世界タービン

 世界タービン。世界を回すエネルギー源。そんなもの、誰でも知ってる。誰にも見えない、触れない、どんなものかもわからない。だけどみんなが知っている。どこにあるのかって?それも分からない。それでも、多分一番タービンに近い街ならわかる。世界タービンの稼働する、なんだか独特なぎゃるぎゃるという音が世界中どこよりも激しく、楽しげに聞こえる街がある。たぶん、そこが一番近いんだろう。だからかは知らないけれど、とっても栄えてる街でもある。「夜以外眠らない街」だなんて呼ばれて。

 世界タービンが止まれば夜が来る。それはもう底なしに来る。真っ暗闇になるし、生き物はなんだか元気がなくなってぐっすり眠る。電気とか水道とかも止まるし、なんでかは知らないけれど炎も元気がなくなるみたいで、全然燃えてくれない。

 それで、朝になったらまた回りだし、新しい1日の始まりだ。希望の朝だ。


 その日は世界タービンがよく回っていた。朝になり、ゆっくりと動きはじめたと思ったら、ちょっとづつ加速して、いつもの速さよりちょっと早いくらいになっていた。稼働音がぎゃるぎゃるとその街中に鳴り響き、明るいエネルギーで満ち溢れる。そんな素敵な1日。

 まず、突然タービンは止まった。ぴたっと。ぱたっと。きっかりと。

 街中から灯りが消える。人々は熱を失う。地を這い、ざわめき、うめき、うごめく。熱がないからざわめきはそんなには広がらないけれど。

 動き出せと願う人々。動かないタービン。熱が奪われる。光が消える。力が抜ける。それで、世界中が眠りについた。


 そしたらどうなったか。なんと、タービンが逆回転を始めてしまったんだ、これが。

 世界タービンは世界中に光あふれる暖かなエネルギーをバラまいている。じゃあ、それが逆回転を起こしたら?エネルギーは吸い取られていくのだ。るぎゃるぎゃと普段とは逆の音がして、逆の方向に回るタービン。

 外は「夏みたいな気温」という予報だったのに真冬みたいな気温になっちゃっている。息を吐いたら多分真っ白になるだろう。まあ、息を吐ける生き物はみんな寝てるわけだが。

 明るいところは暗くなり、暑いところは寒くなり、動くものはぜんぶ止まる。

 それも過ぎたら、なんと時間まで戻し始めた。簡単な話だ、全てのものはタービンのエネルギーではじまって、エネルギーを使い潰して、使い切ったら終わっていく。だからそりゃ、エネルギーを吸われたら始まる前まで戻るのは当然の話だろう。

 戻る。戻る。戻る。老人から子供へ。死者から生者へ。「おしまい」から「昔々」へ。全部。余すことなく。


あー、大丈夫よ。タービンが回るわ。

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ごちゃまぜ怪文書s かわいいねこ @nekocat1

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