See you lover,so goo!~修羅場遭遇~⑦
「佐野主任も練習に参加してみませんか?」
「えっ、私が?」
「佐野主任もたしかバレーボール経験者なんですよね」
「うん、まあ……そうなんだけど……」
経験者と言っても、私がバレーボールをしていたのは小学4年から小学校を卒業するちょっと前までのことだ。もう何年……いや、十何年もブランクがあるから、あの頃のように機敏には動けないだろう。
コートの中で顔面にボールをぶつけてぶっ倒れるみっともない私の姿が容易に想像できる。
「いや、やっぱり無理だよ……。私がやってたのは子どもの頃だから」
「僕も中1の夏休み前にはバレー部辞めてますけど、子どもの頃に覚えたことって体が覚えてるから、意外と動けるもんですよ」
なるほどと納得しかけたけど、よく考えたら瀧内くんは私より3歳も若い。それだけ体力もあるし、ブランクも短いっていうことだ。
「仕事の後に運動するのはちょっと……体力的にあまり自信ないんだけど……」
「女子メンバーにはバレー初心者もいるし、日頃の運動不足を解消するためにみんなでワイワイ言いながら体を動かして楽しんでる感じなので、そんなに身構えなくても大丈夫です。そうですよね、三島課長」
「ああ……うん、そうだな」
瀧内くんが突然おしゃべりになってグイグイ私を誘うから、三島課長も驚いてポカンとしている。
私を誘ったってなんの得にもならないと思うんだけど……女子メンバーが足りなくて募集中なんだろうか?
「仕事の後も休日も、誰かを待つだけでなく自分のために過ごすのは楽しいと思いますよ」
瀧内くんはそう言って意味ありげな笑みを浮かべる。それは都合のいい飯炊き女から脱却するチャンスだと言いたいのか?
たしかに私にはこれと言った趣味もないし、予定のない休日は一人分の家事をするくらいで、何をするでもなく時間を持て余して終わる。
自宅と会社の往復、そして時々スーパーへ食料品の買い物に行くだけの毎日では寂しい気もする。それになんだか楽しそうだし、久しぶりにバレーをやりたくなってきた。
「そうだね。運動不足の解消もしたいし、いろいろ発散できる場が欲しいとは思ってたんだ。楽しそうだし行ってみようかな」
「ですって。良かったですね、三島課長」
瀧内くんの一言に三島課長が少し驚いた顔をして後ろを振り返ると、瀧内くんはすかさず前方を指さした。
「危ないんで前向いてください」
「あ、ああ……」
三島課長は慌てて前を向く。
「なんで『良かった』なの?」
「誰かいないのかって、ずっと言われてたんですよ。ね?」
「ああ、うん、そうだな」
三島課長はひたすら相槌を打つ。
さっきからなんとなく三島課長がソワソワしているように見えるのは気のせいだろうか。
「誰かって?」
「一緒にバレーができそうな誰かです。女子メンバーが少ないので誰かに声かけてくれって、サークルのお姉さんたちから、それはもう熱心に言い寄られて」
どうやらこのバレーサークルは、人数は少なくても女子の方が強いらしい。三島課長が元気な女性たちに囲まれ詰められているところを想像して、吹き出しそうになった。
「たいした実力はありませんが、一人増員ということで少しはお役に立てますか?三島課長」
私が尋ねると三島課長は少しだけこちらに視線を向け、笑ってうなずいた。
「次の練習日は日曜日だから、都合が良ければぜひ」
「じゃあ土曜日に必要なもの買いに行きます、ジャージとかシューズとか。他に必要なものがあったら教えてください」
せっかく新しいことを始めるんだから、ちょっといいものを買ってみようかな、なんて思っていると、瀧内くんがまた「そうだ」と呟いた。
話の流れでいろいろと思い出すことがあるようだ。
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