See you lover,so goo!~修羅場遭遇~③
「……嘘つくなよ」
「つかへんわ」
「絶対だな?じゃあさっきのも嘘だったら許さないからな」
「しつこいな!嘘ついたらハリセンボン飲んだるわ!」
葉月はこの状況でもボケるのか?
関西人でもないのに『ハリセンボンじゃなくて針千本だよ!』とツッコミたくてウズウズしている私は、どうやら葉月にかなり感化されているらしい。
「よし、ハリセンボンだな。佐野、ペン持ってる?」
葉月と喧嘩していた伊藤くんが、どうして急に私にペンを貸せと言うのか?まさか……それで葉月を刺したりはしないよね?
「持ってるけど……なんで?」
「ちょっと貸して」
いくらなんでもちょっと深読みし過ぎかなと思い直し、バッグからペンを取り出す。
「別にいいけど……ちゃんと返してね」
「ありがとう」
伊藤くんは立ち上がって私からボールペンを受け取ると、スライドドアに手をかけてくるりと振り返り、ビシッと葉月を指さした。
「ちょっと待ってろ。逃げるなよ」
「はぁ?なんで私が逃げなアカンねん!自分こそ逃げんなよ!」
まるで小学生の喧嘩みたいだと思ったのはきっと私だけではないと思う。
伊藤くんはみんなの分のコーヒーと葉月の水を買って戻ってきた瀧内くんと入れ替わりで車を降りて、急ぎ足でコンビニの中に入って行く。
「伊藤先輩、どうかしたんですか?」
「さぁ?嘘つくなとかつかないとか、葉月と言い合いしてたと思ったらペンを貸してくれって言って、貸したらいきなり車を降りて……」
瀧内くんは飲み物を配りながらコンビニの方に視線をやって、納得した様子で「ああ……」と呟いた。
私も瀧内くんと同じように窓の外を見る。伊藤くんは店内で何かを探しているようだ。
お店の窓には、雑誌の最新号や季節限定商品の他に、コンサートチケットなどの宣伝ポスターが貼られている。その他に目に付くものは、ごみ箱とか証明写真を撮影する機械くらいで、それを見ただけで瀧内くんに何がわかったのか、私にはさっぱりわからない。
「なぁ、佐野……あの二人の喧嘩っていつもあんな感じなのか?」
三島課長は缶コーヒーのタブを開けながら、コソッと私に尋ねた。
「いえ、私も初めて見たんです。二人が付き合ってたことも知らなかったくらいで」
「たしかに意外な組み合わせだよなぁ……」
意外過ぎる組み合わせだったから、私は両方から話を聞いているにもかかわらず、葉月と伊藤くんがお互いの話をしていたことにまったく気付かなかったんだと思う。
瀧内くんはミネラルウォーターのペットボトルのキャップを開けて葉月に差し出した。
「木村先輩、水飲んでください」
「うむ、苦しゅうない!
葉月は殿様にでもなった気分なのか、瀧内くんの頭をわしゃわしゃっと撫で回した。
「瀧内は気が利くなぁ。かわいいやっちゃ!」
瀧内くんは子犬にでもするかのように頭を撫で回していた葉月の手をガシッとつかみ、自分の頬に押し当てる。
「そうですか。だったら僕と付き合いますか?」
「えっ?」
「僕とならつまらない喧嘩もしないと思うし、伊藤先輩より僕の方がずっと木村先輩を大事にしますよ」
こういう台詞を言わなさそうな人が言うと、本気で言っているのか、それとも冗談のつもりなのかがまったくわからない。おまけにきれいな顔立ちの瀧内くんに至近距離で言われると、破壊力がすごくて思わずクラッと来てしまいそうだ。
葉月も返す言葉に困ったのか真顔になって、スッと手を引っ込めた。
「もちろん冗談です。本気にしましたか?」
「……やっぱり全然かわいくないわ」
「そうでしょう。僕も成人男性ですからね。だけど木村先輩は意地を張らずにもうちょっと素直になって、甘えるくらいの方が断然かわいいと思いますよ」
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