目撃証言④

 男を手玉に取って楽しむ奥田さんもさることながら、仲良くしていると見せかけて本人のいない場所では他人に聞こえるように陰口を叩くなんて、本当に女子は恐ろしい。


「それにしても……類は友を呼ぶって言うけど、奥田もその連れもホンマにタチ悪いな」

「同性からは何を言われてても男受けはいいですから、奥田さんを狙ってる人は常に何人かいますよ。橋口先輩も引く手数多みたいですね」


 ……ということは、奔放なのは奥田さんだけでなく、護には奥田さん以外にも複数の浮気相手がいるということだろうか。もしかしたら瀧内くんは、護が他の女の子と一緒にいる現場にも遭遇しているのかもしれない。

 だけどもうこれ以上そんな話を聞くのはつらいから、私はあえてそれをハッキリと聞くことはしなかった。

 どうやら護は私が思っているより、はるかにモテるらしい。私が彼女という立場に安心しきって、なんの疑いもなくのうのうとあぐらをかいていたのが悪いのか。

 確かに私は油断していたかも知れないけれど、それが彼氏の浮気を許す理由になるとは思えない。


「お互い遊ぶ相手には困っていないみたいだし本気ってわけでもなさそうですけど、佐野主任はどうしたいんですか?このまま知らないふりをしてやり過ごすんですか?それとも別れるんですか?」


 どうしたいんですか?と言われても、瀧内くんから聞いた護の話があまりにも衝撃的すぎて、どうしたいのか、どうすればいいのか、さらにわからなくなってきた。

 私の知らないゲス男の話を聞いたみたいで、私が3年も付き合ってきた護の話だなんて信じられない。だけど瀧内くんが嘘をついているとも思えない。

 奥田さんとの関係が半年以上も前から続いているということは、護の浮気は一時の気の迷いとか衝動的なものでもなさそうだ。

 これまでなんの疑いもなく一緒に過ごしてきたけれど、もしかしたら護には本命の彼女が別にいて、私の方がタダメシを食べさせてもらえる都合のいい女なのかもしれないなどと考えていると、瀧内くんは返事をしない私にしびれを切らしたのか、小さくため息をついてジョッキのビールを飲み干した。


「失礼を承知で言いますけどね……佐野主任は別れたくないとか信じたいとか思ってるんでしょうけど、ちゃんと自分の目で現実を見た方がいいと僕は思います」

「うん……そうだね」


 ついこの間まで直属の部下だった歳下の瀧内くんに正論を突きつけられ、返す言葉もない。

 またしてもあまりの情けなさにガックリと肩を落としていると、葉月がポンと私の肩を叩いた。


「志織の気持ちはわからんでもないし、私もできるもんならぶん殴ってやりたいって気持ちはあるで。せやけど……やっぱり橋口とは別れた方がええんちゃうか?ちゃんと志織だけ大事にしてくれる人探した方がええと私は思う」

「……うん……やっぱりそうだよね。そうなんだろうけど……」


 それは頭ではわかっている。

 わかっているんだけど瀧内くんの言った通りで、やっぱり好きだから別れたくないし、現場を見てしまったというのに心のどこかでは信じられなくて、あんなにひどいことを言われてもまだ護を信じたいと思ってしまう。

 私が何も言えないままうつむいていると、葉月が何をひらめいたのか嬉しそうな顔をしてパチンと手を叩いた。


「そうや!ええこと思い付いたわ!志織さっき言うてたやん、別れたくないけど二人に痛い目見せてやりたいって」

「うん……」

「瀧内、奥田と付き合え!」


 それを聞いた瀧内くんは思いっきり眉間にシワを寄せて、激しく首を横に振った。

 今までに見たことのない反応だ。


「イヤですよ!って言うか、絶対に無理です!!僕、商品管理部にいるときから生理的に彼女は受け付けないんです!耐えられません!!」


 どうやら瀧内くんは奥田さんのことがとてつもなく嫌いらしい。苦虫を噛み潰したような、この上なくイヤそうな顔をしている。


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