#13 魔石
「へぇ、ここが君らの家なんや」
先日のクエストの件で相談にのってもらうため、ケンジさんに時間をとってもらった。
「すみません、わざわざ」
アイナが紅茶を出した。
カップはリトル・ヒューマン用の小さい物だ。
「いい家ですやん?
っていうか、君ら一緒に住んでんのん?
新婚さんなんやな」
「違いますっ!」
アイナに速攻、否定されてしまった。事実だけど、何か悲しい。
ちなみにじーさんは自室に閉じこもってボトルシップを磨いている。
彼は俺たちのやることにあまり口出しせず、笑って見守るだけというのが多くて助かる。まあ、俺たちもそれなりの金額を納めてるし。
「はっはっは、照れんでええで。
で、俺に相談って」
「実は……私たち、例の女騎士に出会って、捉えられてしまったんです。
何とか脱出できたんですが、魔方陣を踏んだらいつの間にか鉱山に転送されていて……。
ギルドに行っても『証拠がない』の一点張りで取り合ってくれなくて……」
ケンジさんはアイナの説明が終わると、紅茶を口にした。
「……で、例の“女騎士”って何や?」
「え? この前、話に出た」
ケンジさんは身を乗り出して、ニヤリと笑った。
「だって君らは『トラックに跳ねられてここに来た』んやろ。
なんで『例の女騎士』ってわかるんや?
あれは向こうの世界のゲームの話やろ。
君らは見てないはずや」
「……あ」
アイナは肩を落とす。
ケンジさんは椅子に身体を落とし、カップを持ったままウインクする。
俺がアイナの代わりに答える。
「……俺たち、どこ行っても強すぎるパワーの事聞かれて……。
自分たちで分からないのに答えられませんよ。
うんざりしてたんですよ。
適当に答えたアイナの気持ちも分かります」
「当たり前やろ!
君らのパワーは俺かてうらやましい。
俺もワンパンでパワーゴーレム倒してみたいわ。
それにな。今の話を聞いても、嘘をついて良い理由にはならんと思うけど、違うか?」
「あ……」
ケンジさんは静かにカップを置いた。
「嘘はいかんよ、嘘は。
ひとつ嘘をつくと、それを守るためにさらに嘘を言わないとアカン。
それを重ねていくと、呼吸するように嘘をつく生活を送らざるを得なくなる。
つまらん人生やで。
そういうのは周りからはミエミエ。騙せてる思うとるんは自分だけや」
「な……なら、何て答えたら良いんですか?」
「正直に言えばええ。
分からない事は『分からない』でいいんや。
話したくなければ『話したくない』。
……君らの場合、『秘密』の方がええかな?」
「秘密、ですか」
「ああ。
これで謎があるけど教えられないというニュアンスがあるやろ。
『話したくない』よりは言葉として柔らかいしな」
アイナが強く頷いた。
「分かりました! ありがとうございます。
……それからごめんなさい」
ケンジさんはアイナをにらみ返し、そして突然ニッと笑った。
「よっしゃ! 許す。
これでこの話はお終いや。
本題にはいろか」
俺とアイナは代わる代わる例の事件の事を話した。
ケンジさんは時折質問を挟みながらも真剣に聞いてくれた。
「鳥籠から脱出したは良いんですが、どこか分からなくて。
俺がうっかり魔方陣を踏んだら、いきなり景色が変わって炭鉱の中にいたって訳です」
「それで私たち、ギルドに報告したんですが報告内容と実態が合わないって、失敗扱いになっちゃったんです」
「……それは難儀やったなぁ。
気になる点はいくつかあるけど……まずは君たちについてやね」
「私たちですか?」
「ああ。君たちはメチャクチャ強い。
でも、それにアグラをかきすぎや。
炭鉱という場所に行くには、あまりにも準備がなさ過ぎる。
まず、それは反省すべき点や。
ゲームならダンジョン前に必要なアイテムが宝箱に入っとるが、実際にはそんな事、あらへん。
しっかりと下調べして行かな」
「はい……」
「あと、君らは強いけど無敵ではないっちゅうこと。
睡眠ガスが効くんやからな。
例えば、紅茶に毒でも入れておいたらイチコロや」
そう言ってケンジさんは空になったカップを見せる。
「あ……、すみません」
慌ててアイナがお替わりを注ぐ。
「ああ、すまんなぁ、催促したみたいで。
真面目な話、君らは命狙われる可能性高いから気ぃ付けた方がええよ」
「……命、ですか」
「ああ。
嫉妬で人を殺す奴なんかいくらでもおる。
君ら倒せば格が上がるなんて理不尽な考え持ってる奴もおるかもな。
だからこそ、周りと仲良くしておく方がええ。
信頼を得ておくのは重要やでぇ。
そんで……女騎士やけど」
ケンジさんはカップを置き、少し考え始めた。そして手帳を取りだし、俺たちに見せないようにめくり始めた。
俺たちはそれを黙って見守る。
そして、重い口を開いた。
「うーん。
やっぱり、こっちで見たいう人はおらんなぁ」
「……そうですか」
がっくりと肩を落とすアイナ。
「フルフェイスヘルメットを付けているのなら、普段は外しているんやろうなぁ。
案外近くにおるんかもしれんで」
「やめてくださいよ」
「人としては相当強かったんやろ?」
「はい。私たちを除いたら最強レベルかも……」
「俺、こう見えても顔広いんや。
大抵のリトル・ヒューマンとは面識がある。
でも、そんなに強い奴はおらん。
もちろん君らを除いてやけどな。
その女騎士は……その気になれば、大概の奴は瞬殺可能。
未熟な君らにも勝てる、そう思ってるんやろ」
俺の脳裏に、影武者の無残な最後が思い浮かぶ。
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ。
人が死んだら、騒ぎになるんじゃないですか?」
「残念ながら、この世界では人の死は軽いんや。
でないと冒険者なんて職業は成り立たん」
「……」
突然、ケンジさんが俺を指さした。
「マー君、奴は君に『私を愛せ』と言うたんやろ」
「……はい」
「理由は分からんが、その言葉に嘘はないんやろうなぁ。
奴は君の強さに惹かれとる。
でなければ、とっくに殺されとるよ。
だって、眠らされたんやから」
「なら、アイナは?
俺が目的ならアイナは不要でしょう」
名指しされたアイナはちょっとムッとした顔をする。
ケンジさんは眉をしかめて言った。
「……保険かなぁ。
そもそも、どっちでも良かったんかもなぁ。だから生かしておいた。
ヒトの趣味は色々やから」
アイナの顔が真っ赤になり、彼女は下を向いてしまう。
「君が、たまたま先に目覚めたから……。
たまたま影武者が死んでもうたから……か」
「たまたま……ですか」
「なにしろ、現状では材料がなさ過ぎる。偶然か、必然かすらわからん。
マー君を愛するってのも、本気かどうかわからんしな。
とりあえず材料を集めるのが最優先や。
あと、とにかく油断大敵っちゅー事やね。俺もちょっとその辺、調べてみるわ」
俺は例の魔石を取り出した。
「で、ケンジさん、これ……」
「ほう、これが君らを封じた石か。
ちょっと見せてもらってええか?」
魔石を渡すと輝きは消え、うっすらとした輝きに変化した。
ケンジさんは手のひらで転がしたり、透かしてみたりした。
「うーん、ちょっと分からんなぁ。
これに君らのデタラメな力を封じるようなエネルギーがあるように見えんなぁ。
……そや! 君ら、西の街まで行く暇あるか?」
俺とアイナは互いに顔を見合わせる。
「特に問題ないですけど。
ただ、俺ら、行ったことないんですけど」
「そか! なら、すまんな。
紙とペンかしてくれへんか?」
ケンジさんはペンを取り、1枚目の紙に地図を、2枚目の紙に不思議な図形を描いて俺らに渡した。
「ここに行けばいいんですね。
で、これは何ですか?」
「それは……へへん、“秘密”や」
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