第2話 落下するペンと一秒間のダンス

 あたし、大杉葵。

 恋に生きる中学二年生。


 昨日は席替えだった。

 何と、翔斗しょうと君と隣同士になった。


 でも、ちょっとだけ不満。

 それは……

 何でうちの学校は、

 机をペ ア で く っ つ け な い の!?

 ってこと。


 先生、ペアっていいよ~。

 教科書忘れても見せてもらえるし(忘れるな)。

 宿題忘れても見せてもらえるし(忘れるな)。

 急に指名されて答えを忘れてもこっそり教えてもらえるし(忘れるな)。


「……さん、大杉さん……葵ちゃん?」

「ひゃいっ!」


 急に翔斗君に呼び掛けられて、思わず声が裏返る。


「な、何? 翔斗君」

「何、じゃないよ。その……」

「え……これ?」


 あたしが指先で弄んでいたシャープペンを指差す翔斗君。


「鉛筆……じゃないね。先が金属だ」

「これは……ね」


 その筆記具が翔斗君に見えるよう、ペン先を上にして立てて持つ。


「ピュアモルトオーク軸鉛筆デザインシャープペンシル」


 翔斗君はシャープペンを見つめ、柔らかく微笑んだ。


「かっこいいね」

「あ……ありがとう」


 頬が火照るのを感じる。赤くなってたらどうしよう……。

 思わずシャープペンを握って机に押し付ける。


 シャープペン、かっこいい。

 シャープペンのチョイス、かっこいい。

 チョイスした葵ちゃん、かっこいい。

 かっこいい。かっこいい。かわいい……

(脳内変換中)


「葵ちゃん。あんまり力を入れるとバネによくないんじゃ……」

「え?」


 慌てて握った手を離す。

 次の瞬間――

 シャープペンは宇宙天井に向かって射出された!


「あ」

「やばっ」


 あたしの手は、大気圏離脱の方向へ飛ぶシャープペンを追って跳躍した。

 だが、


(何っ!?)


 後から跳躍した筈の翔斗君の手が驚異的な速度で迫る。

 二つの手が飛翔体シャープペンに並んだのはほぼ同時だった。


 シャープペンを掴むべく、指先を伸ばす。

 照準がずれ、中指がかする。

 ほぼ同時に翔斗君が捕獲動作に入っていたが、あたしの指で軌道をずらされたシャープペンは、彼の指もすり抜ける。


 まだまだあっ!

 突き出す指先。


「っ!」

「あ、ごめ……」


 今度は互いが遠慮して手を引っ込めてしまう。


 シャープペンは机でバウンドし、二人の間の通路へと軌道を変えた。


 よし、今度こそ!


「痛っ!」


 焦って手を伸ばしてせいか、シャープペンがペン先から落下してくるところに指を出してしまった。


 あたしの指を刺した挙げ句、さらにバウンドして飛んでいく凶器シャープペン


「よっ、と」


 墜落直前で、ようやく翔斗君がキャッチしてくれた。


「はい。全く……活きのいいシャープペンだったね」


 翔斗君がシャープペンを差し出す。と、その視線はあたしの指先に向けられた。


「あ、さっきの……血が出てる」

「やっぱ刺したか~。確か絆創膏が……」

「はい、絆創膏」


 何ですと~!?

 ま、負けた……

 いざというときにどこにあるかわからなくなるからって、絆創膏早出しを日々鍛え続け、ついには○元○介を超えるスピードを叩き出すに至ったあたしが、男子に負けるなんて……


「大丈夫?」

「ふっ。今のスピードは、なかなかだった……ぜ……」

「え?」


 こうしてあたしは、翔斗君の絆創膏リヴォルヴァーでハートを撃ち抜かれ、教室という荒野に倒れ付した。

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