#11 鳥籠
翌日、俺たちはクエストに向かっていた。
場所は、以前パワーゴーレムが守っていた鉱山。
解放されたはずの鉱山で抗夫たちが襲われたそうだ。
その調査、できれば討伐というのが依頼内容になる。
「つまり、何が起きるか分からないって訳ね」
「ああ! 以前、俺たちがやった仕事の後始末って訳だ」
「あの依頼はパワーゴーレム退治だけだったから、私たちにミスはないのにね」
「まぁ、あれが出てきたら対応できるのは俺たちくらいしかいないだろう、仕方ないさ。
あと忘れてるかもしれないが、スライムもいたからな」
「はは……忘れてた。マー君、よろしく!」
「お前なぁ……」
くだらない話をしているうちに鉱山の前に着いた。
「ゴーレムは……いないみたいだね」
「これは鉱山の中に入るしかなさそうだな……」
俺は松明を取り出した……。
「どうしたの?」
「これ、どうやって火を付けるんだっけ?」
「えぇっ! マッチとかライター持ってこなかったの?」
「……すまん、すっかり忘れてた」
「うーん、しょうがない。
街に戻ってライター買ってこようか?」
「いや、アイテムで何とかなるさ」
俺はポシェットから青い魔法石を取り出す。
指先でつまんで、粉々に砕く。次に鉱山入り口にある赤い魔法石をロングソードの柄で削り取る。
同じく粉々に砕いた青い魔法石に振りかけると青い炎が燃え上がった。
素早く松明をかざすと炎が灯る。
「さすが、マー君。
何とかしちゃうね」
「もっと褒めてくれていいぞ。
さて、チャッチャッと片付けちゃおうぜ」
アイナはコクリとうなずく。
松明をかざした俺、アイナの順番で鉱山に入っていく。
かなり天井が低い。
鉱山と言うよりは、単なる洞窟といった感じだ。
つまり、あまり開発された風ではないのだ。
足音が狭い洞窟に響く。
「なんか、ちょっと怖いね。マー君」
「これじゃあ、肝試しだよなぁ。
あっ、分かれ道」
アイナはマッピングを担当。俺はナイフで壁に直接、印をつけた。
ゲームではない。迷ったら死に繋がる。
ケンジさんに散々言われたことだ。
「ねえ、マー君。突然モンスターとかが襲ってきたりしないよね」
「とりあえず、前後をチェックするしかないだろう。
後ろは頼むからな」
「う、うん……。あれ?」
「どうしたっ!」
「ごめん、気のせいみたい。
ここって、鉱山として機能してたのかな?
ほんと、お化け屋敷とかそんな感じ」
「うーん。そもそも、あんまし人が入った形跡がないんだよな。
鉱山とかなら普通、運び出すトロッコとかがあるんじゃないのか?」
「だよね」
すると突然、異質な声が響く。
「……ふふふ。それはね、私が必要な魔法石がそんなに採れないからなんだよ」
俺とアイナは素早く背中合わせになって、構える。
「誰だ!」
「ここだよ」
突然、アイナの脇に人影が現れ、ショートソードを振る。
アイナは素早く避けるが、壁に当たって体勢を崩してしまう。
「くそっ!」
俺は慌てて剣を抜く。
が、長すぎて天井に当たってしまう。
「馬鹿だねぇ、そんな長い剣、ここじゃ役に立たないよ」
左手に松明、右手にロングソードでは分が悪い。
俺は松明を捨てた。
剣を構え直そうとする俺の懐に敵が潜り込む。
「速い!」
「無駄な動きが多いんだよ、坊や」
トンと俺の胸を突くと、予想よりも強い力で俺は吹き飛ばされてしまう。
「くそっ! 油断した」
その間にアイナはハンドナイフを構えた。ハンドナイフは武器ではなく、工具。
敵の得物はショートソード。
本気でふたつの刃物がぶつかり合えば、ハンドナイフは簡単に折れてしまう。
薄闇の中、火花が散る。
不慣れなアイナは自身の持つパワーを活かしきれず、防戦一方。
「し……信じられない。この人、パワーゴーレムよりも力が強い」
アイナも吹き飛ばされる。
完全になめていた。
パワー自体は俺たちの方がはるかに上だ。
不意を突かれたこと、狭い洞窟にロングソードと不適切な装備のままクエストに挑んだこと。
そもそも俺たちは広いフィールドでの戦いばかり行っていて、洞窟での戦闘は自体初めてだ。
敵は地の利を活かして、俺たちを圧倒していた。
“最強のレベル1”とまで呼ばれた俺たちを。
「大丈夫か? アイナ」
「大丈夫。けど……、ここでは分が悪いよ、マー君」
ゆっくりと近づいてくる敵の姿が炎によって浮かび上がる。
人だ。
しかもリトル・ヒューマンの女。
まさか、その姿をここで見る事になるとは……。
「女騎士っ……」
「まさか、実際にいたなんて……」
俺とアイナがこの世界に来る直前、ゲーム内で戦ったチートキャラ。
敵はそのままの姿をしていた。
身長はアイナと同じくらいだが、遙かにグラマラスなボディである事が見て取れる。
顔はフルフェイスヘルメットで覆われて確認できない。
「でも、俺たちの方が強い」
その言葉を聞いた女騎士は笑い始めた。
「何を言ってるんだい、坊やたち。
あんたたちは単なる力押しだけの素人じゃないか。がっかりだよ」
俺は拳を握り、腰を落とした。
「単なる力押しかもしれないが、あんたには止められないぜ」
「あんた、ほんとに馬鹿だねぇ。
こんな所でご自慢の馬鹿力を使ったら、洞窟が崩れるよ。
ひょっとしたら山崩れが起きて街が埋まっちまうかもしれないねぇ」
「くっ……。
しかし、あんたのパワーじゃ俺にダメージを与えられないぜ。
俺たちのパワーはあんたを遙かに上回る」
「確かにね。
あんたたちは強い。でも完璧じゃない。
つけいる隙はいくらでもあるのさ」
そう言って女騎士は懐からだしたボールを地面に叩きつけた。
たちまち洞窟に煙が広がる。
「たとえばガス。
あんたたちはとんでもないパワーを持つ筋肉を持っているが、それだけさ。
鋼の肉体も、中身は鍛えようがないからねぇ。
いや、むしろ食物からエネルギーを貪欲に取り込むから、常人よりも毒に弱いと言える」
奴の言うとおりだった。
俺たちは身体が痺れ、視界が歪む。……意識が……遠のいて……いっ…………た。
俺が眼を覚ますと、そこは檻の中だった。
人、ひとりが横になれる程度の大きさの円形のステージ、そこから上に向かって生える無数の鉄柱。
そしてそれは途中で曲がり、集中線を描くように真上に集結していた。
「これはまるで、鳥籠だっ……」
だんだんと状況を思い出した。そうだ! 俺たちは女騎士に負けて……。
「アイナっ!」
アイナは隣の鳥籠に閉じ込められていた。
気絶はしているが、無事なようだ。
「あら、もうお目覚めかい。
タフだねぇ」
俺は思わず身を固める。
人の気配に気付かなかったのだ。
声のする方向に振り向くと、誰かいる。
例の女騎士なのだろう。
身体に密着した薄いインナースーツにフルフェイスヘルメットという不思議な格好。
そのため、表情は読めない。
「ここはどこだ」
「さあね、知る必要もないね。
そもそもお前たちはここから一生出られない」
俺は鼻で笑う。
「それはどうかな?」
閉じ込められた鳥籠はラフな作りに見える。
俺のパワーなら、ドラゴンですら閉じ込められる檻ですらも簡単にぶち破る自信がある。
両手で鉄柱を掴み、思いっきり力を入れ左右に広げる。
みてろ……こんな物……簡単に……。
おかしい。
この程度の鉄柱、たやすく曲げられるはずなのに、ビクともしない。
「どうした、何をしている?」
女騎士がケラケラ笑う。
「くそっ! ふん……ぐぅぅぅ……」
今度は本気中の本気。
全身のパワーを二本の腕に集中させる。
集中したパワーが筋肉を大きく盛り上げる。
……が、……なぜか……くそっ!
「はぁ……はぁ……はぁ……」
鉄柱はビクともしない。
初めて経験する息切れという現象。
今、俺は、俺の身に何が起きているのかが理解できなかった。
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