See you lover,so goo!~修羅場遭遇~④
いつもクールで他人には興味なさそうな瀧内くんが、こんな甘いことをサラッと言えるなんて思わなかった。葉月も三島課長もかなり驚いているようだ。
だけど瀧内くんの言うように、葉月も伊藤くんも、もっと素直になればいいと私も思う。
二人とも私に話してくれたときは、今でも大好きでどうしようもないという気持ちがヒシヒシと伝わってきたのに、お互いの顔を見るとどうしてあんなに意地を張るんだろう?
いくら私がお節介でも、相手を想う気持ちは自分の口から直接伝えるべきだと思うから、二人を見ていると余計に歯がゆくなってしまう。
「言葉にすればたった一言なのに、本当に素直じゃないんだから……」
私のひとりごとに瀧内くんが無言でうなずいた。
そのとき、コンビニへ行っていた伊藤くんが重そうな分厚い雑誌を手に戻ってきた。
「このタイミングで、なんで雑誌……?」
心底不思議に思ってそう呟くと、瀧内くんが人さし指で私の肩をトントンと叩く。
「あれですよ、ほら。ピンクの……」
「ピンクのあれ?」
瀧内くんが指さしたのは、伊藤くんが手に持っている雑誌のポスターだった。
「なになに……?ウエディングマガジン HAPPY!10月号……特別付録【幸せを呼ぶピンクの婚姻届】……?」
伊藤くんはまさしく今、雑誌の帯を外し、中ほどのページにはさまれていた付録の袋の中から、薄っぺらい紙切れを取り出して広げている。
そして後部座席の車内灯をつけ、雑誌を下敷き代わりにして、私が貸したボールペンと一緒に葉月に差し出す。
「嘘つかないって言うなら、誓約書としてこれを書け」
葉月は差し出された婚姻届にじっと目を凝らし、さすがに驚いた様子で顔を上げた。
「何言うてんの?なんで私が……」
「さっき俺に電話してきて言っただろ、『私アンタと結婚するわぁ』って!俺は葉月に言われた通り、未来の嫁を迎えに行ったんだからな!」
「えっ、嘘?!」
「嘘じゃねぇよ!なぁ、佐野?」
テレビドラマでも見ている気分で傍観しているところを、急に同意を求められて驚き、心臓が止まるかと思った。
私、ここ数日で寿命が数年縮まったんじゃないだろうか。
「う、うん……。葉月、あのとき伊藤くんに電話したんだよ。嘘だと思うなら発信履歴を見て。本当だってわかるから」
葉月は一気に酔いが覚めた様子で、慌ててポケットからスマホを取り出し、発信履歴を確認して青ざめた。
「ホンマや……シゲじゃない……」
「シゲじゃなくてシキだ、間違えんなっつーの。人違いだかなんだか知らないけど、約束は守ってもらう。葉月は嘘つかないんだから、俺と結婚するんだろ?それともハリセンボン飲むのか?」
葉月も伊藤くんも、こんな小学生の喧嘩みたいなプロポーズで本当にいいのか?
いくらお互い好きでもなかなか素直になれないからって、今後の人生を左右する大事なことなんだから、もうちょっと冷静に話し合って決めた方がいいんじゃなかろうか。
「伊藤……そんな大事なことは、せめて木村がシラフのときにきちんと話して、二人で決めろよ」
三島課長も同じことを思っていたようで、なんとかして二人を落ち着かせようと仲裁に入る。しかし伊藤くんは、頑として一歩も引かない。
「ダメです!こいつすぐに逃げるから、絶対に今じゃないと!」
「逃げへんし嘘もつかんって言うてるやんか!結婚したらええんやろ!」
葉月がムキになって言い返すと、瀧内くんが呆れた様子で盛大にため息をついた。
「伊藤先輩も木村先輩も子どもじゃないんですから……そういうときには、まず相手に言うべき言葉があるでしょう」
至極まっとうなことを冷静な口調で後輩に言われ、伊藤くんも葉月も戦意喪失と言ったところだろうか。さっきまで向かい合って火を吹いていた巨大怪獣が、シュルシュルと縮んでいく映像が見えた気がした。
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