暗中模索③
恋人へのメッセージを他人に見せるなんて、こっちはさっきから恥ずかしくて身体中がかゆくなりそうだというのに、瀧内くんはどうしてそんなに冷静でいられるんだろう。
瀧内くんは彼女に対して一体どんなに甘いメッセージを送るのか、私もこっそり覗いてみたいものだ。
なんとなく不公平だと思いながらメッセージを送信して、カップに残っていたコーヒーを飲みきろうとしたとき、護からの返信があった。
【なかなか連絡できなくてごめん。
俺も会いたかったんだけど、最近ずっと仕事が忙しくて疲れてたから毎日帰ってすぐに寝てた。
今日は仕事終わったら行くよ】
……嘘ばっかり。昨日も一昨日も、ずっと奥田さんのところに行ってセックスしてたくせに、一体どんな顔して会いに来るんだろう?
嘘をつかれたことに対して腹が立つより呆れてしまい、無意識にため息がこぼれた。
私のその様子で瀧内くんは察しがついたらしい。
「橋口先輩からですか?」
「うん」
護からのメッセージを見せると私と同じように感じたのか、瀧内くんは呆れた顔をしてため息をついた。
「とんだ大嘘つきですね」
「……だよね」
私も思わず苦笑いした。
護はいつから平気で私に嘘がつけるようになったんだろう?それとも私が知っている優しい護の方が、嘘の皮をかぶった護だったのか?
だとしたら私が気付いていないのをいいことに、奥田さんと浮気するずっと前から……いや、もしかしたら私と付き合う前から、たくさんの人と体だけの関係があったのかも知れない。
ひとつ疑い始めると、またどんどん猜疑心が深くなってしまうから、私は深くなっていく心の闇を無理やり振り払おうとした。
「とりあえず……今週末は橋口先輩といつも通りに過ごして、今後のことを改めてよく考えてください」
「今後のこと?」
「本当にまだ好きなのか、この先もずっと付き合っていきたいのか、それとも別れたいのか。実際に橋口先輩の態度とか反応を見てから判断した方がいいと思います」
瀧内くんはいつも以上に淡々とした口調でそう言ってカップを持ち上げ、すっかりぬるくなったコーヒーを飲み干した。
「それで佐野主任がどんな答えを出しても僕は止めません。一緒にいて幸せだと思える相手を選ぶべきだと思いますから」
「うん……そうだね。そうする」
瀧内くんの言う通りだと思いながら、私もコーヒーを飲み干す。
もしかして瀧内くんは私よりずっと恋愛経験が豊富なんだろうか?普通に考えて、元上司の恋愛のゴタゴタに自ら関わる物好きなんてなかなかいないと思う。瀧内くんには私のこの状況を黙って見過ごせない何らかの理由があるのかも知れない。
朝礼が始まる直前、奥田さんが急いでオフィスに駆け込んだ。
「ギリギリ間に合ったー!」
いつものことだけど、もう少し余裕を持って出社できないものだろうか?
もしかしたら朝まで護と一緒だったのかも知れない。思わず護と奥田さんが裸で抱き合うシーンを想像してしまい、ギリッと奥歯を噛み締めた。
私がなんにも知らないと思って、護は私に嘘をついて奥田さんを抱いている。奥田さんは護に抱かれながら『彼女のくせに護に愛されていない女』を馬鹿にしてるんだろう。
特別好きでもないくせに、遊びなんかで私の護に触れないで。
悔しくて胸の奥がモヤモヤして、吐き気がしそうなほどの不快感が込み上げた。
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