See you lover,so goo!~修羅場遭遇~⑥
「お互いに誤解とかすれ違いがあるんじゃない?別れた経緯に納得が行ってないなら、ちゃんと順を追って話せばどう?」
「……今さらだろ?どっちにしたって、あいつは俺より幼なじみの男を選んだわけだから」
本当はまだ未練があるから『結婚しろ』なんて言ったのだろうけど、葉月に負けず劣らず伊藤くんも意地になっているようだ。
どうにかならないものかと考えているうちに、車は伊藤くんのマンションに到着した。
葉月の住んでいるマンションからずいぶん近い。本社に戻って来るときに、葉月の家からそんなに遠くないところを選んで部屋を借りたとしか思えない。
部屋が余っているようなことを言っていたけれど、もしかして葉月とヨリを戻せたら一緒に暮らすつもりで、わざと広い物件を借りたんじゃないかと思うのは勘ぐりすぎだろうか。
伊藤くんは私たちに「お騒がせして申し訳ありませんでした」と頭を下げて車を降りた。
私と瀧内くんは最寄り駅が同じだけど、私は駅の南側に住んでいて、瀧内くんの家は駅の北側らしい。明日の朝が早いので早く帰りたいと言っていたし、道順も瀧内くんの家の方が近いので、先に瀧内くん、最後に私が送ってもらうことになった。
普段から口数の少ない瀧内くんが自分から積極的に話しかけてくることは滅多にないので、車中での会話はほとんど私と三島課長がして、たまに三島課長から話を振られた瀧内くんが相槌を打つか返事をするような感じだった。
三島課長の運転は乱暴なブレーキングも雑なハンドルさばきもなく、同乗者への気配りと優しさに溢れていて安心安全、とても快適だ。こういうところにも人柄は出ると思う。
葉月と伊藤くんがいるときは気にする余裕もなかったけど、落ち着いてみると独身の三島課長がなぜミニバンに乗っているのかが気になる。なぜなら三島課長の車は、千絵ちゃんの旦那さんが欲しがっている車と同じ車種なのだ。
まだ3人ともチャイルドシートが必要だから、5人乗りのコンパクトカーでは家族揃って車に乗れないと嘆いていた旦那さんと、子どもたちがまだ小さくて世話が大変だから長めに里帰りする予定だし、しばらくは家族揃って出掛けることなんてないから慌てる必要はないと渋っていた千絵ちゃんの顔を思い出した。
バリバリ働いてしっかり稼いでお金がないわけではないのに、千絵ちゃんはやけに財布の紐が固い。そしてそんなしっかり者の千絵ちゃんの尻に敷かれながらも、旦那さんは幸せそうだ。
「三島課長も家族が増える予定があったりするんですか?」
信号待ちをしているときに私が何気なく尋ねると、コーヒーを飲んでいた三島課長が驚いてむせてしまった。
「大丈夫ですか?」
「いや、家族って……なんでまた急に……?」
三島課長の慌てぶりがツボだったようで、瀧内くんは後ろの席で必死に声を殺して笑っている。
「この間いとこに3人目の子どもが生まれて、旦那さんがこれと同じ車を欲しがってるっていうのもあるんですけど、ミニバンってファミリーで乗るイメージが強かったので」
「なるほど……たしかにそうだな。でも残念ながら家族が増える予定はないよ。俺は独身だけど人を乗せる機会が多いから、大きいのに買い替えただけ。ちょうど買い替えようと思ってたし」
「そうなんですね」
大きな車を選んだ理由が人を乗せるためというところが、とても三島課長らしいなと思う。きっと会社の同僚やバレーサークルのメンバーを乗せて遊びに行ったり、今みたいにそれぞれの家まで送り届けたりもするんだろう。本当に面倒見のいい人だ。
信号が青に変わる直前、ようやく笑いのおさまった瀧内くんが、「そうだ」と呟いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます