新生活の攻防。
私の引っ越しから数週間後。
夫の仕事が春休みに入って最初の日曜日だったか、夫が正式に引っ越してくることになった。
ゼミの学生にアルバイトを頼んで、自分で軽トラを借りて、何度かに分けて大きな家具や大量の段ボールを運び込む。
私の方は受け入れの準備をしておいて、搬入も手伝おうとしたのだけど、大量の段ボールはほとんどが本だったので、一つ運ぼうとしたら、もう腰にきそうになった。
若くてピチピチの男子学生が「あ、やりますから、無理しないでください!」と明るく言ってくれて、私は「それはこっち、あれはあっち」と指示するだけの係になった。
全部終わったあと、学生たちを引き連れて、ちょっとお高めの和食屋さんへ行く。お礼にごはんをご馳走して、アルバイト代もそこで渡した。
明るくはしゃぐ学生たちと、それを保護者みたいにニコニコと眺めながら、時々口を挟む夫を見て、微笑ましい気持ちになる。
一人、おとなしい女の子がいて、「あ、夫のことが好きなのかな」と思った。
どの程度のどんな種類の好きかはわからないけど、恋心のような、大人の男性への憧れのような、父性への思慕のような、そういうものを先生に感じたことが私にも一度ならずある。
私はその子に時々話しかけた。
礼儀正しくて、とてもいい子だった。
というわけで、新生活のスタンバイOK。
ここから二人暮らしのスタイルを正式に整えていくことになる。
まずは、すでに私の家具や荷物で完璧に整っているように見えるところに、夫の荷物をはめ込んでいく作業。
私が余白がほしくてわざと空けてあるスペースに、否応なく、というか、開き直ったような思い切りのよさで、夫が自分の慣れたモノをズカズカ置いていって、「あー、やめて〜」と私は心の中で悲鳴を上げ続けた。
たとえば、トイレは掃除のしやすさ優先で床に物を置きたくなくて、空間に突っ張り棒で棚をつけているのに、夫は小さい棚を床にドンと置く。
授業のスケジュールに縛られて自由にトイレに行けない夫は、朝のトイレが長い(思う存分出し切っておきたいということらしい)。その間の退屈しのぎのためにいろんなものを持ち込む。だから、そういうのを置いておく台が必要なんだそうだ。
リビングの棚の上も、必要最小限のものしか置きたくなかったのだけど、夫がいろんなものを足していく。
ペン立て、ティッシュ、次々とくる郵便物……etc.
ペン類はすでに何本も引き出しに入ってるし、ティッシュは一部屋に一つでよくない?
ゴミ箱も数カ所に置かれた。これも一部屋に一つにしたいのに。。。
そこで気づいた。
これは攻防戦なんだ。
自分にとって一番快適な、これまで通りに近い環境をいかにして作るかを、お互いが無意識に探り合い、既成事実を作った方が勝ち、みたいな。
私の方が先に引っ越したので、私にとっていいように先に整えられたわけだけど、そこに割り込むみたいな形になった夫の方は、実は(無意識ながらでも)必死だったのかも。
にしても、閉口したのが時計と温度計——それも湿度計付きの——の多さ。
至る所に置かれ、私好みに飾り付けた棚で違和感を発揮しまくってる。
私も温度計一つと複数の時計を持ち込んでいたけど、どれも一応おしゃれなものだった。そこに機能性優先のゴッツい立派なものが並ぶ。
先に結婚していた友だちの旦那さんも、そういえばたくさんの高機能な温度計をあちこちに置いてて、友だちが「インテリアに合わなくて困る」ってボヤいてたっけ。
男って、そういうものなの!?
今、うちの時計は玄関1、トイレ1、お風呂1、リビング3、台所1、仕事部屋1、ピアノ部屋1となっている。
温度計はリビング2、トイレ1。ただし、リビングの時計のうち2つには温度と湿度が表示されるようになっているので、実質的にはリビング4だ。
このうえ夫は、外気温を見るために、リビングの窓ガラスの外側にも温度計を内側に向けてテープで貼り付けたかったらしいのだけど、私が阻止した。
ふつうに考えて、それじゃあ窓の開け閉めに困るって思うけど、夫は一人暮らしのころは昼間ほとんど家にいなくて、あまり窓を開けることもなかったらしい。
さておき、残る大問題はベッドをどうするか。
布団生活だった夫は床に、私はベッドに、と段差がある状態を何とかしたいのだけど。。。
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