ツララと僕の理由

スープを食べ終わった後、僕はツララに話しかけた。

「ツララは他の町に行ったことがあるの?」

ツララが外の世界から来たことは知っていたが、

僕は今までこの話を聞いたことはなかった。

理由は二つあった。


ツララがその話をすることで傷ついてしまわないか。

僕が町の外に出て、自分の目でみる前に外の世界を聞いてしまうことは

なんだかずるいことの様な気がした。


きっと今になって思い返すと僕はこの時不安だったのだろう。

今までは町や母に守られてきたが、明日からは僕は

全く知らない未知の世界や誰にも守ってくれない世界に

たった一人で生きて、答えがあるのかもすら分からない旅をするのだ。

きっとツララは僕のそんな感情を察していたのだろう。 


「うん、あるよ」

言葉を紡ぐツララの表情はどこか後悔とうれしさを混ぜた顔をしていた。

「それってこの町の近く?」

「ううん。私はこの町に着くまでの記憶がとても曖昧で覚えていないの。

でも、私が子供のころに行った町は凄く素敵だったわ」

「え!?やっぱりこの町以外にも人間たちは生きているんだね?」

「うん。生きている。それもいくつもの町があるわ。

少なくとも今私が思い出せる範囲では5つの町までは行ったことがあるわ」

そのツララの答えを聞いた僕はどんな顔をしていただろう。

ちらっと僕の顔を見たツララが今度は問いかけてくる。


「もっとほかの町のこと、聞きたい?」

「・・・うん。聞きたい。その町たちはどんな暮らしをしていた?

どんな人たちがいた?食べものはいっぱいあった?」


堰を切ったようにあふれ出す僕の質問にツララは嬉しそうに話し始めた。


「まず、一番最初に訪れた町は植物の町だったわ。

こんなにも雪が降る世界で、その町は緑にあふれていたわ。

実はね、その町の地下には大量の温水を流している管が敷き詰めてあって、

地面がほかほかとあったかいの。地面で全然寝れてしまうわ。

地面が暖かいおかげで、植物が育つの。

そしてその植物たちが色とりどりでつやつやな果物をつけるおかげで、

いつでも新鮮な果物食べ放題。

町に暮らす人たちは笑顔にあふれていたわ。」

「いいな、まるで天国なみたいな町だね。僕もその町行ってみたいなあ」

「行けるわよ。だってセツは明日からこの町の外に出るんでしょう!

きっと頑張って旅をしていたらいつかきっとその町にいけるわよ!」

「・・・そうだね。そうだ。僕はそんな夢みたいな場所を見つけて、

この町をお母さんたちを救いたいんだ。

その町があるってことはきっと僕たちが幸せに暮らせる場所を見つけられるよね」

「うん!きっと見つかるわ。そしてセツたちは幸せになれる!」

ツララの満面の笑みと自信満々の言葉に今まで僕の心を覆っていた

不安の膜が薄れ、希望や楽しさがぽつぽつと湧いてきた。


「ツララ、もっと他の町の話はある?ほかの町も植物の町の様に

天国みたいな町だったの?」

「そうね・・・。植物ばかりではないけど、幸せな町はいくつもあったわ。

例えば私が三番目に訪れた町では・・・・・・・」

僕とツララの話はそこから一度も途切れることがなく、ずっと続いた。




ツララとの5つの町の話が終わり、僕の不安はすっかり消え明日の希望が

たっぷりになった後、僕と一つ素朴な質問をツララに投げかけた。


「そいえばツララ。そんな天国みたいな町に行っていて、なんでその町に

住もうとしなかったの?」

その質問にツララはふっと口を閉じ、すらっと伸びた人差し指を

おでこにあてて考え込む。

「・・・・・・それが思い出せないの。町に入って少し暮らした記憶は

思い出せるんだけど、どうやってなんで町をでたのか・・・、わからないの」

「そっか、まだ調子が良くなって少ししかたっていないもんね。

きっと何か理由があったんだよ。ほら例えば、明日からの僕みたいに

ツララは色んな町を旅することが目的だったとか。」

僕はツララを励ますようになるべく明るい口調でいった。


「うん。きっとそうね。」

ツララは嬉しそうに少し笑顔を浮かべる。

「あ、でも一つ覚えているわ。私がいくつもの町を訪れた理由。」

「え?そうなの。たまたま旅をしてから見つけたんじゃなくて?」

「うん。たまたまじゃないわ。私はその5つの町でやりたいことが目的が

あって訪れたの。」

「そうなんだ。なにその理由って?」



「お掃除よ。世界と町の。」




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