しい三島課長とハッキリものを言うクールな瀧内くんは、正反対のようで、なかなかいいコンビかも知れない。


「そうだ、瀧内は明日の朝が早いんだろ?早く帰って休んだ方がいいぞ!」

「それもそうですね。じゃあ帰りますけど、そういうことですのでよろしくお願いします、佐野主任」

「えっ?!」


 そういうことってどういうこと?

 いくら説明が面倒でも、すべてが雑すぎやしないか!


「詳しくは三島課長から聞いてください。それでもわからなければ、今日はもう遅いので明日連絡ください」


 瀧内くんに翻弄されている感が否めない三島課長と、何がなんだかさっぱりわからない私を残し、瀧内くんはさっさと車を降りてマンションの中へと姿を消した。

 三島課長は私に住所を聞いてナビを設定し、大きなため息をつきながらサイドブレーキを解除した。シフトレバーをパーキングからドライブにチェンジして、ゆっくりとブレーキから足を離す。

 車の運転には性格が出るとよく言うけれど、三島課長の車を発進させる当たり前の動作がとても滑らかで、思わず見とれてしまった。


「……とりあえず行こうか」

「はい、お願いします」


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