第25話 因果はぐるぐると巡る




《天内 源十郎》《ライレン》《大願》《南無阿弥陀仏》




 精神の消耗からか炯眼の力が弱まっていたので、湯あがり後はしばらく休んでいた。体調や気持ちが上向きになるにつれて自然と回復はしている気がするけど、まだ万全とは言えない感じ。


 そのあいだパソコンで単語検索をかけたが、期待した情報はすぐに出てこなかった。めげずに小一時間ほどかけて、ようやく一つのホームページにアタリを付ける。


 紫雲山しうんざん 源処寺げんそじ 天内あまない浄源じょうげん


 ……こいつだ。

《大願》《南無阿弥陀仏》も仏教に関わる言葉だったし。

 何より顔写真が載っていて、アリカちゃんに似てる……。


 まず間違いなくアリカちゃんの父親。面影がある。

 おじさんで髪の毛は剃っているけど、かなりの美形イケメンだ。

 若いうちは女難……そっち方面の煩悩に悩まされたんじゃないかな?


 プロフィールで裏も取れた。

 本名は聞き出した通り、天内源十郎げんじゅうろう。紫雲山、源処寺ってところの住職。

 ここから車で20分くらい。電車だともう少しかかりそう。


 結局のところ……

 こいつさえ何とかしてしまえば、大願は止められる。君臨するトップの暴走。そんなにおいがする。カルト教団への偏見ともいえるけど。


か、考え方をか」


 問題はライレンのような――瞳を持っているかだ。

 その場合は、炯眼の使い方は限定される。そして……これが最も難しい問題かもしれないが、。昨日と違い勝つ見込みはかなり薄いだろう。正面きって相手取れば負ける。いかに直接の対決を避けるか考えた方がいい。ほんと戦いたくないんだあいつとは。


 もう具体的に作戦を練らないといけない段階に来てる。

 近い未来、ライレンが来るまでにプランを用意しなくちゃ。

 ……前途多難だなあ。


「んっ……あ゛ぁ゛痛たた……」


 伸びをしたら、右肩に引きつれるような痛みが走る。

 あわてて背中を丸め、キャラゴム留めしてる垂れた髪をはじく。


 シロの方を見たが、目を閉じている。シロもずっと休んだまま動かない。

 眠っているのに、声は聞こえてるみたい。そんな反応だ。 


 お風呂の鏡で確認したけど……切られた傷はこのままじゃ痕が残る。

 人前でドレスや肩開きの服が披露できないのは、私の未来にとってかなりの損失だ。ちゃんと日常に戻れるならだが。

 大声で泣きたいくらい悲しい。でも涙を流すのは、ぜんぶ終わったあとに取っておく。そんな時間はないんだよいまの私には。


 ちゃんとお医者さんに縫ってもらった方がいいかな? これからの荒事に向けて動きが阻害されるとやりにくいし。それに……病院に行くのは、現状かなり有効だと思う。


 ライレンは一人でくる、と言った。


 なんとなくだけど、病院……関係のない人のいる場所なら、攻撃とかは仕掛けてこない気がする。人を盾にするようで嫌な気分だけど。

 いま一瞬、患者さんたちを操ってライレンの動きを止めることを思い付いたが、思っただけだ。すぐに頭からかき消える。

 もし、それを実行するとしたら……私の中の鍵と門を


 待合室にいる時間にゆっくり納得しながら考えられるのも利点だ。なら解消すべき点は……シロと離れない方法――




 玄関のベルが鳴った。




 シロは眠っている。

 炯眼は……まだ完全には戻ってない。


 ――すぅ、はぁ。――すぅ、はぁ。


 落ち着け。

 もしライレンなら、お行儀よくチャイム鳴らすか? あいつのにおいじゃない。来ればわかる。最低限、シロと一緒に家を飛び出せる範囲での索敵と警戒はしてる。

 少なくともとげとげした敵対するにおいはしない。敵じゃなさそうだ。まあ今の私に味方はいないけどさ。


「……はい、誰ですか?」


 ドアの覗き窓から距離をおき、返事をする。

 誰か確かめようとして不意を打たれるよりはいいし、それにドアなんて炯眼には意味の無いものだ。

 ここからでも見える。表面上の気持ちや、おおよその形は。

 ……女性だな。それも――




「ああ、良かった。上〇沢署から来ました、武市たけち柚澄ゆずです。あなたに関わることでお話したいことがあります。少々お時間をいただけませんか?」




 知っているにおいがする。

 でもどこで会ったんだろう? ……思いつかない。




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